・1-54 第69話 「2人の野盗」
※作者からのお願い
いつも本作をお読みいただき、ありがとうございます。
作者の熊吉です。
本作ですが、2月の中旬、第1章が完結するのをめどに、一時的に更新を休止させていただきます。
というのは、2章以降のプロットがまったくできていないのでその作成、および煮詰まっていない世界観の構築などをさせていただかねばならないからです。
また、熊吉自身、これまで2作品同時投稿を行ってきたため疲弊を感じておりまして、いったんリセットさせていただければなと思います。
メイド・ルーシェシリーズ(小説家になろう様、カクヨム様にて連載中)については、これまで通り毎日更新を続けて参ります。
また、本作につきましても、なるべく早期に、3月中をめどに更新を再開させていただきたいと考えております。
ご迷惑をおかけいたしまして、大変申し訳ございません。
しかしながら、今後も読者の皆様に楽しんでいただけるよう努めてまいりますので、もしよろしければ、今後も熊吉をよろしくお願いいたします。
・1-54 第69話 「2人の野盗」
※作者注
本話も、流血シーンがあります。
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源九郎に槍の柄をつかまれ、思い切り引き寄せられた野盗は態勢を崩す。
そして、彼が身に着けている鎧の隙間があらわになった。
源九郎はすかさず刀を振るう。
体勢を崩したことで大きくさらけ出された野盗の左手の脇の下を刀の切っ先が深く裂き、鮮血がほとばしってサムライの身体に降りかかった。
洋の東西を問わず、脇の下は鎧で防御できない弱点だった。
戦うためには腕を満足に動かせねばならず、そのためには、脇の下は自由に動かせなければならない。
だから、そこを装甲で完全に覆うことはできないのだ。
源九郎は崩れ落ちる野盗から飛び散った鮮血を浴びながら、鋭い視線で血しぶきの向こうにいる残りの野盗たちを見すえていた。
目の前で仲間がやられても、重装備をした2人の野盗はまったく動じる様子はない。
いや、そもそも、彼らはたった今絶命した野盗のことを、仲間などとは思っていなかったのかもしれない。
そんな気配があった。
野盗たちには、大きく分けて2通りの種類がいた。
1つは、野盗と聞いて誰もがイメージするような、粗末な鎧と武器を持ち、粗野で汚らしい荒くれ者たち。
もう1つは、頭領や、その周囲を固めていた、充実した装備を持ち、戦うことに特化した戦士としての技量と冷徹な雰囲気をまとった者たちだ。
実際に戦ってみると、その違いは鮮明だった。
前者は明らかに戦い方が未熟で、源九郎が極めた殺陣の技をもってすれば、刀が斬れる限りは何人でも相手にできそうだった。
しかし、後者はまるで厳しい訓練を積んだ戦士たちで、たった1人だけを相手にするだけでも、次の瞬間に自分は命を失っているかもしれないという恐怖を抱かずにはいられない。
おそらくだが、この戦士たちは、野盗の頭領の子飼いの部下、彼が野盗ではなく騎士であるころからつき従っている者たちなのだろう。
粗野な野盗らしい風貌の手下たちは、いわば捨て駒なのだ。
なりゆきで雇い入れただけの、いつでも捨てられる便利な道具でしかない。
だから頭領は簡単に部下の1人を処刑できたし、今、源九郎の目の前にいる2人の野盗も、[仲間]を殺されても平然としていられるのだろう。
血しぶきの向こうから、雄叫びと共に戦棍を手にした野盗が襲いかかって来る。
前の攻撃では、縦に戦棍を振り下ろして源九郎にかわされた。
だから今度は横なぎでの攻撃だった。
高さは、源九郎の胸の高さ。
直撃すれば肋骨を粉々に打ち砕かれ、間違いなく絶命するだろうと思える鋭さをもった攻撃だった。
源九郎はとっさに姿勢を思いきり低くしてその攻撃をかわした。
左側にはたった今斬り捨てたばかりの野盗の身体があり、右側から横に振り抜かれる戦棍の一撃を回避するには、下に逃げるしかなかったからだ。
ただ下にかわしただけではなかった。
源九郎は左足の膝を地面に突き、顔を上にそむけて鼻先ギリギリのところで戦棍をかわしながら、右足をのばし、野盗に足払いをかけていた。
無理な体勢からの攻撃だったが、おもしろいくらいにうまく決まった。
足を蹴り飛ばされた野盗は態勢を崩し、振り抜いた戦棍の勢いに引っ張られて、無様に顔面から地面に倒れ伏す。
両手が武器と盾でふさがっているのだから、手をついて衝撃を和らげることもできない。
ドシャリ、と重々しい音とともに、地面を抉りながら彼は叩きつけられるように転んだ。
足技を使うなんて、剣道などの公式な試合では禁じ手だ。
一発で退場を食らうような技だ。
しかし、これは正々堂々としたスポーツの試合ではなく、実戦。
命の取り合いだった。
しかも、2対1。
相手は優れた武装をしており、源九郎が圧倒的に不利な状況だ。
そんな時に、卑怯だのなんだのと気にしている余裕はない。
生き延び、そしてフィーナを救い出すために、ありとあらゆる技を遠慮なく使うしかない。
実際、精神的な修練も目的とした武道としての在り方が成立する以前の雰囲気を残す剣術では、手に持った武器だけではなく蹴りなどの足技も使われるのは、珍しいことではなかった。
勝って生き延びるためには、形をとりつくろうようなことはしていられなかったからだ。
かつてその名を轟かせた剣豪は、必ずしも刀だけを武器として使ったわけではなかった。
たまたま炊事している際に刺客に襲われたある剣豪は、鍋蓋を用いてこれを迎撃したという逸話が残されている。
また、とある剣豪は、決闘する際に船を漕ぐためのオールを用いて勝利を得たのだという。
使えるものは、なんでも使う。
足があるのだから、足も使うのだ。
だが源九郎は、足払いを受けて転んだ野盗にトドメを刺している余裕がなかった。
攻撃をかわしつつ反撃するために片膝をついたのを、姿勢を崩した状態だと見たもう1人の野盗が、獰猛な叫び声と共に、その手に持った剣を叩きつけるように振り下ろして来たからだ。
源九郎は、あきらめない。
ここで自分が倒されてしまっては、フィーナは救えず、そして、長老や村人たちのような犠牲がこれからも生み出され続けるからだ。
源九郎は、一か八か、賭けに出た。




