プロローグ
プロローグ的短編なので、もやったらごめんなさい。
私は、如月瞳。
高校入学前の春休み。前世?と思われる記憶が唐突に蘇ってしまったものです。
今世の私は、普通の家に生まれ、一人っ子。
中肉中背、性格温和。
特徴といえば、平和主義くらいなもので、誰とも揉めないのが長所。少なくとも、こんな一人語りするような物思いに耽るタイプでもない、いたって普通の人。
見目も、まあまあ可愛い、ぱっちりおめめのショートヘア。鏡を見ながら言っててなんですけど、笑うと花が綻ぶという表現がふさわしい可愛さ。
まあ、恵まれてはいるが、普通の子。
ええ、少なくとも、前世の性格、と、今世の性格、が上手く馴染まなくて、困り果てるような、人間ではないです、はい。
それにしても。
「あ~~も~~~!」
ウロウロと部屋を歩き回りながら、叫ぶ。
「なんで、ヒロインになってるのよおおお~~!!!」
膝から崩れ落ちる、とは、まさに、こういうことを言うのだろうと思いながら、ガッテム!!と私は唸った。
前世の私は、超絶美人。人間国宝級レベルの美しい人間だった。黒髪ロング・陶器のような白い肌、ナイスバディなボディ。恋する乙女のような桃色の頬に、妖艶な赤い唇。
伏せたまつ毛が恐ろしいまでに色っぽいのに、18歳の頃から変わらないあどけない顔。
道を歩けば、男女問わずに視線を集める。家が裕福で常日頃からボディガードがいなければ、早々に誘拐されていただろう。
実家は裕福な財閥崩れの家で、だからか、私も、”品行方正”を求められた。まあ、大学生になってからは守るわけもなく、夜遊び・たばこ・酒、本当に好き勝手してたけど、最低限のルールは守って遊んでいた。
父母は仲が良く、締め付けがキツイ以外は何の問題もない。(まあ、それすら守ってないけど)かなり恵まれ過ぎていた家だった。
だからだろうか。26歳の冬、原因不明の病にかかった。
通称「眠り姫」。急激な眠りに襲われ、そのまま目を覚まさない病。その年の”日本”では、何故か、その病が流行った。”流行るような病”ではないのに。
その病にかかったことを知ったのは、26歳の誕生日。その年の、12月28日。気づけばクリスマスも過ぎていて、部屋を見渡せば知らない病室らしき部屋。近くの棚に置いてあったスマートフォンを開くと、当時の彼氏や職場の面々から大量な連絡。
わけもわからず呆然としていると、いつのまにか入ってきていた看護師が、医師と両親を呼びに言っていたみたいで、その場で病名を明かされた。
「───────という病名で。その…言いにくいことですが、…治療法は、確立されていません」
「そんな!どうにかならないんですか!?娘はまだ────────」
「……やめなさい、────────」
医師と両親の言い合いをぼんやり聞きながら、私はゆっくりと手を上げた。
「あの、─────────」
(そう、私は、そのまま、……っ)
「ッいた、…なん、で。……おもい、だせない…?」
記憶を思い出そうと考えるたび、頭がズキズキと痛む。それ以上はうすぼんやりとして、思い出せそうになかった。
「(よく分からないけど、”私”は死んだ…?ってこと…?)」
よく分からない。
「ああ、もう!くよくよするのは私らしくない!いや、私っていっても、どっちなんだいって感じだけど」
前世の私が色濃くなっている、けど。どこか、今世?ヒロイン?の私もいて。まあ、でも、よしっと意気込む。
「今は、今世のことよね」
そうだ。そっちが問題だった。
いや、本来なら、記憶があるだけでしょとか言って、好きに生きてましたよ?前世の私はそれくらいに自由人だし、今世の私は綿飴でも詰まってるかのような脳天気だし。
(…今世の私って)
ふと思い出して、ぶるりと寒気がする。あんな頭が緩い人間が自分とか。うん無理。忘れよう。
「はあーー」
長い溜息をつく。こんなことを考えてる暇はない。ここが、育成型恋愛シュミレーションゲーム「ドキドキ!夢見る学園ライフ」の世界なら。
通称「ゆめ学」。しかも、その、ヒロインの可能性が極めて高い。
もしそうなら。うん、すごくやばい。
だって、ここ、超攻略難易度が高いゲーム世界だから。
攻略本見たって、普通に失敗するゲームだから!!!
