020-どうして私は頑張るのだろう
どうして私は頑張るのだろう。
今のモチベーションについて考える。幾つかの要因が思い浮かんだ。
私の性格上、裏切りが発生する可能性がある環境が許せない?
クラスをまとめたい?
恩眼のせい?
楽君の期待のため?
「頼まれたとは言え、どういった繋がりがあるかまだ分からない人の為に、どうして真剣になっちゃうのかな…」
声が震える。これから何が起こるのか分かり切っている。ギフトは使えない。いや、いざとなれば使えるけれど、抵抗したらここまでの『交渉』の意味が無くなってしまう。
今の私ができることは、『交渉』を行い、言葉で抵抗し、受け入れるだけ。
以前話した時よりも更に薄暗く、入り組んだ場所を進んでいく。監視カメラの姿は見当たらず、ここが学園の管理の及ばない場所だと理解した。学園側の管理不足ではく…どちらかというと、ルールにある殺し合い『以外』が発生しうる場所を提供しているような、そんな気もしていた。
涼葉は進みながら、ここ数日のことを思い出す。
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一週間前、夕飯用の買い物をしていた時、黒崎君のグループがショッピングモールに入ったのを目にした。
最近、黒崎君が仕切っている、風間陽翔、狭間鏡夜、霧島律の四人グループは終礼が終わると、直ぐに教室を出て何処かへと行ってしまう。恐らく私を避けるためだと思う。
話をするならここしかない。そう思った私は黒崎君たちが歩いていた方向へ向かって進む。見失っていたけれど、進行方向にはゲームセンターがある。そこに居るだろうと目星を付けて進んでいく。
ゲームセンターへ着き、辺りを見渡す。レースゲームがある場所に黒崎君たちがいた。楽しそうに四人でゲームをしており、私が後ろにいることに気付いていないようだ。タイミングを見計らい、終了するタイミングで声をかけた。
「黒崎君」
「は?なんでお前がここにいるんだ。ストーカーかよ」
「俺らのことがそんなに好きなのかよ~」
黒崎君が毒を吐き、それに次いで風間君も茶化していく。彼らに何か言われたところで、特に気にはしていないけれど、彼らが心のそこから私の事を邪魔者にしたいという意思を感じた。
「イントロダクションについてなんだけど」
「またそれか。お前ももう諦めろよ。クラスに迷惑をかけなければ良いんだろ。俺ら四人で適当にやってるから勝手にさせてくれ」
「どうして黒崎君たちは協力したくないの?」
「逆に聞くけど、どうしてパッと出のお前に従う必要があるんだ?他のやつらもそうだ。お前の容姿が良いからなのか、ホイホイと引っ張られやがって。あぁ、月城とかその周りにいるやつらは、俺らと同じ考えかもしれないけどな」
確かにそうだ…黒崎君の主張も分かる。今やっていることは私のエゴかもしれないし、楽君のためという理由で暴走しているのかもしれない。ただ、それだけではないのは事実だ。クラスポイントを集めた方が今後の学園生活で有利になるというのは、皆にとって悪い話じゃないはず。
涼葉は深く息を吸い、もう一度黒崎君に向き直る。
「どうしたら協力してくれる?」
「…くそ、前の事を思い出しちまった。気分が悪い……交渉だ。お前は俺たちに協力してほしいのを材料に、俺たちはそれに見合うものを材料として交渉を行うなら、協力関係になってやってもいい」
「それは今、聞けるのかな?」
「いや、また今度だ。交渉する場を作る」
協力関係になる為に見合う材料…大体の見当はつく。ただ、確証はなかった。更に厳しい条件を提示するかもしれない。
ブラックボックスに手を入れている状態の私を楽君はどう思うだろう…。「愚かだな」なんて馬鹿にしてくるかな。でも、私が現状思いつく行動はこれしかない。
涼葉は下を向いてふっと笑い、返答する。
「分かったよ。またその場で話そう」
私は愚か者だ。
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そして数日後、連絡が来なかったので、丁度タイミングよく階段の踊り場で居合わせた黒崎君に話しかけた。
「前に話した交渉の場所と日時ってどうなったの?」
「まだだ、場所がまだ決まってねぇんだ。また連絡する」
「分かった…前に話したときに言い忘れてたんだけど、このことはクラスメイトの誰にも言わないでね」
楽君に伝わるのが嫌だった。どうして?と言われると、理由はパッと出てこなかったが、それだけは『嫌』という気持ちだけは鮮明に浮かんでいた。
黒崎君は返事も頷きもせずに階段を降りていく。恐らく大丈夫だと思う。やっている事は良くないけれど、そういった約束は守ってくれると信じたい。
「そんなことを思ってるから、ダメなんだよなぁ私は…」
そんな自分が嫌い…なんて言わないけれど、今回の行動は、自分でも正しいとは思えなかった。これはただの自己犠牲だ。
楽君に助けを求めたらどうだろう。切羽詰まったら彼は助けてくれると思うけれど、恐らく前みたいにギフトの力を使い、実力行使で事を進めると思う。
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楽君と夕飯を食べるために部屋に来たけれど、チャイムを鳴らしても反応がない。一度自室に戻ろうかと思いつつも、念のためドアを開けてみたら、なんと開いていた。
「不用心だなぁ」
驚かせちゃうかもしれないけど、先に夕飯を作って待っておこう。楽君が鍵を開けっぱなしにしてるのが悪いからね。
数分後、楽君が帰ってきた。ちょっと怒られたけど、なんだかんだで許してくれた。そして、食事が終わりかけの時に、怖い質問をしてきた。
「何か困ったことはあるか?」
口から心臓が飛び出しそうだった。楽君は本当に何でも知っているんだろうか…。そんなことを言われると、相談してしまおうかと悩んでしまう。
ただ、私は楽君の隣にいたいと自分から言って、今はこんな生活になった。心地良い幸せな感情を得られた。彼から頭を撫でてもらったときは、何か懐かしいものを感じた。イントロダクションが終わった後にも彼はやってくれると約束してくれた。
折れるわけにはいかないと…私は思った。
「いや、今は特にないかな」
この特別授業が終わって、頭を撫でて貰っているときに…悩みを聞いてもらおう。少しぐらいは優しくしてくれるはずだ。
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目の前には、少し大き目の倉庫があった。彼らを協力的にさせることが、イントロダクションの勝ち筋だ。その功績を楽君が知れば、より褒めてくれる…はず。
もう、怖くない。
ドアを開けて、ゆっくりと中に入っていった。




