第10話 『猫耳メイド言うとかフラグになる!』
倒した魔物の残骸が霧のように消えていく。
アコウは膝に手をついて、肩で息をした。
剣は重いはずなのに、不思議と腕は動いた。走れたし、敵の動きも読めた。
「……ねぇ、ユウ」
「なんじゃ?」
肩に乗っていたユウがひょいと跳び下りて、アコウの横に着地する。
「これ……なんでわたし、戦えてるの? 剣とか振ったことないし、体育も平均以下だし、むしろ縄跳びの二重跳びすらギリだったのにさ……」
真顔で問い詰められ、ユウはぴくっと耳を動かす。
「それはじゃな――アコウの中に“火”が灯ったからよ」
「は?」
「ほれ、“夢の火”じゃ。“こうありたい”とか、“こうなりたい”とか。おぬし、さっき思い出したじゃろ? 本当はまだ、夢を捨てたくないって」
「……あれ、で?」
「うむ。ダンジョンというのは、夢と心の迷宮。入った者の“夢”が力の源となる場所なのじゃ」
「源……って、魔法的な?」
「うむ、まあそんなもんじゃ。もっと正確に言うなら、“願いの圧”が現実を押し曲げる場所じゃな」
「物理かよ」
「物理じゃ」
アコウは剣を見下ろす。自分の意思で出現した、それっぽい装備。
「じゃあこの剣も……?」
「おぬしのイメージから現れたものじゃ。“強くなりたい”“守りたい”“負けたくない”――そういう想いが、形になっただけの話よ」
「え、じゃあさ――もし“猫耳メイドになりたい”って夢だったら、装備どうなるの?」
「猫耳メイドになる」
「やだなにそれ夢深っ!」
アコウは頭を抱え、しばらく無言でしゃがみこむ。
ユウはニヤニヤと、しっぽをふる。
「要するに、おぬしの中にある“夢”が、今のおぬしを戦えるようにしておるだけのこと。逆に夢を見失えば……その力も消える」
「じゃあ、戦えてる間は……わたし、まだ夢を持ってるってことか」
「うむ。胸を張るがよい。おぬしは、夢を捨てておらん」
アコウは、そっと剣を握り直す。
その重みが、さっきよりちょっとだけ“自分のもの”になっている気がした。