別に、悪役令嬢も登場しないし、私が死ぬこともない。そういうゲームでは、ある。ゲーム通りなら。
ただ、前世を知ってる"私からすれば"キツイ世界なのは間違いない。
というか、なぜ、私が、ゲームの世界だと思ったのかといえば、幼なじみを思い出したからだった。
(~以下、今世のふわふわ頭の回想~)
「明日は、高校の入学式かぁ。あっという間……高校に行っても、友達できるかな…?」
「…ううん、今から心配になっちゃダメだよね!がんばらないと!」
「あ、そういえば、お母さんが、陸くん・海くんが戻ってきたって言ってたなあ。まだ会えてないけど…二人は、どこの高校に通うんだろう?一緒の高校だったら嬉しいのにな」
陸くん・海くんは、双子の幼馴染。昔はお隣さんだったけど、お父さんの転勤で引っ越してしまって、家はそのままにしてたらしいけど、それから疎遠になってしまった。
昔は───────。
と今世のゆるふわ系ニコニコ女の私。その頭の中に、その回想が浮かんできて「き、きもちわr」「どうして、私は知ってるの?」「なんで、こんなにも胸がワクワク?ドキドキ?するの?」と既視感を憶えてる内に、一気に前世の記憶が蘇る。
「ゆめ学の世界、だと…!」
が、最初に思ったこと。
本来、ゆめ学のヒロインに名前はない。各々でつけられるようになっているから、ナナシになっている。でも、私は、"プレイ名"に"如月瞳"と名付けていて、それが今世の名前になっていた。だから、すぐに、自分が、ヒロインの可能性が高いと気づいた。
それに、双子の幼なじみを、高校入学前日の今日いきなり思い出すのもおかしい。しかも、陸くん・海くん。名前が、ゲーム内メインヒーローの双子名と一致。
うん、まちがいない、ゆめ学内だ。
どこまでゲーム内と一緒かは分からない。が。正直、キツイ。
私、前世の年齢……三十路手前だから(白目)。いつ死んだとか知らないけど、26歳まで生きてたのは間違いない。
悪いけど、恋愛も一通りしてきて、酸いも甘いも吸い切って、酒もタバコも嗜しみすぎて、自由奔放に"性"を謳歌してきた女だから(白目)
いや待って。そもそも、そんな女に純情なヒロイン役なんて任せていいわけ(白目)
しかも平気で白目むくヒロインっていいの?(白目)それでいいのか、運営…!!
「はあ…今さら、いっても、か」
無意識にタバコを吸おうと手をさまよわせる。
「あくぁあ~~~未成年だ~。というか、今世の私が吸うわけないかああ」
がっくり項垂れて、近くにあった飴玉を口に含む。
「早く成人したい~~~」
そう本気の嘆きを叫びながら、苺味の飴玉をなめ続けた。
「瞳~~!ほら、昨日言った─────」
今世の母の声が聞こえる。
どうせ、双子が迎えに来たとかだろう。
「陸君と海君が迎えに来てくれたわよ~!」
ほら、その通りだ。ゆめ学のオープニングイベント。双子の二人が迎えに来てくれて、一緒に登校イベントが始まったようだ。
「はーーーーーい!!今行くーーーー!」
本当はギリギリまでゴロゴロしていたいと思いながら、今世の私と大きく外れすぎない程度に返事する。流石に、昨日今日で態度を変えると、不良娘になったと騒がれるかもしれない。
無駄に心配かけるのも、やはり、気分がいいものではないから。前世のことを思い出して渋い気持ちになりながら、身支度を整える。
それに抗って”部屋まで起しに来てくれる秘密イベント”を引き起こすのもめんどくさいからね、と誰に言い訳するでもなく、新品の制服に、カバンを肩にかけて部屋を出た。
「ひとみーーー!会いたかったぜーー!!」
玄関を出ると、目の前が暗くなる。少し遅れて、抱きしめられているせいで視界が狭まったことに気づく。
今世155㎝の身長よりも、背が高い男の子。自然とその男の子の胸元に引き寄せられる形で、すっぽり包まれる。制汗剤の爽やかなにおいが鼻をかすめる。
「んんんんn----!」
ただ、予想以上に強い力だったために抜けられず、苦しくなって呻く。
「あ?わりいわりい!」
私の様子に気が付いた”陸”が快活に笑って手を緩めた。
そう、メインヒーローの”陸”こと「睦月陸」。
185㎝の身長に、鍛え上げられた胸筋。典型的なスポーツマンタイプの攻略キャラクターだ。短めな髪に、後ろを刈り上げている。少し茶色っぽい髪が、かわいい。甘いマスクのイケメン。
「陸!」
そう呼ぶ声に、今度はそちらを見やる。
もう一人のメインヒーロー”海”こと「睦月海」。
同じ185㎝の身長に、すらりとした体型。まっすぐな髪が整えられていて、同じ顔でも印象は全く異なる。将来的には生徒会長にまでなる、優等生タイプ。文武両道、公明正大。真面目系イケメン。
「いきなり抱きつく奴があるか。ひとみが驚いてるだろう」
そういいながら、優しく腰に腕を回され、心なしか引き寄せられる。
「…………」
いや、結果的に二人とも抱きついてない?と思いながら、そのまま黙る。
「いいじゃねえか!久しぶりの再会なんだし。な?」
ニカッと陸が笑う。
本来の流れなら、”ヒロイン”は成長して男らしくなった二人の変化に気づかなくて、オロオロしながら照れる場面だ。
中身が”私”、前世マシマシだから、ぼんやりとしているが。
え、二人なの?!と照れながら驚く、が正解。本来の道筋を選ぶなら、それが正しい。まあ、完全にとぼけて、ゆるふわヒロインに振り回されるルートもあるが。
私は”どれも選ばない”と決めていた。
「陸、海、ひさしぶり!」
ニヒヒと笑う。
そう、なんてことない、という対応をすることに決めていた。
「おう!」「ああ」
すこし驚いた二人が、そのまま続ける。
「「会いたかった」」
「うん、わたしも。高校でも、よろしくね!」
二人が破顔して頷く。
その表情にドギマギ、罪悪感を抱きながら、笑顔を崩さない。
そう、私は、恋愛ルートも友情ルートも、選ばない。
本来の高校生のように、過ごす。ゲームに囚われないと決めたのだ。
「じゃあ、行くか!」
「そうだな。行こう」
そう言われながら、破格のイケメン二人に手を差し出される。
「いやいやいや!普通の男女の高校生は手つなぎ登校、しかも両手で登校しないから!!」
「「はいはい」」
拒否する私。つなぎたい二人。適当にあしらわれながら、二人に捕まる。
だって、このゲーム、”色々”無理だからーーーー!
最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。続き読みたい!という方が現れるか、書きたくなったら書きます。