第7話 『不審なあいつと不審な自分』
『つけてくとか、そういうのじゃないから。ただの偶然だから。』
放課後。
ミコトは、アコウがいつもと違う方向に歩いていくのを見た。
「……コンビニ? 家そっちじゃなかったよね?」
気づいたら、足がついていってた。
いや、別に尾行とかじゃない。ただの、偶然同じ方向だっただけ。
歩くアコウは、さっきの授業中とはまた違う顔をしていた。
どこか、ちょっとだけ覚悟を決めたみたいな、そんな後ろ姿。
(なに、あいつ……やっぱ変だわ)
コンビニの裏口で、アコウは周囲をキョロキョロ見てから、
壁にある「関係者以外立ち入り禁止」の扉を、なぜか平然と開けた。
「ちょっと待って? え、あれ開くの!?」
ミコトは反射的に、近くの自販機の影に飛び込んだ。
息をひそめて、扉の奥をじっと見つめる。
数秒後。
扉の中から、キラッと青白い光が漏れる。
風も吹いてないのに、空気がうねった。
「え、なに? CG? ドッキリ? アトラクション?」
混乱しながらも、好奇心が勝った。
(……いやいや、行くわけないし!バカでしょ!そういうのは主人公がやるもので――)
でも、気づいたら。
アコウのあとを追って、ミコトも扉の中に足を踏み入れていた。
次の瞬間。
視界がぐにゃりと曲がり、色が反転する。
コンビニの冷蔵庫音が消え、代わりに――ざわざわとした風の音が響く。
「……うっわ、なにここ!? え? なに系!?」
そこは、現実とは思えない異空間。
金属と木造が入り混じった階層型のフロア。
空はないのに、天井が見えない。空気は乾いていて、でも生あたたかい。
遠くに、剣を構えたアコウの姿が見えた。
「……あのバカ、マジでなんかしてんの!?」
そしてそのとき、
ミコトの前に――ぬるり、とした影が立ちはだかった。
「アナタの“怒り”は、まだ腐っていない」
「は!? 誰!? 怖い!!」
モンスター? 精神的ホラー? なんか語りかけてきた!?
「ちょっ……帰りたい帰りたい帰りたいってば!!」
でも、出口はもう消えていた。
代わりに、足元に浮かび上がる紋章。
手のひらには、小さなナイフのような武器が出現する。
「え、ちょ、勝手に装備しないで!! わたし戦うつもりないから!!」
だが、ミコトの足が勝手に前へ進む。
怒り――? そんなの関係ないし。怒ってないし。全然。
(……ただ、あのときのことが……)
遠く、誰かの言葉が脳裏をかすめた。
“結局さ、あんたって何がしたいの? なんもないでしょ?”
“うまくやるだけじゃダメなんだよ、人生って”
「うっさい、ほっといてよ……」
ナイフを握る指が、少しだけ強くなる。
そうして、ミコトもまた、“夢を取り戻すダンジョン”の一歩目を踏み出した。