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カルセドニーな日常  作者: 木野真里
9/17

アイドル傷害事件5

 

 高田さんから案内されてリアの病室に近付くと、警察なのか見張りがいるのが分かった。ジロジロと見られるが水間さんは気にしていないようだ。


 リアの病室を通り過ぎて、同じフロアの個室に入る。中にはクルールの他の三人のメンバーがいた。


「こちら探偵事務所の水間さんと、名城さんだよ」


 おずおずと会釈をされる。皆、不安そうな顔が隠し切れていない。


「初めまして。早く事件を解決する為の手助けとして、参りました。少しお話伺わせて下さい」


 彼女らも話を聞いてはいただろうが、探偵には見えない水間さんや俺を見て戸惑いの表情がうかがえる。


「結論ですが、今回の犯人は通り魔でも無く、クルールのどなたかのファンですが、リアさんのファンでは無いと考えています」


「通り魔ではないなら、リアは狙われていたんですか?」


「最初から狙われていた可能性は低いです。まだ確実な事は言えません」


 ユマのファンと言わないのは、いきなり特定してしまうのもおかしいからか。


「最近のリアさんの様子を聞きたいんです」


「え……リアのですか?」


「様子って、別に普段と変わらないと思いますけど」


「リアは最近一人の仕事も多くて、話をするの少なくなってるし」


 警戒されてるのか、グループ仲が良くないのを知られたくないようだ。


「四人でのお仕事の時、リアさんは一人で帰る事も多いと聞いてますが以前は違ったんですか?」


「前は……収録とかレッスンとか上手くいかない事があると、四人でよく反省会と称して事務所の近くにある公園に集まってました」


「人が多い時もあるけど、広いしベンチも離れて置いてあるから顔見られる事もないし穴場なんです」


「今でもたまに。公園って言っても、芝生広場と梅の木があるくらいだけど」


 あまりマネージャーである高田さんに聞かれたくない話だったのかもしれない。ユマが高田さんを気にしながらだが反省会なる物を教えてくれて、二人も続いて補足する。


「最近はリアさんを除いて、ですね」


 認めるのを躊躇しながら三人は頷いた。反省会だけでなく、リアの愚痴も混じっていたのかもしれない。水間さんは何かを考えているようだ。


「高田さん、うちの名城と一緒に少し席を外して頂けますか?」


「え?」


 俺と高田さんは声が揃ってしまった。


「マネージャーの高田さんがいると話しにくい事、あるかもしれませんし男性お二人は、そうですね……下の喫茶店で飲み物をテイクアウトしてきてもらいましょう。その間に終わらせますので」


 高田さんと顔を見合わせて、渋々部屋を出た。水間さんは正しいだろう。守秘義務はあるが、クルールのファン層でもある俺がいては話しにくい事もある。


 エレベーターホールにベンチと自動販売機があり、高田さんはコーヒーを二つ買った。


「女性の話は長いですし、少し時間を潰しましょうか」

「ありがとうございます」


 差し出されたコーヒーを受け取り、苦笑する。流石、アイドルのマネージャーをしているだけある。


「仲がものすごい悪いって訳ではないんです」


 コーヒーを少し飲んだ所で高田さんは口を開いた。俺は黙って高田さんの方を見て話の続きを待つ。


「色々なアイドルを見てきましたが、勿論上手くいってないグループもいました。クルールは今まで見てきた中で、特に仲が良かったです。今はすれ違っているだけ、だと思います」


「リアさんだけの活動が増えてきたから……ですね」


「最初リアのモデルの仕事が決まった時、他のメンバーも祝福してました。羨ましいという気持ちもあったでしょうが、上辺だけの祝福には見えませんでした。トントン拍子にリアの活動が広がり、他のメンバーより忙しいのもあって会話も少なくなってきて」


「ユマさんと幼馴染なんですよね」


「はい。特に仲が良い二人です。ただ、ユマは他の三人に比べると、かなり内気なんですよ。さっき言ってた反省会でも二人の顔色を伺って、リアに対する愚痴があっても強く言う事はなかったと思います」


