第62話 『ダンジョンのテーマとは?』
ホイップとチョコが揺れる。ブッシュドノエル姿のアコウとミコトは、ゆるやかに広がる雪景色のフィールドを歩いていた。あちこちにクリスマスツリーや雪だるまが飾られ、空からは紙吹雪と本物の雪が入り混じって舞っている。
「でもさあ、やっぱ変じゃない?」
アコウが、ぼそっと呟いた。
「3層はお正月だったし、今回の4層は完全にクリスマス。これ、季節逆じゃない?」
「そう言われてみれば……」
ミコトがうなずき、手にしたクリスマスカード型の武器をくるくる回す。
「ていうかそもそも、ダンジョンの層って季節テーマだったっけ?」
「うーん、それ、あたしも思ってた」
二人の会話を聞いていたユウが、腕を組んで苦笑する。
「……本来の第3層はね、“調理場”だったの。大鍋とか、巨大な冷蔵庫とか、ちゃんとあった。コック帽をかぶった謎のぬいぐるみとか、出てきてたし」
「うんうん、なんか見た気がする。最初の一瞬だけ……」
「けど、気づいたらおせちだらけになってて……」
「正月飾りが、コンロの上にまであったしね……」
「で、今回の第4層。正直、私にも本来のテーマがよくわかってないんだよね」
「ええぇぇぇぇえ!? ダンジョンの案内役がそんなことでいいの!?」
アコウがツッコむと、ユウは手を広げて困ったように笑った。
「いや、案内役っていうか……基本“見守り枠”なんだけどさ。こんな変化、私も知らない。たぶん、こっち側じゃ制御できない異変が起きてる」
「でも、ダンジョンに“テーマ”とか、あったんだね?」
ミコトがふと首をかしげる。
「うん、一応は。“テーマ”と“試練”が、層ごとに設けられてた……はずなんだけど。最近は、それすら崩れてきてる」
「でも、なんで“クリスマス”なんだろう……」
アコウがブッシュドノエルの自分を見下ろしてつぶやくと、ユウが少し真剣な顔になった。
「……季節がランダムになってるの、日常でも感じてたでしょ? 日付が飛んだり、休日がなくなったり」
「うん、正月が先で、今がクリスマスって……何かおかしい」
「もしかして……**“時間そのものが崩れてる”**のかも」
「時間……」
ミコトがつぶやくと、ユウはふっと何かを思い出したような顔になった。
「そういえば、ミメイが言ってた。あの子、こんなことを言ってたの。“この世界はすでに、選択の結果によってゆがんでいる”って」
「選択の結果……?」
「私たちが選んだ行動が、ダンジョンだけじゃなくて現実にも影響してるってこと?」
アコウが眉をひそめて言うと、ユウはゆっくりうなずいた。
「選ばれなかった“時間”が、逆流してる……のかもしれない。どこかで“正月だったかもしれない年末”があり、今は“クリスマスだったかもしれない日常”が投影されてる。そんな風に……」
「うわ、ややこしい!」
ミコトが思わず頭を抱える。
「ていうか、わたしたち、そんな大事な選択した覚えないんだけど!?」
「例えば、宿題やるかやらないか、とか?」
「ミコトそれ絶対関係ないよね!」
アコウがつっこむと、ユウは小さく笑って、
「ま、深く考えすぎても仕方ないか。今は、今目の前のダンジョンを進むしかない。だって――」
と、スマホを構えて突然切り替わる。
「このロールケーキたち、いい光の角度だから!」
「ちょ、いきなり撮影モード入るのやめて!」
「ブッシュドノエルじゃーい!!」
三人の声が、雪原に反響して溶けていく。
――その背後で、気づかれぬまま、微かに“季節を示す時計の針”がまた1つずれていく音がした。




