第12話 『帰り道2』
アコウは、イヤホンを片耳に引っかけたまま、鞄を肩にかけて帰っていた。
いつもより足取りが重いのは、身体が疲れているからじゃない。頭が、やたらと動いている。
(ミコト……)
今日、まさかのダンジョン内での再会。
戦えるミコト。冷静なツッコミ。相変わらず優等生気質で、でもちょっとズレてて。
(ていうかなんでミコトがあそこにいたの!?)
今さら驚きが遅れてやってくる。
(ダンジョンって、わたしの……“心の中”みたいなもんなんでしょ? なのに他人が普通に歩いてるのって、どうなの?)
「ユウ……あの時、ちゃんと説明してよ……」
呟くと、イヤホンの中から音楽がフェードアウトするように流れた。
どうにも落ち着かなくて、再生停止。
アコウは空を見上げる。
少しだけ残る茜色が、今日の非日常をうっすらと染めている。
(もしかして、ミコトって……)
――わたしの“夢”に関係してるの?
そう思った瞬間、なんだか顔が熱くなる。
(いやいやいやいや! ないないないない!!)
頭をぶんぶん振る。
(あの子は……ただ、昔からよく絡んできただけで。いつの間にかちょっとした腐れ縁で、まあ、一緒に帰ったりすることも……たまにあるだけで……)
「……でも」
自分のダンジョンに入れたってことは、あの空間が、ミコトを“必要”としたってことだ。
心のどこかで。無意識で。
(……もしかして、わたし……ミコトのこと、ちゃんと見てたのかも)
玄関の鍵を開けながら、ふと、そんな思考が降ってきた。
でも答えは出ない。
ただ一つだけ、胸の奥に残ったのは——
「……なんか、次が楽しみかも」
ついそう呟いて、ひとり照れる。
アコウは頬を軽く叩いて、玄関をくぐった。