第19話 『敵はお惣菜?』
金属が擦れる音と靴音だけが、ひんやりした石畳に反響する。
アコウとミコトはフライパンを手に持ち、先を警戒する……というより、ひたすら文句を言っていた。
「ねえねえユウ、なんで武器がフライパンなの!? 私、料理部じゃないんだけど!」
「むしろ私は料理できないほうですからね。見て、この“焦げ付き防止加工”された敗北感!」
「私のなんか、コンビニで売ってる即席のやつ叩くような軽さなんだけど。武器というより、“深夜の空腹”への挑戦だよこれ」
ユウは薄く微笑んで言う。
「おそらく、無意識に“これなら自分でも扱えそう”というイメージが具現化されたのでしょう。つまり、おふたりの戦闘スタイルは“直感と家庭力”です」
「なんかモヤっとする!」
「あっ。そういえばね、ユウってこの前――」
アコウはちらっとユウを見上げながら、さりげなく話題を変える。
「この前、学校の近くの図書館に行ったんだけどさ。そこに、すっごいユウに似た人がいてさ~」
ユウの眉がピクリとも動かない。
「ほう……私に、ですか?」
「うん。背格好とか、雰囲気とか、あと本の並べ方に一切の無駄がないとことか」
「ずいぶん褒め上手な図書館ですね」
「いや、褒めてるというか……もはや“真実”として伝えてるというか……」
ユウは視線を前に向けたまま、まるで彫像のように無表情でつぶやいた。
「……世の中には、似たような顔立ちの方が三人はいるといいますから」
「いやいやいやいや!? その人、“ユウの声”とそっくりだったからね!? カウンターで貸出のときに『返却期限は二週間です、延滞は許されません』って……めっちゃ低音ボイスだった!」
「もしかしたら、厳しめの司書さんだったのかもしれませんねぇ」
「えっ!? あれ!? これ、はぐらかされてる!?」
ミコトがくすくす笑う。
「アコウ、あきらめなよ。“夢と現実の混同はよくあること”って感じの表情してるよユウさん」
「うわ、完全に納得されてるのも腹立つー!!」
「まあ、もしその人が本当に私だったら……見かけたら、優しくしてくださいね?」
ユウは振り返り、少しだけ意味深に微笑む。
その笑顔にアコウは「むむ……」と唸りながら、フライパンを軽く振った。
「それより――そろそろ試練が出てきてもいい頃です。気を引き締めてくださいね」
「はーい、家庭科の授業はじめまーすってノリじゃん……!」