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カルセドニーな日常  作者: 木野真里
8/17

アイドル傷害事件4

 

 電車を降りた後も見失う事なく、犯人の家に到着した。まぁ、見失うはずもない。ピッタリくっついて来たんだから。

 

 犯人の住まいはマンションの三階で、郵便受けにも玄関にも表札はなかった。

 

「ドアが開いたら急いで部屋に入ってくださいね」

 

 過去を見ているだけで、何かに触る事も声が届く事もない。つまりドアを開ける事が出来ないので、開いた瞬間がチャンスだ。

 犯人が鍵を回してドアを開ける。その瞬間、水間さんは細い体をするっと部屋の中へ滑り込ませた。間髪入れずに俺もドアの内側に体を入れて、部屋へ入ることに成功した。安心して、ホッと溜息がもれる。

 

「入る事が目的じゃないですよ」

 

「……はい」



 犯人は部屋に入ると、ポケットからべったりと血の付いた折り畳みのナイフを出して洗った。後悔や焦り、そして怒りの感情が微塵も感じられず、淡々としている。

 

 部屋を見渡してみると、犯人は几帳面な性格なのが分かった。今まで履いていた靴も靴箱に入れて玄関はスッキリしている。部屋の奥へ行くと、恐らく自炊もしているのだろう。キッチンには調味料がいくつかあるが、整理されていて、テーブルには余計な物は何もない。そして隣に続いているベッドルームは、掛け布団は綺麗に畳まれていて、シーツはシワ一つない。

 

 犯人はナイフを洗い終わってすぐに浴室に入った。シャワーを浴びるようだ。

 

「余計な物や娯楽らしい物は置いてないシンプルな部屋なのに、一つだけですけどユマさんのポスターあるのが違和感ありますね」

 

「犯人の住んでる所分かったし、ダメなの?」

 

「この部屋に住んでる人が犯人ですよ、と言っても信じてもらえません。兄が担当している事件でもないですし。犯人も捜査が進んでる可能性を考慮して、部屋にはもう居ないかもしれません。今日だけで、この過去をずっと見る事は出来ませんので、名前だけでも知りたいです」

 

 警察に言ったとしても、確かな証拠がなければ動いてくれない。歯痒いが、俺達は目の前の事実を見たから分かっているだけだ。

 

「私達で出来る事をしましょう」

 

 俺の気持ちを察したようだ。水間さんは、その思いをいつも一人で抱えていたんだろう。

 

「でも犯人が動かなきゃ、確認しようがないよね。この状況」

 

「はい。今見える物には無いようですし、時間の無駄になってしまいます。過去を見る時間も取っておきたいので、後一時間待って動きが無いようなら諦めましょう」

 

 そう決めた物の、シャワーを浴びてから帰って来ないため、待つ事しか出来ない。水間さんは部屋の中をくまなく見ていたが諦めたらしい。

 

「クルールに詳しいですか?」

 

「そこまでじゃないけど……リアとユマは元々幼馴染らしいよ。ユマが一人でオーディション行くの不安で、リアが付いて行ったってエピソード聞いたことあるな」

 

「リアさんはテレビで見る感じでは、毒舌ではないけどハッキリ意見するタイプなイメージですよね」

 

「そうだね。人を不快にしない程度で機転が利く感じ?それがウケてるのかも。ユマは正反対なイメージだよ。おっとりって言うか、ちょっと不器用かな」

 

「他の二人は?」

 

「ホノカはダンスが一番上手いかな。ストイックなイメージする。サクラはメインボーカルで、そうだなー、例えるなら優等生タイプ?」

 

「なんでリアさんが最近人気出てきたんですか?」

 

「リアはそつなくこなすタイプで歌もダンスもそれなりに上手いんだよ。でも、どちらも二番手みたいな。だから前は微妙な立ち位置だったからか人気なかったんだよね。でも美容好きってのでモデルの仕事始めてから、どんどん人気出てきて。ドラマやバラエティーにも出てきてるよね」

 

「つまり、古いファンからは今の人気に不満を持っている?」

 

「いや、リアのお陰でクルールの名前が売れたから不満なんてあるかな……?」

 

 シャワーの音が止まり、浴室のドアが開くのが聞こえた。水間さんは目で合図する。俺は犯人を見に行くが、真新しい事は何もない。もうすぐで一時間が経ってしまう。

 

「どうする? もうちょっとで一時間だけど」

 

「……あと少しだけ」

 

 犯人はパソコンでまたユマのSNSを見始めたが、すぐに溜息を吐いて、奥の部屋にあるリュックからカードを取り出した。

 

「あ! これ、社員証じゃないですか?写真まで付いてますよ」

 

「持ってる手で名前が見えないな」

 

 パソコンの認証セキュリティで必要らしい。犯人がカードから手を離してパスワードを打ち込む。

 

『佐々木直人』

 

 俺は水間さんと目を合わせて頷いた。

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件等は一切関係ありません。

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