第55話 『コンビニの出現』
■放課後・帰り道
「……え、こんなとこにコンビニあったっけ?」
アコウが足を止めた。
ミコトも隣で立ち止まり、コンビニを見上げる。見慣れた制服姿の学生たちが何人か出入りしているが――店の名前が見慣れない。
『コンビニ・ミナモ』
どこか詩的で、でもチェーン店の名には見えない。
「絶対、昨日までなかったよね……?」
「うん……私もこの道、毎日通ってるからわかる。……でも、なんか見覚えある気がするんだよね。ヘンなの」
そう言いながらも、アコウとミコトは無意識のうちに、その“新しい”コンビニへと足を向けていた。
中は、普通のコンビニと変わらない――と思った。だが、違和感はすぐに訪れる。
棚のレイアウトがどこか奇妙。缶コーヒーと洗剤が同じ棚に並び、奥の冷凍ケースには“文字化けしたようなラベル”の食材が並んでいた。
「……ねえ、これって……」
「うん、たぶん“向こう”だ」
アコウが小さく呟く。
買い物客に紛れて奥へと進み、非常扉のような裏手のドアを開ける。
ギィ……
外はすでに夕焼け。だが、裏手に出た瞬間、空気が変わる。
――風がない。音もない。
薄い靄のかかった狭い路地。その奥に、ぽっかりと空いた黒い“穴”。
その口は、まるで“呼吸”するように微かに波打っていた。
「……第4層、だよね。たぶん」
アコウが呟く。
「うん……でもなんか……これまでの扉と違う。こっちから来てる、感じがする」
ミコトが、不安げに後ずさる。
「それに……この入り口、なんか……生きてるみたい」
アコウはポケットにある“認識阻害の石”を握りしめた。
――やっぱり、何かが、現実と交差し始めている。




