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第17話 『静寂と疑惑』

放課後の図書館 ――静寂と疑惑と狐の気配

「あのさ……ミコト」

「ん? なんか声のトーンが探偵ドラマ入ってない?」

アコウは、放課後の教室で制服の襟をいじりながら言った。

「この前話してた、“夢の中に出てきた人”のことだけど」

「ユウさんのこと?」

「うん。……たぶん、図書館で見かけたかもしれない」

「マジで? え、夢の住人が現実に!? テレビ企画いけるやつじゃん!」

「からかわないでよ! でも……ホントに似てたんだって。雰囲気も、声も、姿勢も」

「耳と尻尾は?」

「……なかった」

「なら、たぶん別人じゃね?」

「……それでも気になるの! 確認したい!」

アコウの訴えに、ミコトは笑いながらも「じゃ、付き合ってやるよ」と言ってくれた――が。


市立図書館 ――探偵アコウの潜入調査

その日、アコウは制服のまま図書館の中を歩いていた。

ミコトは「小説コーナーで待ってる」と言って別行動中。

「ここに……いたはず……」

視線を泳がせながら、アコウはカウンターの方へそろりと近づいた。

するとそこに――

いた。

整った顔立ち、艶やかな黒髪、知的な眼鏡。

そして、動作一つ一つが静かで丁寧。

返却された本を一冊一冊確認し、ページの破れがないかを淡々と確認する女性司書。

(やっぱり……似てる)

背筋がピンと伸びていて、指先がやたら美しい。

そしてたまに呟く小さな声が、妙に記憶に引っかかる。

「……本は静かに読むもの……」

(あの言い方……絶対ユウと同じじゃん……!)

アコウは近くの棚に並べられた百科事典を盾にして、ついに真正面から観察を始める。

(けど……耳も尻尾もないし、制服でもないし……やっぱりただの司書さんか?)

しばらく見ていたが、何の変化もなく、「ただの真面目そうな大人の女性」という印象に落ち着いた。

(きっと、見間違い……だよね。似てただけ……よね)

アコウは自分の中の“妄想センサー”を疑い始めた。

狐耳の幻影を一瞬見たような気がしたが、きっと疲れてるせい。

(私、ダンジョンと現実ごっちゃにしてるかも……)

首を軽く振って、アコウはその場を離れた。


ユウ視点 ――見つかりそうで、見つからない日常

「……危なかった……」

カウンター内の棚の陰で、ユウは心の中でため息をついていた。

無表情を装いながら、内心はぐるぐる。

(アコウ……気づきかけてたな……)

普段は気配を抑えているつもりだったが、今日のアコウはやけに目が鋭かった。

棚の陰から何度も覗いてくるあの視線に、さすがの妖狐もヒヤヒヤ。

(耳があったら一発アウトだった……尻尾も)

人間界での生活用に抑え込んでいる外見。

図書館の司書という地味で地道な仕事は、目立たないように過ごすには最適だった。

(でも……バレても、別に困ることはない。けど……)

けど、バレた瞬間に何かが変わってしまう気がした。

現実とダンジョンの境界が曖昧になることに、ユウ自身が戸惑っているのかもしれない。

(……今はまだ、この距離でいい)

ふと、アコウが出口へ向かう後ろ姿が見えた。

その肩が、どこか少し寂しそうに見えるのは気のせいだろうか。

「……また来るよね、きっと」

ユウは小さく微笑み、本を一冊、アコウが好きそうな棚にそっと差し込んだ。


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