眠れない夜に
眠たいはずなのに、どういうわけか、なかなか眠れない夜がある。
目をつぶって静かに横になっていても、なぜか寝つけない。
子供の頃、「眠れない夜は『羊が一匹、羊が二匹……』と羊の数を数えていればそのうち眠くなるよ」と母に言われた事を思い出す。
同じ経験をしている人も多いんじゃないだろうか。
僕は最初、律儀に羊の数を数えていた。
だが、あまり数字を意識しすぎると、そちらに意識が集中してしまって余計に眠れない気がして、そのうち羊の数は数えないようになった。
僕が思い描くイメージは、羊が左から一匹トコトコと歩いてきて、柵をぴょんと飛び越え、そのまま右の方へトコトコと歩いて行ってしまうというものだ。
数は数えずに、そのイメージをひたすら繰り返す。
そのうちだんだん眠くなってきて、気付いたら眠ってしまっている。
いや、眠ってたら気付けないか。
正しくは、朝起きたらいつの間にか眠ってしまった事に気付く、という感じだった。
ここで重要なのは、羊の数を数えることではなく、羊が一匹ずつ現れては消えていくという退屈なイメージが繰り返されることにある。
人間は、退屈すると眠くなってくるものだ。
退屈な授業を聞いていると眠くなる。
退屈な映画を観ていると眠くなる。
誰でも一度はそんな経験をしているだろうと思う。
つまり、「自分の頭の中で退屈なイメージを繰り返すことによって、それに退屈して眠くなる」というのが、この話の本質なのだ。
だから、べつにイメージするのは羊である必要は無い。
本来は退屈なイメージなら何でもいい……はずなのだが、「眠れない時は羊を数えよう」と教えられるために、僕らは言われるがままに羊をイメージして、その数を数えてしまっているに過ぎない。
特に調べてみたわけではないが、眠れない夜に羊を数えるというのは、一種の洒落で、英単語の「sleep」が「sheep」と音が似ているからじゃないかと思う。
ところがその背景は伝わらず話だけが伝わって、日本ではなぜか眠れない時は羊を数えるという、意味不明なおまじないとして広まっていったんじゃないかと思う。
もしもそういった背景があるのだとしたら、「眠る」に近い語感のものを数えなければその趣旨が伝わらない。
「眠る」に近い言葉で数えられるものはあまり浮かばないが、例えば「ナムル」ではどうか。
ナムルが一人前、ナムルが二人前……なんてね。
ナムルという言葉は眠るという言葉に似てるから、「ナムル、ナムル」と繰り返すことで次第に「眠る、眠る」という自己暗示にかかって眠くなるはずである。(本当かよ)
でも、これだとナムルが頭にチラついて、かえってお腹が空いてきて眠れなくなりそうだ。
……なぁんてぼんやり考えてみたが、ちっとも眠くならない。
こりゃ、明日は寝不足だな。
ていうか、眠れないなら睡眠薬を飲めばいいよね。
子供じゃないんだし。
読んで頂き、ありがとうございました。