「あの、リアさんが脱退するって噂もありますよね」


「あんなの、ただの噂ですよ。脱退の予定なんてありません」


 おそらく他の三人もリアが脱退するかもしれないと考える事もあっただろうが、聞いても否定されただけだろう。


 飲み物を買って戻ると、もう話は終わっているようだった。


「ありがとうございます。早速ですが、二か月前くらいからの仕事のスケジュールを細かく教えて頂きたいです」


「二か月前ですか」


「知りたいのは、仕事の日と終わった時間です」


 何か分かった事があるのか、また過去を見るつもりだと俺は悟った。高田さんは眉間に皺を寄せた。


「仕事の入り時間はほぼ正確に分かりますが、終わった時間ですか……テレビ局に問い合わせれば分かるかもしれません。少しお時間かかっても?」


「よろしくお願いします。調査に戻りますので分かり次第連絡下さい」


 颯爽と部屋を出ていく水間さん。慌てて付いていく俺の後ろで「なんか占い師さんみたいだね」と話す声が聞こえた。


 水間さんは電車に乗って、ようやく行き先を教えてくれた。


 「先程のテレビ局で毎週、収録があるみたいです。頻度も高く犯人が予想しやすい時間でしょうから、テレビ局に的を絞ります」


「さっき何を話してたの?」


「服について聞きました。事件当日にリアさんが着ていたネイビーのパーカー、お揃いではなくて、ユマさんの物だったようです」


「ユマから借りたって事?」


「半強制的に。リアさんは早く帰り支度を終えて、借りると言ってさっさと帰るみたいです。ユマさんのお気に入りのブランドだとファンも知っている人多かったみたいです」


「それは……困るね」


「ここ二か月の事らしいです。ユマさんではなく、他の二人がかなり不満を口にしてました」


「二か月か。それでさっきスケジュール聞いたんだ」


「はい。しかも毎回ではないみたいです。高田さんに家まで車で送ってもらう日は確実にしないけど、他の日はランダムで」


「リアはいつ犯人が来るか分かってたって事?」


「確実とまでは言わなくても、予想してたんでしょうね。ユマさんのSNSで」


「SNS?」


「ユマさんは毎日ではないですけど、その日の私服を載せたりしてました。犯人はSNSで私服を確認してたんでしょう。テレビ局から出てくる時間もある程度決まっていたようですし」


「犯人は毎週テレビ局の収録日や時間を知っていて、かつユマの私服が分かる日だけ来ていたって事?」


「そうなりますね。それをリアさんも予測してユマさんのフリをしていた」


「リアはユマのフリをして、危ない目に合わないように守ってたって事?」


「まぁそうなりますね」


 内気だというユマが、ファンを上手くあしらう事が出来ないとリアは考えたのかもしれない。友達の為にそこまでするのか疑問も出てくるが。


「過去を見たら分かるって事?」


「きっかけは分かるかもしれません。だけど一番知りたいのは、犯人が何度もユマさんに会いに来ているかどうかです。そうすれば、『佐々木直人』が犯人だと指摘しやすいので」



 高田さんからの連絡で、二か月前からのテレビ局の出入りした時間が分かった。二か月程前からの収録日で、ユマが私服を載せたのは五回もあって、古い順で見に行く事になった。


――――――

 

 一回目、テレビ局を見張るがリアらしき人は通らない。おそらく、高田さんが運転する車で皆帰ったんだろう。犯人も見当たらなかったので、まだ待ち伏せを始めていないのか。


――――――

  

 二回目、ユマが載せた私服はベージュのダウンコートに白いトップスで、上半身しか写真には写っていなかった。それだけだと、犯人もユマを見つける事は難しいから、いないかもしれない。


「犯人いましたよ」


 水間さんの声に反応して外を見ると、テレビ局を出てすぐの所に犯人がいるのが分かった。服装は違うが、間違いない。犯人の佐々木直人がユマを待っていた。

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件等は一切関係ありません。


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