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学園最強の独隠楽生  作者: ます
第1章 イントロダクション
23/27

023-知らなくていい事だってあるからな

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 楽は携帯を取り出し、深町にメッセージを送った。


 数日後、四組の藤宮涼葉が四人ほどの男子グループと接触する可能性がある。監視を頼む。もし藤宮に危険が迫るようなことがあれば、死なない程度に拿捕して、俺に連絡しろ。


 藤宮が取った選択肢ではあるが、それを煽ったのは俺だ。彼女の自業自得として助けないという選択肢もあるが、今回はまだ一回目ということもあり、実質的には手駒として教育する目的もある。


「まだ入学して一か月で、使い物にならなかったら意味ないからな」


 携帯を忘れて教室へ向かったが、丁度、会話している現場が近くて助かった。わざわざ藤宮本人から聞き出すのも面倒だったからな。そろそろ何かしら動きがあるだろうと推測してはいたが、入学した日と何ら変わりないなと感じた。


 いや、藤宮の意思を聞いてから判断した方が良いのかもしれない。俺が言ったからではなく、彼女が自分の意思で、この物事を解決したいと言うのであれば、それは成長したと言えるだろう。入学式の日にあった出来事も彼女の一種の意思ではあったが、恐らくあれは恩眼の影響とも言えるだろう。



###


 今日は、夕飯の時間になっても藤宮が来なかった。彼女からの連絡もない。ということは、今日が『その日』なのだろう。久しぶりにインスタントラーメンを取り出して湯を注ぐ。あっという間に出来上がる手軽さが、逆に虚しく思える。


 藤宮と夕飯を共にし始めてから、たった二週間。だが、その短い期間でも確かに習慣化され、夕飯の時間が彼女と共にあるものとして染みついていたのだと気付く。今、いつもなら彼女が笑いながら「どうぞ」と食事を並べているはずなのに、それがないことがこの静かな部屋を余計に冷たくさせた。


「ま、今後もこんな日があるんだ。慣れすぎないようにしないとな」


 自分に言い聞かせるように呟いて、ラーメンを食べる。味気ない食事に、少しだけ苛立ちを感じる。やはりインスタントでは満たされない。食べ終わると、食器を軽く洗い流し、キッチンに戻す。そして、本棚に手を伸ばし、読みかけの本を引き出した。

 後は深町からの連絡が来るのを待つのみ。


 ページをめくる音が静かに部屋に響く。ふと時計を見ると、一時間ほどが経っていた。


 その時、机の上の携帯が微かに振動した。画面を見ると、深町からのメッセージが表示されている。


「完了しました」


 短い一言と、場所の指定だけが記されていた。


 楽は本棚に本を静かに閉じ、本棚に戻す。深町の指示する場所へ向かうために、足を動かす。


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「へぇ、こんなところがあるんだな」


 薄暗い路地を抜け、倉庫の入口を見つける。よくこんな場所を見つけられるものだ…誰かの入れ知恵の可能性もありそうだな。


 そんなことを考えながら、倉庫の中へと入っていき、殆ど何も見えない道を突き進んでいく。しかし、行くべき方向は分かっていた。遠くから男子生徒の叫び声が聞こえ、恐らく、それが黒崎たちの声だ。


 深町がどのように制圧したのかは分からないが、抵抗の声ではなく、呻きや喚きが聞こえる。今まさに苦痛と対峙している最中なのだろう。


 さらに進んでいくと、灯りが見え、その手前に人影が浮かび上がった。しかし、その影は動かない。そこにいたのは、地面に座り込んで眠っている藤宮だった。深町によって眠らされているのか、穏やかに眠っているように見えた。


 楽は藤宮の前で膝をついて、その無防備な姿をみつめた。しばらく黙って考え込むように視線を落とし、やがて小さく溜息をつく。


「知らなくていい事だってあるからな…」


 楽は囁くようにそう言うと、藤宮の顔をじっと見つめ、静かに右手を持ち上げた。指を軽く鳴らす。


 パチン……。


 その瞬間、空気が微かに歪むような感覚が広がり、周囲の静寂が一層深まった。楽のギフト、記憶改竄メモリーディストーションが発動する。


 藤宮の表情に一瞬の変化が現れる。眉が微かに動き、まるで夢の中で何かを思い出そうとしているような表情を浮かべたが、やがてその顔は再び穏やかな眠りに戻る。


 楽は、記憶の一部を丁寧に消し去って行く。今日の出来事、黒崎たちとの接触、そしてその後に起こった一連の事実……それらを、藤宮の記憶の中から慎重に、まるで一枚の絵から一部を切り取るかのように削り取っていく。


