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・1-16 第31話 「ファーストコンタクト」

・1-16 第31話 「ファーストコンタクト」


「長老さま、この人、恰好はおかしいけんど、大丈夫だ!

 いい人だっぺよ! 」


 警戒心を隠そうともしない長老に、源九郎の前に進み出て行ったフィーナがとんっ、と自身の胸を叩きながらそう言って保証する。


「それに、すっげー、つえぇんだ!

 野盗たちから、おらのことを助けてくれたんだっぺ!


 おまけに、野盗に連れて行かれていたサシャも、戻ってきてくれたんだ! 」


 そのフィーナの説明を肯定するように、サシャが何度も縦に首を振りながら、ブルブル、と小さくいなないてみせる。

 実に賢い馬だ。


「その……、旅のお人。

 本当にお1人で、フィーナのことを助けてくれたんだべか? 」


 フィーナにもサシャにもウソをついたり話を盛っている様子はない。

 しかし、1人で3人の野盗を倒してしまったという話はにわかには信じられなかったらしく、長老はまだ疑うような口ぶりだった。


「自慢じゃないが、これでも、腕は立つ方なんだぜ」


 源九郎は腕組みをしたまま少し胸を張り、誇らしげにそう言う。

 1人で3人の野盗を倒したというのは紛れもない事実だったし、あれが撮影ではない初めての実戦だったが、あの程度の相手であれば同じ状況になっても勝てる自信があった。


 源九郎の殺陣たては、この世界でも十分に通用する。

 だとすれば、自分のことをひとかどの剣士だと思ってもいいだろう。


 長老はなおも、信じられない、というような、驚きと疑いの入り混じった視線を源九郎へと向けていた。


 だが、現に目の前に、野盗たちによってさらわれたはずのフィーナがいるのだ。

フィーナと源九郎の話す内容が一致しているのだから、長老もそれを信じざるを得ないだろう。


 やがて長老は、静かに源九郎に向かって頭を下げた。


「旅のお人。

 無礼な態度をとっちまって、すまねぇだ。


 けんど、オラぁの村さ、今、散々なことになってんだ。

 んだから、用心しねぇとなんねぇんだよ」


「いや、そんな、気にしないでください。

 ここに来る途中、長老さんたちが苦しい生活をしてるっていうのは、フィーナから教えてもらっていましたし。


 野盗たちに困らされてもいるんですし、俺、遠いところから旅をしてきて、皆さんとは違う恰好をしているでしょう?

 長老さんたちが警戒しても、怒ることなんかないですよ。

 そうするのが、当然のことでしょうから」


 元々曲がっていた腰をさらに低くして、過度に警戒する態度をとってしまったことをびて来る長老に、慌てて腕組みを解いた源九郎は両手の手の平を見せて気分を害してはいないと教えてやる。


「ああ、旅人さん。あんた、優しいお人だな」


 すると長老は顔をあげ、笑顔になる。

 それから、彼は杖を持っていない方の手を頭上に高くかかげて見せた。


 どうやらその仕草が、源九郎のことを警戒しなくてよいと村人たちに知らせる合図になっていたらしい。

 固く閉じられていた扉や鎧戸が開かれ、建物の中から次々と、隠れていた村人たちが姿をあらわしてくる。


 数分もしないうちに、源九郎たちは大勢の村人たちによって取り囲まれてしまっていた。

 ぐるりと周囲を取り囲むように集まった村人たちは、野盗たちに連れ去られてしまったフィーナの無事を口々に喜び、そして、彼女を助けた源九郎のことを称賛し、珍しがった。


 若い者はみな、領主に動員されて連れて行かれてしまった。

 フィーナからそう聞かされていた通り、村人たちのほとんどは中年以上の男女で、その中にほんの数人、まだ小さな子供たちが混じっているだけだった。

 全部で、50余名ほどはいるだろうか。


 やはり、誰も源九郎のようなサムライを見たことがないのだろう。

 自分たちが身に着けている衣服とは構造の異なる羽織やはかま、総髪にした髪型、そして刀に、村人たちは興味津々だった。


 特にまだ物心がついたばかりのような子供たちは熱心で、無邪気に、「見せて、見せて! 」とせがんで来る。


「こらっ、みんな、おさむれーさまを困らせたら、ダメだっぺ! 」


 しかし、源九郎のはかまに取りすがるようにしていた幼子たちは、フィーナにそう一喝されると大人しくなった。


 村人の多くは白人系で、フィーナだけが褐色の肌を持つ。

 おそらくフィーナと血のつながりのある者は今ここにいる村人たちの中にはいないはずだったが、小さな村のことだから、フィーナと子供たちは家族のように育ったのだろう。

 姉みたいな存在であるフィーナの言葉には、腕白な少年も、人見知りする少女も、まだほとんどしゃべれないヨチヨチ歩きの子供も、みなが従った。


「旅のお人。

 貧乏な村だで、大したお礼もできねが、どうか、オラの家さ、泊って行ってくんろ。


 粥くらいしか出せねけど、腹いっぱい、ごちそうさせてもらうだよ」


 村人たちの歓迎に愛想よく答えていた源九郎に、長老がそう申し出てくれる。


「なら、おらがお料理、するだよ! 」


 すると、村人たちから無事を喜ばれていたフィーナが源九郎の方を振り返り、少し身体を前かがみにして、源九郎の顔を下からのぞき込むようにしながらそう言った。

 最初はロクにお礼もできないほど貧しい村だからと、源九郎を村に案内することに消極的だったフィーナだったが、もう村まで来てしまったのだからできるだけの恩を返そうと思っている様子だった。


「ああ、それじゃぁ、ありがたくお世話になろうかな。


 野盗たちのこととか、これからどこに向かって旅をすればいいのかとか、長老さんにできるだけ教えていただきたいし」


 その提案を断る理由もなく、源九郎は村人たちからの歓迎に気分を良くしたまま、にこやかな笑顔でうなずいていた。


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