序章
初めての投稿になります。
勝手がわからず、読みにくい面もあるかと思いますが、どうかご容赦願います。
気が付くと男は河原に立っていた。年齢のほどは20歳。河原の先には青々と生い茂る草木が立ち並ぶ。後ろを振り返っても川を挟んで同じ光景が広がるだけだ。
「これは異世界転生っちゅうやつか」
オタク気質のある男・木塚良平はすぐに理解した。
「前世で何をやらかしたんかはしらんが、また厄介やなあ」
突然のことに理解はできても納得はできない。だが、この後の展開は容易に想像ができる。
「女の子の悲鳴が聞こえたらハーレムルート、男なら頼れる相棒ルート、俺の悲鳴なら・・・最悪やな」
独り言をつぶやいた直後、目の前に広がる草からガサガサという音がした。風がなびいた、にしては限局的なその音に、木塚は嫌な予感がぬぐえなかった。
世の中、嫌な予感ほどよく当たるものだ。草むらから飛び出てきたのはシベリアンハスキーのような犬が3体。だが、野生のシベリアンハスキーのほうがよっぽどかわいく見える。3体の狼はとげとげしい歯をむき出しにし、眼を血走らせていた。明らかに獲物を見つけた眼だ。
シベリアンハスキーもどきは一瞬で木塚に狙いを定めて飛びかかった。木塚もすぐに後ろに飛ぶ。
木塚にとって、後ろに飛ぶという行為は単なる生存本能だった。木塚は高校まで野球部に所属していたが、運動センスは皆無。弱小チームにもかかわらず、公式戦出場はわずか1試合。それも引退試合のみという体たらくだ。
そんな木塚がまともに避けることができるとは思えなかったが、向かってきた敵に対して意識せずにとった行動、それが後ろに避ける、という行為だった。
噛みつかれる痛みを覚悟した木塚だったが、幸いなことに最悪の事態は免れた。シベリアンハスキーもどきの歯が空気を噛みくだく。木塚は気づいたら5m近く後ろに飛んでいた。その現象に理解ができない木塚だったが、シベリアンハスキーもどきはすぐさま木塚のほうに顔を向ける。木塚も先ほどの現象を深く考えることなく、足元の小石を拾って、そのままシベリアンハスキーもどきに放り投げた。
「青柳シュート!」
贔屓の野球選手の名前を冠して投げたその小石は、真ん中のシベリアンハスキーもどきの右眼に直撃した。
「げっ!当たってもうた!!」
牽制のつもりだったが、予想外に命中してしまった。脱兎のごとく逃げの一手をうつつもりだった木塚だが、予想外の一撃に驚いたのは木塚だけではなかったようだ。シベリアンハスキーもどきはキャンキャンと鳴きながら森の奥へと消えていった。その1体はリーダ格だったのだろうか、残り2体も慌てて逃げたシベリアンハスキーもどきの後を追って、森の中に消えていった。
「助かった~」
お決まりの台詞を吐きながら、腰からぺたんと座り込んだ。幸いなことに、尿道から黄色の液体を垂れ流すことだけはなんとかこらえた。
ひと段落すると、木塚は改めて今の自分の状況を確認した。
まずは改めて自分の恰好である。ジーパンにスニーカー、そしてTシャツ。それだけだ。スマートフォンなどの現代便利グッズはおろか、この手の世界ではチートアイテムになりうるようなものは一切持ち合わせていない。
次に先ほどの能力について検証してみる。木塚はぴょん、と後ろに飛ぶ。先ほどよりも力は入っていないが、3mは飛べた。次に前に飛ぶ。5m。今度は少し勢いをつけて。10m。真上に飛んでみる。3m。その後、走ったり筋トレをしてみたりいろいろした結果、木塚は一つの結論に至った。
「重力が低いんか」
重力が低ければ必要な筋力も少ない。木塚の場合、異世界から飛んできたままであり、地球規模では平凡以下でも、重力が低いこの世界ではスーパーマンとなりうる。
「どこかの青狸・・・じゃなかった。猫型ロボットでもそんな話があったな」
木塚は妙な方向から納得すると、魔法の試し打ちを行った。この手の世界ではありがちだ。
前の世界では恥ずかしくてとても20歳の男が一人でやるものではないが、この世界では普通かもしれない。何よりも今は一人だ。
「ファイヤー!」
もっとも一般的であろう呪文を叫び、手のひらを前に突き出す。するとどうだろうか。ピンポン玉のような火の玉が出現したではないか!
しかし、喜びもつかの間。火の玉は勢いなく前に進みながら落下し、数十㎝先の石を焦がして霧散した。
そのほかにも様々な呪文と思しき言葉を叫んでみたものの、結局出せるのは先ほどのピンポン玉程度、しかも射程圏は数十㎝というがっかり魔法しかなかった。
「まあいいか。最悪、逃げれば何とかなるやろう」
切り替えが早いのが木塚のいいところでもある。言い方を変えれば反省しないのだが。
「さて、ここからどうするかだな。とりあえず、街に向かわないといけん」
ここで一人でいれば、いつシベリアンハスキーもどきに襲われるかわからない。先ほどはうまく撃退できたが、次はどうなるか。多少、重力のハンデがあるとはいえ、もともとの運動神経は皆無である、当然、武器と言えるようなものも持ち合わせていない。
選択肢は3つだろう。森を突っ切るか、あるいは河を昇るか下るか、である。
「まず、森を抜けるのは却下だな」
森の中では身を隠すことができるが、それは敵も一緒である。逃げの一手を打つ前に襲われては元も子もない。
「一般的には川を登ったほうがいいが、ここは下ろう」
木塚はわずかな時間でこの結論に至った。川を登る大きな理由の一つは標高が上がることで木々が少なくなり、救助隊の発見が早まることだ。しかし、当然ながら異世界で救助隊がくるわけがない。一方、川沿いには必ずと言っていいほど人が住んでいる。木塚はそう結論付けた。
「さ、行こうか」
本当にこの選択が間違っていないのか、募る不安を振り払うかのように、木塚は声を出して歩き始めた。
ある程度の構想は練っていますが、詳細は未確定です。
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