第27話 『猫耳メイドは覚えている』
■ 帰宅後・アコウの部屋
「……帰ってきたー……」
靴を脱ぎ、制服のままベッドに倒れ込むアコウ。
頭の中には、さっきまでの出来事がグルグルと再生されていた。
猫耳。
メイド服。
巨大なオタマ。
そして、スマホを構えてはしゃぐユウ。
「……なんだったんだ、あのテンション……」
ピロリンッ♪
スマホの通知音が鳴る。ミコトからの電話だ。
「ん……はいはい、もしもし?」
『……ねえアコウ』
ちょっとトーンが低い。ミコトの声が、電話越しに静かに聞こえてくる。
『……私さ、今日のこと、よくわかんないんだけど』
「……ん、え?」
『なんで、私が猫耳つけて、メイド服着て、あんなテンションでポーズ取ってたの?』
「あっ……あぁ、うん、その……」
アコウは一瞬、言葉に詰まる。
『いや、楽しかったよ? なんか妙にテンション上がってたし。
“ほら、笑って笑って〜!”って言われて、つい笑っちゃったし……。
でも、なんであんな格好してたのか、場所も含めて全然思い出せないの。』
「……そっか」
『あれって……文化祭の練習? 罰ゲーム?』
「うん……そんな感じ……?」
“そうじゃないけど、そうとしか言えない……”
アコウは内心、汗をかきながら適当に誤魔化した。
『ていうかさ、あのキツネの人、あんな人だった?
めっちゃテンション高かったよね?
最初ちょっと怖い感じだったのに、“その角度!そう、可愛い!”とか言い出すんだもん……』
「……暴走してたね、完全に」
『ていうか、あれ全部写真撮られてたでしょ!? 待ち受けにされるとかマジで勘弁!』
「いや、もうされてると思う……」
『うわああああああああああああっ!!!!!』
叫び声と共に、ミコトの何かが爆発した。たぶんプライド的な何かが。
『……あー……ま、でもさ。なんだかんだで……なんか、楽しかったんだよね……不思議』
「うん。そうだね……」
『たださー、どうしてその格好してたか、どこでやったか、さっぱり思い出せないのよ』
「……そうか」
アコウは少しだけ、寂しそうに笑った。
『でも……今度は忘れないようにするよ。絶対。
アコウと一緒にいたってことだけでも覚えてたいから』
「……うん」
ピッ
電話が切れたあと、アコウはスマホを胸にのせて天井を見つめる。
「……あの人、ほんとに暴走してたな……」
撮影会。
ポーズ指定。
笑顔要求。
自撮り強制。
そしてあのはしゃぎっぷり。
「……ユウさん……ナイス暴走……」
親指を立てて、小さく笑った。
■同時刻・観測空間:ミメイ視点
ミメイは、虚空に浮かぶデータを淡々と眺めていた。
観測対象:アコウ → 記憶保持中
副対象:ミコト → 部分記憶保持(状況情報消失・感情情報保持)
「……例外」
静かに、ミメイの唇が動いた。
「“記憶ロック解除条件”を満たさない状態で、なぜ……?」
画面には、メイド姿でポーズを取るミコトの映像が映っていた。
その笑顔は、照れとノリの狭間にある奇跡の1枚。
「……観測対象アコウの感情干渉レベル、上昇中。
副対象ミコトの共振率、予測より高い……」
ミメイは、無表情のまま静かに頷く。
「……継続観測、優先度上昇。
次回侵入時の影響値、要注視」
ほんの少しだけ、映像を見つめるミメイの口元が、ピクリと緩んだ気がした。
けれど、次の瞬間には無表情に戻り、彼女は別の記録窓を開いた。
「……やっぱり、猫耳は……強い」




