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第十六話
「春。じゃあ、また明日」
「うん。じゃあね」
友達に手を振って、私は家に入った。
「(おにぃ。もう家に帰ってる。・・・誰か家に来てる?)」
玄関におにぃの靴があるのを見て、おにぃが既に家に帰って来ているのが分かったが、そのおにぃの靴の隣に見知らぬ靴が置かれていた。
「・・・」
ジーっと見知らぬ靴を眺める事数分、気づいてしまった。
「この靴のサイズ・・・まさか、女の人の靴?!」
思わず、口から驚きが零れる。
おにぃは誰もいない家に、女を連れ込んでいるのだと。それは別に悪い事をしている訳ではない。なのに、目の前で悪い事をされたかの様な、なんとも言えない気持ちになる。
「(・・・相手は誰?)」
おにぃの部屋に突撃すれば答えが分かるのであろうが、私は最悪のケースを想定する。
「(・・・あまり、やりたくないけど、あの方法を使うしかない)」
音を出来るだけ立てずに自分の部屋へと入ると、引き出しからコップを取り出し、おにぃの部屋に面している壁に押し当て、声が聞こえる様、静かに耳を澄ました。




