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5(終)

 凱旋式典はつつがなく終わった。王都には四人の像が建ち、ようやくお祝いムードとなった王都は活気であふれていた。

 自由を手に入れた勇者一行は、それぞれ好き好きに王都を離れることとなった。私もようやく、田舎に引っ込めるというものだ。


 ファウは三日ほど悩んだ挙句、王城つきの針子になることを了承した。流行りに敏感で貴族からの覚えもいい。そのうち弟子もとるか、任期を終えれば店を構えるかもしれない。


「よう、ヴィンさん」


 王城を出るその日、門でルクシオが待っていた。髪は色艶がよくなり、右足には立派な義足を履いていた。頬も少し丸くなっただろうか。いいことだ。


「爺さんの一人旅なんて心配だろ? 方角同じだし、ついてっていい?」


 いい、と私が頷かなくても、どうせついてくるだろう。

 見送りはファウと、知り合いの装備職人たちが数人。それから、公務を抜け出してきたバルタザール。バルタザールにだけはさっさと戻れと手を振って、私は王城の門をくぐった。


 王都を出る前に、私はルクシオを待たせ、とある場所に行くことにした。ルクシオは私に撒かれると思ったのか、ついてくると言って聞かなかった。もう私よりもずっと速く走れるだろうに。

 向かったのは墓地だった。近くの店で花を一輪買った。名前と生没年が刻まれた墓石の前に、その一輪を供えた。少し前に人が来たのだろう。墓石は苔の一つもなく、綺麗に磨かれていた。訪れた誰かの人生も安らかであるようにと、私は目を閉じた。ルクシオは私の背中が見える場所に立っていた。近くまで来ない、その賢さに感謝した。


「息子だ。十六歳だった」


 大通りに戻るまでの道中で、尋ねられる前に私は言った。ルクシオは「そうだったんだ」とだけ言って、しばらく黙っていた。


 長旅になるので、杖を買った。ルクシオは私の分の寝袋と当面の食糧を買っていた。私が蜂蜜菓子を買ってやろうかと言うと、ルクシオは苦笑いして首を横に振った。


「ヴィンさん、俺もう十七歳だよ」

「……ああ、そうだったな」


 隣を歩く青年の背が、にわかに伸びたように感じられた。


 私たちは昼過ぎに王都を出た。夕暮れには隣町に着くだろう。そこで一泊して、それからはずっと東へ歩き続ける。

 ルクシオは私に歩調を合わせてくれた。こんなにゆっくり歩いたのは久しぶりだと笑っていた。私もルクシオの左側に立って、久しぶりの旅を満喫した。王城の暮らしも決して悪くはなかったが、この草原を吹き抜ける風ほど心地良いものはない。


「ヴィンさん。俺の生まれた村はさ、あの雪をかぶった山のその向こう、湖のほとりにあるんだよ」


 ルクシオの指が、東の果てを指し示す。


「親父はいなくて、母ちゃんは俺が五歳の時に死んじゃった。じいちゃんとばあちゃん、元気かなあ」


 何と返したものか、思案しているうちに、ルクシオが私を見て笑った。


「紹介したいな。命の恩人なんですって」


 そう言ってルクシオは、胸元に手のひらを当てる。今日の彼の服も、私が仕立てたものだった。

 ああ、この旅はなかなか終わらなそうだ。そう思いながら、私はそれが不快ではなく。むしろ少しだけ、楽しみに思っていた。

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