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3、世間の評価


3、世間の評価



 昼間の人通りのある街の歩道で起こった惨劇は瞬く間にネットワークで拡がり、拡散されていった。その評価は真っ二つ。素晴らしいと喝采を叫ぶ者がいる一方、こんな暴虐を許して良いのかと声高に主張する者もいる。予測予防省にも、抗議の電話やメールが絶えなかった。大臣である陸奥は早急に会見を開く必要に迫られ、大貫に愚痴をこぼしていた。


「何もあんな人の多い所で消去しなくても良かったのじゃないか 人知れず行っていれば、こんな騒ぎにはならんだろう 人権無視だの言われて、どうすれば良い 」


「大臣 犯罪者に人権などありませんよ 犯罪者が犯罪を犯した時、被害者の人権なんてあると思っていないでしょう だから、あれだけ酷い事が出来るのです それが、自分が被害者に成りそうになると、人権があるなど笑わせてくれます 大臣は毅然と対応して下さい こちらは疚しいところはないですから 」


 大貫の言葉で陸奥も少し気が楽になっていた。


・・・そうだ、正義はこちらにあるんだ ふふ、何も恐れる事はないではないか ・・・


 陸奥は、よしと自分に気合いを入れると大勢のメディアが詰めかける会見場に向かっていった。大貫はその陸奥の後ろ姿を見つめ、笑みを浮かべる。


・・・もう動き出した以上、簡単に止めてもらっては困りますからね これから、我々が世の中を変えていくのですから ・・・


 大貫は窓から眼下の街並みを見下ろす。街並みには小さく見える人間が動き回っている。その中には幸せな人間もいるだろうが、不幸を抱えている人間もいるだろう。


・・・ここにいる犯罪者、そして、その予備軍を全て根絶やしにしてやる どれだけ殺せるかな 正義という名の殺人からは、もう逃げられないぞ ・・・


 大貫は、大臣である陸奥には見せない冷酷な笑みを浮かべていた。



 * * *



 ある地方都市で凄惨な事件が起こっていた。女子中学生の遺体が渓谷の淵で発見され、警察の捜査の結果、同じ中学生の男女の私刑による事件と断定された。女子中学生はさんざん辱しめられ痛め付けられた挙げ句、残酷に殺害されていた。捕まった犯人たちは未成年の為、氏名は公表されず、また、殺人ではなく過失致死と判断され14歳未満という事で罪にも問われず保護観察処分という事で逮捕される事もなかった。しかし、エクサスケール・コンピュータ、”ラクシュミー”の判断は異なり、この中学生たちを危険因子と認め、リストに名前を残した。そこで、さっそく予測予防省の人間が現地に向かう事になったのだった。



 * * *



「あんな所から落としたくらいで死ぬなんていい迷惑だよな 」


「ほんと、死んでからも迷惑かけるよね あの女 」


「でも、良かったな俺たち中学生で 少年法様々だな 今のうちに色々やっておこうぜ 」


「本当に大人ってちょろいわ 子供のふりしてれば良いんだから私たちの特権だよね 」


「今度さ、D組の遠藤 やってみないか あいつも大人しそうだから誰にも言わねえよ 」


「いいね、いいね 次は遠藤で決定っ 」


 同級生の女の子を私刑で殺しておきながら、この男女に反省の色はまったくみえなかった。そして、また私刑を楽しもうとしている。しかし、大人たちの前では殊勝な態度をとっているので、周りの人間には彼らが反省して心を入れ換えたように映っていた。予測予防省の人間を除いて……。


「13歳の男女4人がターゲットですね この歳でターゲットに選ばれるという事はどうしようもないクズなのでしょうね 」


「クズに相応しい消去方法にしてあげましょう こんな奴ら、反省などしないでしょうから、徹底的に痛め付けて消去するのが良いですね 楽しみだわ 」


 赤いクーペの車内で男女二人が楽しそうに会話している。二人の頭の中では、ターゲットをどのように消去するか、そればかりがぐるぐると巡っていた。


 目的地に着いた二人はさっそくこの男女が通っている中学校に行ってみるが、案の定というか、4人とも欠席だった。仕方なく手分けしてターゲットの男女を探しだす。スマートフォンのGPS機能を利用して、ラクシュミーにおおよその位置を割り出してもらい、そこでそれぞれ拉致する事に成功した。ターゲットの4人は手足を縛られて事件のあった溪谷近くの小屋の中に転がされていた。


「さて、君たちは消去される事が決定した 別に反省などしなくて良いのだけど、最後に後悔させてやってくれとの指示なので、見せしめの為に一人ずつ消去していくから、その順番くらいは決めさせてあげよう 」


