第51話 『第3層クリア』
光がゆっくりと収束していく。
正月の風景が霞んでいき、鏡餅も、鳥居も、ほんのりと霧の中に消えていくようだった。
そして──
「――《第3層クリア》」
耳の奥に直接響くような、機械的な女性の声。
そのあとすぐに、続けてもう一つの通知が現れる。
「《第4層開放時期:未定》」
ミコトが眉をひそめる。
「……未定って、なにそれ」
「初めてだよね、こういう通知」
アコウも呟いた。
いつもなら次の層がすぐに開くのに、今回は違った。
ふと周囲を見ると、すでに周りの空間が、少しずつ“現実世界”に戻りつつある。
空は薄曇り、地面にはいつの間にかアスファルトの質感が戻ってきていた。
「……あ、入り口が……」
ミコトが指差した先、赤い鳥居があったはずの場所は、もう何もない空間へと戻っていた。
まるで「もう来るな」とでも言うように、完全に閉ざされたかのようだった。
「でも……なんで“調理場”だった第3層が、いきなり“正月”になったの?」
アコウがポツリと呟く。
「給食室の名残はあったのに……途中から雰囲気も全部変わってて……」
ミコトも考え込むように顎に手を当てる。
「“新年”って、リセットとか区切りの象徴でしょ? それが関係してる?」
「……何かが、終わったってこと……なのかな」
答えは出ない。けれど、確かに何かが“変わった”という実感だけは、アコウにもミコトにもあった。
「さてと。じゃあ、私はここで……」
そう言って、ユウが二人から少し距離を取ろうとしたとき。
「――待って!」
アコウの声が響く。
ユウは、驚いたように振り返る。
「また、いなくなるつもり?」
「……うん。だって、私がここにいる理由……終わったから」
ユウの声は、どこか寂しげで、でも優しかった。
「勝手に来て、勝手に写真撮って、勝手に消えるって……それ、ずるいよ」
アコウが一歩踏み出す。
「私たち、何度もユウを探してきたんだよ。会いたくて、思い出したくて、確かめたくて……やっと会えたのに、また“理由がない”って消えるの、ほんとにやめて!」
「…………」
ユウは、少し目を伏せた。
「私は……“居ていい”存在なのかなって、ずっと考えてて……」
「いるとかいないとかじゃなくて、私たちが“いてほしい”って思ってるんだよ!」
「そうそう、もうユウなしのダンジョンとか、絶対つまらないし」
ミコトも自然に言葉を重ねる。
ユウはしばらく目を閉じて、静かに息を吐いた。
「……じゃあ、“理由”を探してみようかな。もうちょっとだけ」
アコウが頷き、ミコトも微笑む。
「それでいいんだよ、ユウ」
まるで、年越しをして新年を迎えるような空気の中。
3人は、まだ見ぬ第4層に向けて、確かに“仲間”として並んで立っていた。
そして、その日、ダンジョンは完全に姿を消した。
次に扉が開かれるのは──また、誰にもわからない。




