第16話 『疑い』
放課後の教室――夢と現実の境界線
「ねえ、ミコト」
放課後の教室、アコウは窓際の席からミコトに声をかけた。
「ん? なに、また新しい夢見たとか?」
「……いや、ちょっと違う。夢じゃない。たぶん、リアル。たぶんね?」
ミコトはすでに眉を八の字にしている。
「で、今度はどんな異世界? 召喚? 忍者? 騎士団? それとも私がまた短剣で戦ってる系?」
「違うってば! 図書館の話!」
「……え、急に現実寄りじゃん。なに? 本の中に異世界が?」
「違う、だからそういう方向じゃなくて!」
アコウは両手をブンブン振りながら声を張った。
「この前の昼休みの話、覚えてる? ミコトがダンジョンで戦ってたこと。でさ、それで思い出したんだけど……」
「うんうん」
「前に、図書館でよく見かけてた司書さんが――なんか、ユウに似てる気がしてきたんだよね」
「……はい、夢と現実混ざったー!」
ミコトはノートを閉じ、ものすごく真顔で言った。
「アコウ、もう一回寝た方がいいんじゃない?」
「ちょっと! 真面目に聞いてよ!」
「だってさ、ユウって狐耳で、ダンジョンの住人(?)っぽくて、いろいろ超常現象担当じゃん? 図書館に勤務してるわけなくない?」
「……でも見たんだよ。本棚の間に立って、ちゃんと眼鏡かけて、静かに“本は丁寧に扱ってください”って言ってた」
「え、それ夢で言われたんじゃなくて?」
「現実だよ! ていうか、言い方も仕草もそっくりだったの!」
ミコトは目をぱちぱちさせたあと、にやにやしながら立ち上がった。
「よーし、じゃあ確かめに行こっか。夢の人が現実にいるってことは――現実が夢なのかもよ?」
「その哲学っぽい感じでごまかすのやめて!? 本当に似てたの! 本物かもしれないの!」
「はいはい、じゃあユウさんに会いに、現実の図書館にGO!」
「うわぁ……軽い……」
図書館前――ドキドキ現地調査
数十分後。
学校近くの市立図書館前。
アコウはやや緊張しながら、正面入口を見つめていた。
「……行く?」
「アコウの恋の行方を確かめに、いざ!」
「恋じゃないから!!」
「でも“なんか似てたの”って言い方、ちょっと乙女だったよ?」
「うるさい!」
アコウは顔を赤らめながら、足早に図書館の扉をくぐった。
(……もし、本当にユウだったら)
彼女は思う。
(なんで、何も言ってこないんだろう)
その疑問を胸に抱えたまま、アコウは静まり返った本の迷路へと踏み込んでいった。