「これでお前は何も知らない…」


 楽は指を鳴らす手を下ろし、藤宮の寝顔をもう一度確認する。彼女はまるで何事も無かったかのように、安らかな呼吸を続けていた。


 俺は立ち上がり、藤宮の頭を軽く撫でてやる。そして、声のする方へと足を向けた。


「姿を現わせ、てめぇ!」


 黒崎たちが叫んでいるのは、誰かが隠れているであろう空間に向かってだった。彼らは手足を血で染めながら、針で壁に磔にされている。その前には、地面に突き刺さっていたであろう跡がくっきりと残っていた。


「随分と楽しそうなことをしているな」


「あ?東雲か!?」


 狭間鏡夜が俺の存在に気付いて名前を呼ぶ。しかし、無視して、この場に姿を現わしていない深町に向かって放つ。


「そんなことはありませんよ。彼らの叫びを聞き続けるのは、むしろ苦痛でしかありませんね」


 そう言いながら、深町は捻じれた空間から姿を現した。彼女の表情は、いつもの冷静な顔とは違い、楽しげな笑みを浮かべている。それを見て、黒崎たちは目を見開いた。訳の分からない場所から現れた彼女に驚き、痛みに悶えながらもその不気味さに怯えている。


 さて、手駒の尻拭いを始めるか。


「別にお前らが悪いわけじゃない。藤宮にも責任はあるが、交渉の内容が悪かった」


 「俺の所有物に手を出した…」と、楽は気軽に人の前で見せない笑みを浮かべ、黒崎を見つめながら言った。


「所有物だぁ!?お前の女かどうかなんて、どうでもいいだろ!そもそも、この話を持ちかけたのは藤宮本人じゃねぇか!」


「あぁ、そうだな。この結果は藤宮の選択によって生まれた。お前らはそれに振り回されただけだ。ただ、その背後にいた人間が最悪にも俺だったというだけだ」


「だったら!」


 黒崎が何かを言いかけた瞬間、俺は手を叩いて彼の言葉を遮った。驚いた黒崎は一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに言い返そうとした。しかし、その前に俺が提案を口にする。


「お前、藤宮に協力する気はないか?」


「…どういうことだ」


「そのままの意味だ。クラスに対して協力しろとは言っていない。藤宮に協力すればいいんだ」


「ふざけるな!ここまでされて、お前の…藤宮に協力しろだぁ!?そんなことするわけねぇだろ!」


「…そうか」


 俺は冷たく言い放ち、少し距離を取った。そして闇刃(ダークエッジ)を発動し、磔にされている四人の指先の影から刃を生成し、彼らの指を切り裂いた。


「いだぁあああぁあぁっあぁあぁ!!!!」


「ゆびがぁっっぁああああああ!!」


「………」


「ああぁぁああああああ!!!!」


 反応は三者三様で、一人は気絶してしまった。それじゃあ良くない。今回は一種の洗脳を行うのだ。洗脳が効果のギフトを使用するのも悪くないが、効果が切れると通常状態に戻り、洗脳が解け、毎回かけ直す必要がある。そこで今回は、心の底から藤宮に対して協力的になりたい…と、本心で思わせる為に俺の言葉を浸透させることにした。


 生憎、殺しはしない。ルールに抵触してしまうからな。最終的には跡が残らないほどに回復させるつもりだ。


「それで?どうなんだ?」


「あぁ!協力する!協力するから許してくれぇ!」


 駄目だな…その場しのぎの言葉だ。本心からの言葉じゃないと駄目だ。


 更に二本目の指を切り裂いていく。


「なんでだよぉぉおおお!!!協力するって言っただろぉ!!!」


 黒崎が叫び声を上げる中、他の三人にも同様に苦痛を与え続けていた。風間、狭間、霧島も、それぞれの指に刃が突き刺さり、同時に地獄の苦しみが訪れる。


「く、くそぉぉぉぉぉおおおお!」


 風間が悲鳴を上げながらも、意地を見せて耐えようとしていた。しかし、刃が彼の指を切り裂くたびに、その体は反射的に震え、顔は青ざめ、まるで死に直面しているかのようだった。


