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4.波紋

「リ、リイナ……。」


「…この結婚を喜んでいるのは、私の両親、男爵家だけです。伯爵家に利益はありませんし、セブラン様に幸せなんかありません…私も。」


 リイナの最後の一言に、俺はより一層胸が苦しくなった。


「…リイナ、君は何故、俺との結婚を受け入れたんだ?」


「…セブラン様と似たような理由ですよ。」


 …ヴィオラの為。俺がリイナの事を頼まれていたように、リイナも俺の事を頼まれていたのか。ヴィオラは俺達二人の幸せを願っていた。そうだったのか…。


「この結婚は、政略結婚でも無ければ、恋愛結婚でもありません。セブラン様、はっきりと言いますが何の意味もありません。」


「っ…。」

 

 俺はリイナを愛していない。そして、リイナも俺を愛していない。リイナに結婚を申し込んだ時、断られたらどうしようと思いはしたが、受け入れられた後は、どうしてだろうと疑問に思った事など無かった。ヴィオラの願いを叶えられると安心しただけだった。リイナの気持ちを…本心を理解しようとしていなかった。


「…私達は、ヴィオラ様の願い通りに()()()()()()。だから、もう……。」


 リイナは最後の言葉を濁した。ヴィオラはきっと、結婚して幸せに生きていって欲しい。という想いを込めて願ったのだろう。そんな事はリイナだって分かっている筈だ、けれど…。


「…あぁ、そうだな。」


 ヴィオラ、すまない。俺はリイナを幸せになんて出来ない。俺は、きみの元に逝きたいんだ――。


 




















「……すっかり冷めてしまいましたね。作り直しましょうか?」


「いや、これでいい…。」


 ティーカップに触れると、ひんやりとした冷たさが伝わってくる。


「…角砂糖を貰おう。」


「……はい、どうぞ。」


 紅茶はストレートでしか飲んだ事がない。甘い物は好きではないからだ。でも、ヴィオラは甘くした紅茶が大好きだった。最期は、ヴィオラが好きな紅茶を飲みたいと思った。


 ポチャン…という音を響かせながら、角砂糖は紅茶の中に入っていった。角砂糖により、紅茶の水面にいくつもの波紋ができた。冷めきった紅茶の中で、砂糖は溶けずに沈殿している。


 俺はティースプーンを使い、砂糖を底に押し潰すようにかき混ぜる。紅茶は渦巻き、少しずつ角砂糖は消えていく。角砂糖が目に見えなくなったところでスプーンを紅茶から出すと、再び波紋が広がった。


「………俺が死んだ後、リイナは大丈夫なのか?」


 紅茶の波紋を眺めながら、リイナに聞く。誰かがこの状況を見た時、リイナが俺を毒殺したと疑われるのは間違いない。俺が遺書を書いたとしても、俺の死を止められなかったとして、非難されるかもしれない…。まだ紅茶を飲むのは早いのでは…。


「私の事はお気になさらず。」


 リイナはさらっと答えた。いつもと変わらない微笑みを浮かべて。リイナには何か考えがあるのだろう。それならば、何も言わない方が良いのだ。


「……分かった。ありがとう、リイナ。」

 

 俺はリイナに礼を言って、紅茶()を飲み干した。冷めきった紅茶()は味が落ち、美味しいとは言えない。さらに砂糖の甘さが鋭く、じんわりと広がり不快感を感じる…やはり、甘い物は苦手だ。


「…ふぅ。」


 飲み干した後、空になったティーカップを置いた。数秒後には苦しんで死ぬのだろう……ヴィオラに逢えるのは嬉しいが、いざ死ぬとなると少しだけ怖くなる。もう飲み干した後だからどうにもならないし、後悔はないのだが。


 顔を上げて、リイナを見ると






















 

 


















「―――――。」


 


 ……恐ろしいほどの無表情で、俺を見ながら、確かに()()言った。


 



 …あぁ、俺は結局最後まで、リイナの本心を理解出来なかった。いや、理解しようとしなかったんだな。


 徐々に込み上げてくる苦しみ中で、最期に思い描いたのはリイナだった。


















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