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第57話 『イルミネーションの下で』

静かな風が吹き抜ける。

粉雪が三人の間にふわりと舞い、赤と緑のライトが彼女たちの表情を照らしていた。

ユウはスマホを胸元に収め、両手をコートのポケットに入れたまま、小さく息を吐く。

「……ねえ、ダンジョンって、最初は誰が作ったものだと思う?」

「え?」

唐突な問いに、アコウとミコトが首を傾げる。

「自然発生的なものじゃなかったの?」ミコトが答える。

「ううん。あれは……意志を持った力が集まってできた“容れ物”。

誰かが何かを願ったり、強く想った時に、形を成していく“世界の裏側”」

ユウはそう言って、空を見上げた。

赤くきらめくイルミネーションの一つ一つが、何かの感情の残滓のように感じられる。

「第3層が“お正月”になったのも、偶然じゃない。

あの時、ミメイが言ってた。“ダンジョンが不安定になっている”って。

私も、自分の存在が揺らいでいく感覚があった」

アコウが不安そうにユウを見つめる。

「……それって、消えるってこと?」

「正確に言うと、“固定されていた私”が溶けていったの。

第3層の終わりで、私の中の霊的な存在……記憶や力の断片が全部流れ出した」

ミコトが小さな声で訊ねた。

「それで、ユウ……ここからいなくなったの?」

ユウは頷く。

「うん。でも完全に消えたわけじゃなかった。

ただ、“存在してはいけない”っていう、何かに引き戻された感じだった」

アコウが拳を握る。

「じゃあ、誰かがユウを閉じ込めたの? ダンジョンの奥に?」

「……多分ね。私も、それが誰かまでは分からない。でも――」

そこまで言って、ユウはふっと笑う。

「でも、あなたたちがまたここまで来たから。

“私がいてもいい場所”に、変わったんだと思う。きっと」

アコウとミコトの間に、しんとした空気が流れる。

「……ユウ」

アコウはユウの手をそっと握った。

「もう、どこにも行かないで」

「……行かないよ。少なくとも、今は」

ユウの目に、わずかに涙がにじむ。けれど、それはすぐにイルミネーションの中に溶けていった。

その時、耳に届いたのはまたしても――

「ピコン」

――【第4層クリア。現在、第5層は未設定です】

そして同時に、周囲のイルミネーションがスッと消える。

空間が収縮するように揺らぎ、またしてもダンジョンの出入口が閉じていく。

アコウは叫んだ。

「ちょっと! また!? またここ、閉じるの!?」

ユウは小さく笑った。

「次は、たぶん……もう少し、時間がかかるかもね」

その言葉と同時に、ユウの体が淡く光り出す。

「――ま、帰ったら連絡くらいは……って、認識阻害の石で届かないか」

「やめてー! せめてメールだけでも返して!」

叫ぶアコウの声を背に、ユウの姿はゆっくりと、でも確実に薄れていった。

ミコトが静かに言う。

「……でも、大丈夫。今度は、きっとまた会える」

アコウは無言で頷いた。

――その時だった。

空間の端、白銀の雪の向こうから、まるで観測者のように、ミメイが現れる。

「……次の“変化”、近いかもしれませんね」

その言葉とともに、世界はふたたび静寂に包まれた。


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