第15話 『記憶の齟齬』
昼休み。
アコウとミコトは、いつものように机をくっつけてランチタイム。
アコウがそっと箸を置き、ミコトを見つめながら切り出した。
「さあ、正直に言ってもらおうか。」
「えっ、なにその取調室みたいな入り……私なにかやった?」
ミコトはおにぎりを一口かじったまま、もごもごと返す。
「この前、コンビニの裏でさ。ダンジョンで、私がヤバかったとき、ミコト来たよね?」
「……コンビニの裏でダンジョン?」
「そう、で、突然扉が開いて、ミコトがヒュッと現れて――」
アコウは身振りを交えながら再現する。
「シュバッと短剣構えて、“ちょっと邪魔!”って敵を蹴散らしてたよね! ていうか、なんで短剣!? 何そのスピード系美少女キャラ!?」
ミコトは完全にフリーズした。
「……短剣? 私が? そんなイケメンムーブしたの?」
「したのよ! しかも決め台詞とかあったのよ! “命拾いしたね。私が来たからには――”とか言ってた!」
「うわ……めちゃくちゃ中二じゃん、それ……私、寝言で言ってた? 親に録音されてないよね?」
「いや違う違う、寝言じゃなくて、現地での話!」
アコウは机に突っ伏してから、ふと顔を上げた。
(……って、あ。ユウからのメール……)
ユウのメール(回想):
ミコトさんの記憶がないのは、ダンジョンの影響です。
感情の過剰反応によって、自動的に記憶が封印されることがあります。
少しずつ戻る可能性もありますが、無理に思い出させないでください。
アコウはため息をついて、笑顔を作った。
「……ごめん、私の妄想だったわ。なんか最近、夢見がちでさ」
「え、私が短剣で敵を蹴散らしてる夢見るって……アコウ、私にどんな期待抱いてんの?」
「いや、むしろ私が“助かった~!”って思ってたからね!? 完全にヒロインポジションだったから!」
「アコウ、女子高生の枠からも逸脱してるよ……」
二人の笑い声が、教室にゆるく響いた。
けれどアコウは、内心で思っていた。
(本当に……忘れてるんだ)
いつかまた、ミコトが短剣を手にする日が来るかもしれない――
そのときは、ちゃんと覚えていてくれたらいいな、と思いながら