ドラゴンに乗る
私はセイレンさんといっしょにドラゴンに乗り空を飛んでいた。ドキドキのタンデムデートに私の心は踊っている。
さっきからセイレンさんが黙っているので照れてるのかなと思い、後ろから顔を覗き込むとそこにはドクロになった彼の顔があった。私は驚いて悲鳴を上げ、次の瞬間真っ逆さまに地上へと落下した。
私は不安でいっぱいになりながら飛び起きた。なんて夢を見るんだ。頭が混乱する。外が騒がしいのでみんな起きてるようだ。身支度して小屋から出るとユノさんが私の顔を見て心配そうに声を掛けてくれた。
「あらやだひどい顔、怖い夢でも見たの?」
とても言えるような内容ではなく私はぎこちなく笑うしかなかった。
森の中を30分ほど進むとその湖が見えてきた。反対側の岸辺がぼんやり見える。この湖の直径はだいたい5キロほどだろうか。水面に遠くの山が映るほどの澄んだキレイな水を見て嬉しくなった。町を出てから水浴びをしてなかったのですぐにでも飛び込みたいくらいだった。
「ヒャッホーウ、ワハハ、冷たくて気持ちいいぞう!」
ハワードさんがパンイチになり早速湖に飛び込んでいた。
「ちょうどいいからここで身体を洗っていきましょ、スミレちゃんもどう?」
目の前で服を脱ぎ始めるユノさんとセイレンさんに私はたじろいだ。
「あ、あの、私は向こうで水浴びしてきます」
「あ〜ら、いいじゃない、私なんかぜーんぜん恥ずかしくないわよ」
「まあお前はそうだろうな、スミレさん向こうで1人で浴びてきなよ」
私は100メートルくらい離れてから下着になり湖の水で身体を洗った。突然向こうから3人が真剣な表情で走ってくるのが見えた。うそ、なに、私下着なんだけど。
私は焦って声を上げようとした瞬間、突然辺りが暗くなり何事かと思い上を見上げると頭上に巨大なドラゴンがいた。(しかも2体)
私はビックリしすぎて悲鳴すら出なかった。目を見開きアゴが外れるくらい口を開いて驚愕していると走ってきた3人が飛び上がりドラゴンたちに向かってそれぞれ技を繰り出した。(パンイチで)
小さいほうのドラゴン(それでも全長8メートルほくらい)の腹にユノさんが拳をめり込ませ、ハワードさんが頭にバカでかいハンマーを叩きつけ地面にノックアウトした。
大きいほうのドラゴン(全長12メートル)のコメカミをセイレンさんが剣で斬りつけた、その切れ味は凄まじく派手に血飛沫を上げ白目を向きながら水面に落下した。
「こ、殺しちゃった……ドラゴンワンパンするなんてこの人たち強すぎる……」
「殺してはいない、かなりのダメージを与えたがな」
「ワハハ、ドラゴンの生命力はハンパないから、これぐらいじゃ死なんよ」
「この子たち兄弟かしら、まだ大人になったばかりね」
それから30分ほど経ち、ドラゴンたちは目を覚ますと目の前の私たちに頭を垂れてひれ伏した。どうやらドラゴンたちを手懐けることに成功したようだ。
この世界の生物や魔物には知性の高いものもいるようで人語を理解したり、操るものまでいるそうだ。2匹のドラゴンは私たちの言葉を理解していた。2匹は兄弟のようですぐに懐いてきた。兄の方はドラコ、弟のほうはゴンタと名付けた。
その日私は空を飛んだ。ドラゴンの背中に乗り大空に飛び立った。夢で見たセイレンさんとのタンデムはちっとも怖くなかった。いつかこうやってこの世界を飛びまわり旅をしてみたいと思った。
湖から小屋まではひとっ飛びだった。日没を待ちそれぞれが準備を整える。辺りがすっかり暗くなってから私たちは2人ずつ2匹のドラゴンに乗り王宮に向かって飛び立った。ハワードさんとユノさんがドラコに、私とセイレンさんがゴンタに乗り込んだ。セイレンさんの後ろに乗り落ちないように彼の腰に手を回した。緊張してドキドキしているのは私だけだろうか。
「心配はいらないよ。王宮についても俺のそばから離れないで」
小屋は町からそう遠くない位置にあったので上空に上がっただけで王宮が見えた。今宵の空は少しの月明かりしかなく雲もそこそこ出ており侵入するには絶好の機会だった。
王宮の真上まで来たときちょうど月が雲に隠れたのでそのまま中庭に急降下した。上空からは見張りの兵士はおろか灯りもろくに付いていなかったように見えたが、急に中庭に兵士が集まりだした。その数は100人は超えているように見える。
「あらあら、やっぱりバレてたみたいよ、お出迎えかしら」
ユノさんが呑気なことを言っているが降下する速度は緩めない。そしてハワードさんがハンマーを手に取りドラコから飛び降りた!
地面まではまだまだ距離があるのになんでもう飛び降りるの!?と驚いている私にセイレンさんが言った。
「耳塞いどいたほうがいい、うるさい一発が出るから」
「ウオオオオオォォォ!!!!」
ハワードさんはハンマーを持った腕を振りかざしながら落下し、着地する間際に思いっきり地面に叩きつけた。辺りに耳をつんざく轟音が鳴り響いた。 私は目を瞑り耳を塞いでいたが衝撃が体の内部まで響いた。
恐る恐る目を開けるとあたり一面粉塵が舞い上がりほとんど何も見えなかった、様子を伺いながら地面に降りる頃にはだんだんと視界が晴れてきた。
「雷神トールが使ったとされる伝説の神器ミョルニル、相変わらずすごい威力だ」
セイレンさんがさらっとすごいことを言っていて私は絶句した。
「あれっていつも鍛冶場の壁に立てかけてあった汚い槌じゃ……」
「ワハハ、準備運動終わり!」
ハワードさんは事も無げにそう言うと首を鳴らした。その下には直径30メートルほどのクレーターが出来ており、辺り一面に兵士たちが転がっていた。
10話完結と言ってましたがやっぱり11話完結になります