026-声
気が付けば五月十四日、イントロダクションの前日となっていた。藤宮は新しい手法の妨害を警戒していたが、あれから他のクラスから妨害はされていない。
前日ということもあり、イントロダクションの最終準備のため放課後に全員残り、最終確認を行っていた。さすがに一人だけいないというのも不自然なため、仕方なく他同様に残り、藤宮と対面で確認…という名の藤宮の独り言をずっと聞いていた。
「~~それで、クラスポイントの減少は最低限までに抑えたいんだけどね」
「ん、あぁ、そうだな」
全く内容は聞いていないが、取り敢えず相槌だけは打ち続けていた。どうせ、今考えても意味がない。ルール的にも戦略性はなく、最終的には、各々が対面する相手をどれだけ信用できるかという結論に落ち着く。
「ねぇ、聞いてる?」
「ん、あぁ、そうだな」
「聞いてないよね!?」
というやり取りを行いつつも、俺はずっと本に視線を向けていた読んでいた。
俺と藤宮がイントロダクションに向けて準備をしていないのは、最初にペアが決まった時点で、藤宮にペアの方針として何も話し合わないと言ったからだ。彼女は、方針を聞いた当初は困惑していたが、一旦納得したようで、今回のような準備時間だと特に何も話すことはないのでこんな状況になっているのだ。
「…そういえば、結局お前は他のクラスに接触したのか?」
「ううん。話だけでもしにいこうかなって思ったけど、結局何も得られないかなぁって思ったから、クラスをまとめることに注力してるかな」
方針の考えとしては合ってるな。これがルールを加味して考えた結果なのであれば上出来だ。無鉄砲バカだと思っていたけれど、そろそろ認識を改めてやるか。
「ただ、少し懸念としてあるのが、月城さんのグループなんだよね…。こういった集まる場には来てくれるんだけど、前の黒崎君たちのように、どこか非協力的な雰囲気を感じる…かな」
「何か手を打ったのか?」
「ううん」と、藤宮は首を振る。
「話に行こうとしても、聞くだけ聞いて流してる感じかな。何もできないというよりも、何もさせてくれない…みたいな」
「生憎、ペアはグループ四人で固まってるから、裏切りはしにくい環境のはずだ。何かあるとしても共倒れになるだろうな」
これは藤宮のペア決めが功を奏したと言える。雑な決め方ではあったが、裏切りによる因縁はクラス側に流れてきにくい。クラスポイントに影響はあるが、月城のグループは傍から見れば仲がいいように見える。そんな直ぐに裏切りは発生しないだろう。
周りを見渡すと、ちょうど解散の時間が近づいているようだった。楽は鞄に本を押し込み、立ち上がって教室のドアに向かう。藤宮も急いで自席に戻り、帰りの準備を急いでいる。彼女が解散の号令をかけ終わる頃には、楽はすでにドアを出て、一人で帰路についていた。
###
帰宅途中、夕暮れの道を歩いていると…。
「楽君〜!」
背後から藤宮の声が聞こえた。本当に、なんなんだこいつは。黒崎の時もそうだったが、藤宮も同様に、人目のつくような場所で話しかけるなよ。それを抜きにしても、静かに一人で帰りたいんだが。
「なんで足を早めるの!?」
「…」
イントロダクションのペアだとしても、一緒に帰るのは不自然だからだろうが。と言うか、外では下で呼ぶな。
通常より早く歩いていても、流石に走りには勝てないもので…
「はぁ、はぁ…ねぇ!」
「…」
「まだ無視するの!?」
「お前…」
少し足を止め、少し振り向き藤宮を睨む。そして、再び歩き始めた。
「待ってってば」
藤宮はさらに追いつき、平行して歩いていく。楽は彼女の方を向かず、前を向きながら口を開いた。
「お前、後にしろよ。今話さないといけないものなのか」
「家でもいいかなって思ったんだけど、何が何だか分からなくて…」
「分からなくてじゃなく、中身を言えよ」
今のうちに少し道を逸れ、人通りの少ない場所に入ったところで足を止めた。壁に寄りかかり、藤宮の息が落ち着くまで待った。
「ふぅ…イントロダクション本番についてなんだけど、楽君なにか変なこと考えてない
?」
「どうしてそう思った?」
藤宮は心配そうな目でこちらを見てきた。肯定も否定もしていない一言で、彼女は不安になったのだろう。
「さっきの準備会が終わって帰宅しようとしたら、周りに誰もいないけど声がして、というより、頭に直接話してきている感じ。その声がこう言ってきたの」
お前は裏切られる。東雲楽はイントロダクションを壊すだろう。
「それで、俺に裏切られると言われたお前は、どうするんだ?」
藤宮は一瞬俯き、小さな声で答える。
「私は…裏切りを発生させる為の妨害だと思うから、楽君を信じるつもり。…ただ、私に来たってことは、他のペアにも来てるってことだよね?」
「恐らくな。そして、ペアに話さない状況で行っているのが、本番で混乱を発生させるにはピッタリなタイミングというわけだ」
「どうしよう…」
苦虫を嚙み潰したような顔をした藤宮を傍目に、俺はゆっくりと歩き出す。
「なるようになるしかない。さっさと夕飯食べて、明日に備えて寝ておけ」
どうせ後で夕飯を食べに家に来る。こいつの考えはその時にでも聞けばいい。