 4人を見下ろしている黒いスーツを着た男女が、楽しそうに笑みを浮かべて言う。


「ちょっと、何これ こんな事して良いと思ってるの訴えるわよ 」


「ご安心下さい 我々は予測予防省の者ですのでそういった心配はご無用です 」


「何、それ ふざけないでよ 早くほどきなさいよ パパに言ったら大変な事になるわよ 」


「えーと、先程からうるさい君は吉田美音ですね それと、その隣が工藤心愛、そして、滝沢翔に大西豊ですか どの順番にしますか 早く決めて下さい 」


「あんたら、役人なら法律知ってるだろう 俺たちは14歳未満だから何やっても良いんだよ 俺はさ、警察に知り合いもいるからな 今、ここの位置を緊急発信したからすぐ来てくれるよ 俺たちにこんな事して逮捕されるのは、あんたらだな 」


「黙っていたと思ったら何か操作していたわけですね その諦めない気持ちは素晴らしい それを他の事に発揮していれば違った人生でしたのに残念です それに法律で裁かれなければ何やってもいいという考え方はすでに犯罪者の考えです 普通の方は法律で定められていなくても、相手の事を考える思いやりの心や気遣いを持っているものですよ 」


「はあ、バカじゃねえの 裁かれなければやっていいに決まってるだろ 」


「こういうところは子供ですねえ 大人はその法律を変えられるのですよ 君たちみたいなクズが多いから法律を一部改正して厳罰に処する事になったのです 僕たちの所属する予測予防省が新しく出来た事は知っているでしょう 君たちクズを消去する為の組織です 」


「ふざけるなよ そんなの許される訳ないだろっ それに俺たちにだって人権がある 」


「もう、決まった事ですからね 何を言っても無駄です それに、人権というなら君たちが私刑して殺害した女の子にもあったと思いますが、君たちは、そんな事考慮していませんよね 自分達にだけ人権があると思っているのですか、まったく反吐が出ますね 犯罪者に人権などありませんよ それでは、元気のいい滝沢くん、君から消去を開始しましょう 」


 その時、表に車の急停車する音がして二人の警官が入ってきた。


「お巡りさん、助けて コイツら、頭がおかしいよ 俺たちを順番に消去するとか言ってる 」


「消去? もしや、あなた方は…… 」


「お仕事、ご苦労様です ええ、僕たちは予測予防省の者です これから、ここにいる4人を消去していきますが、立ち会っていかれますか 」


 黒いスーツの男女二人は身分証を提示し、警官二人は、黒いスーツの男女に敬礼していた。


「あっ、いえ 私たちはそれは遠慮しておきます それでは、消去よろしくお願いします 」


 まるで消去するところを見るのを避けるようにいそいそと引き上げて行く警官二人を見て、4人の顔は引きつっていた。


「それでは、滝沢くんから始めますよ 」


「ちょ、ちょっと待って下さい 冗談ですよね 俺たち、まだ未成年 子供ですよ 」


「頭も足りないのですか 何度も言わせないで下さい もう始めますから黙っていて下さい 」


 予測予防省の二人は、ターゲットの4人の口にガムテープを貼って塞いでいく。


「ふごっ、ふごっ、ふごっ 」


 4人は涙を流し何かを言っているようだが、それはもう言葉になっていなかった。


「ああそうだ、僕たちも名前を名乗らなきゃいけなかったんだ 僕は九条信、こちらの女性は”アキ”といいます よろしく 」


「じゃあ、始めましょう 」


 アキは我慢出来ないというように、手に持ったニッパーをカチカチと鳴らす。


「滝沢翔くん、あなたから解体作業を始めますね 」


 アキは滝沢の縛られている手の指をニッパーで挟む。


バチィーン!


「ふがぁぁーーーっ 」


 滝沢の指が一本ぼとりと切断され、滝沢が絶叫し、他の3人からも悲鳴が上がる。


「大丈夫ですよ 君たちが私刑を楽しんだように、僕たちも君たちをゆっくり楽しんで消去していきますから 」


 4人は涙と鼻水を流して塞がれた口で必死に何か訴えているが、それはもう無駄な事だった。4人は、ゆっくりと苦痛を味わいながら消去されていき、半日後には4人の消去は完了した。


「コンプリーテッド 」


 九条とアキは、仕事を済ませた清々しい顔で赤いクーペに乗ると発進させた。



 * * *



「先生、まさか本気ではないですよね 」


 ある豪華な装飾の部屋の中で、たっぷりクッションの効いた贅沢なソファーに座り、二人の男が向かい合っている。


「はて? なんの事ですかな 」


「おとぼけを…… 予測予防省の事ですよ あまり、やんちゃが過ぎると我々も黙っている訳にはいきませんからな 」


「あれは独立管轄の部署ですからな 私も詳しい事はわからんが、そうですな、注意はしておきましょう 」


 お互い含みのある笑顔を浮かべると、グラスを手に取り、カチンと乾杯すると上等なブランデーを口に入れた。





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