「た、助けてくれ!俺はもう無理だ!!」


 狭間が絶望的に叫び声を上げた。彼の顔は歪み、汗と涙でぐしゃぐしゃになっていた。指が切り裂かれるごとに彼の体はけいれんし、まるでその苦しみから逃れようと必死にもがいているようだったが、無駄だった。何度も回復しては、再び刃が彼の肉を引き裂いていく。


「お前ら!なんで俺たちがこんな目にあわなきゃならねぇんだ!」


 霧島もまた、指に激痛が走るたびにうめき声を上げ、何とか理不尽さに怒りを込めて抵抗しようとしていた。しかし、その声も次第に弱くなり、最後には哀願のように変わっていった。


「お、お願いだ…もうやめてくれ…」


 四人全員が、指が刃で切り裂かれ、絶叫しながらも無理やり回復させられ、再び地獄の苦痛へと引き戻される。黒崎だけではなく、風間も狭間も霧島も、それぞれが自分の限界を超え、悲鳴と絶叫を上げながら苦痛に耐えていた。


 俺が黒崎たちを洗脳している間、深町は目を瞑りながら藤宮の傍に立っていた。どうしたのだろうか…襲われかけた藤宮に情でも湧いたか?

 そんなことを考えつつ、暫く経った後、黒崎からようやく心の底から協力関係になりたいと言い始めるようになった。


「頼むぅぅ…お願いだから……協力させてくれぇぇ!」


 黒崎が泣き叫ぶ声が響き…。


「も、もう十分だろう!協力するから!」


 狭間も震え声で訴える。


「頼む、もう限界だ…」


 霧島もまた、低い声で嘆願していた。


 四人全員が限界に達し、心の底から協力する意思を示した瞬間、俺はようやく手を止めた。彼らの手足は血まみれで、体中が痛みによって震えていた。だが、その目はもはや反抗心ではなく、完全に屈服した者たちだった。


 そろそろ良いだろうか…なんだかんだ始めてから一時間ほどが経過しようとしていた。言っている意思も、ちゃんと本心からということも確認できたし、最後に全てを回復させて黒崎たちに近づく。


「これで最後だ。今からお前らは、俺が何をしたかを忘れる。ただし、今考えたことや意思は忘れない。もし、藤宮に協力するという意思が残っているなら、明日も問題なく過ごせるだろう。だが、協力する姿勢が見えなければ…また最初からだ」


「いやだ…いやだ!」


 黒崎や他の三人も苦しそうな声を絞りだしたが、その目には何かを決意したような光りが宿っている。


 最初からだ…なんて言ったが、実際にもう一度こんなことをする気力は俺にはない。一度きりで十分だ。


 パチンッ


 指を鳴らすと、静かに記憶改竄が発動する。『黒崎以外』の表情は少しずつ和らぎ、針で貫かれていた痛みすらも、彼らの記憶から消えていく。彼らは何が起こったのか、一部を除いて全く覚えていないだろう。ただ、心への傷は今後もずっと記憶される。明日から藤宮に対して協力的な態度を取るようになるだけだ。


「これでいい…」


 楽は冷静にその場を見つめながら、内心でほっと息をついた。手駒の手下として、彼らが正しく動けば問題は無い。だが、それができなければ、再び手を下すことに…面倒だから良いか。その時こそ尻拭いは藤宮に任せよう。


「さて、これで終わりだな」


 深町は藤宮の傍から離れて楽の隣に移動し、相変わらず冷静な顔を浮かべていたが、その口元にはほんの少しの笑みが浮かんでいた。彼女の考えは分からないが、良い事でもあったのだろう。


「深町、藤宮を部屋まで送ってやれ。それと、今日の仕事は素晴らしかった。また頼む」


 深町は一礼し、藤宮を抱えて姿を消した。なるほど、あれは使用者本人の意思があれば他人も透明になるのか…空間に入るといった感じだろうか。


 そんなことを考えながら、その場にある跡をギフトを使用して修復し、四人をギフトで浮かしながら倉庫から出た。


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