019-価値
情報が出ないのは幾つかパターンが存在する。
一つ目は、情報操作系のギフトを持つ生徒がいる場合だ。二つ目は、秘密主義が徹底されており、クラス内部での統制が非常に厳しい場合。三つ目は、三組全体が潜伏行動を取っていて、外部に情報を流さないようにしている場合だ。四つ目は少し特殊だが、深町に対して調査をしていることをいち早く察知され、その調査自体が妨害された結果、正確な情報が取得できなかったという可能性もある。
この中でも有力候補なのは、情報操作系のギフトと、調査自体が妨害された場合の二点だろう。そもそも外部に漏れないように情報を操作していた。もしくは、深町のギフトに気付けた生徒が居て、それに対して不正確な情報が流れることで正確性が担保できなくなった。
「三組は何かしら画策があるのかもしれない。情報が無いということは、俺らのクラスや他クラスに対して妨害をしてくる可能性も高いな」
「その可能性は高そうです。更には、それだけクラス内での協力体制が整っているのであれば、イントロダクションの高順位になりそうですね。」
確かにそうだ。二パターン目に想定した統制が厳しければ、それなりの協力体制が取れて
いるということになる。各自がリーダー格の人物に対して命令されて行っているのか…『洗脳』をされた可能性も否めない。
「これで現状取れる情報は全てか?」
「今回の内容に関しては以上です。今後も追加の情報があれば連絡します」
「分かった。期待している」
場を離れる前に深町に『指示』をしてから解散した。
深町からの情報も含め、三組の動きには注視した方が良いだろう。ただ、俺が見ておくのはあくまで俺に関係ありそうな動きのみ。それ以外は全て深町に任せよう。
そんなことを考えながら廊下を歩いていく。携帯端末を取り出そうとポケットに手を突っ込むが中には何も入っていなかった。
「…教室に忘れたか」
仕方なく教室へ向かう事を決め、足を向ける。放課後ということもあり、通り過ぎる各教室は閑散としていた。そして、四組の教室へ着いた頃に、誰かの話し声が聞こえてきた。教室の中ではなく、更に奥に位置する階段からだった。
「まだだ、場所がまだ決まってねぇんだ。また連絡する」
「分かった…~~」
最後の辺りはボソボソと言っていたのか、聞こえづらかった。そして、話しが終わったのか、何も聞こえなくなり、階段を降りていく足音が響く。もう一方の声にも、聞き覚えがあった。楽は「まぁ、その選択になるか」と独り言を零す。
教室に入り、机の中に入っていた携帯端末を取って、深町へ一言だけメッセージを入れて帰路へ就いた。
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「おかえりなさい」
「…お前、どうやって入った?」
あれから夕飯時は基本、藤宮と食事を共にしている。しかし、今日は深町との情報共有と携帯を取りに行っていた事もあり、彼女が部屋にくる時間よりも帰宅が遅くなっていた。
登校時は部屋の鍵は締めたはずだが、なぜかこいつは部屋に入っていた。
「部屋のチャイムを鳴らしても反応が無くて一回出直そうかなって思ったんだけど、ドアを開けてみたら鍵が掛かってなかったから、先に入って待ってたんだよね」
「入らずに出直せよ」と、鍵が開いていることに疑問を浮かべながらも、軽くため息をつきながら言う。
「だって、せっかく楽君のために夕飯を作って待ってたのに、冷めちゃったらもったいないでしょ?」
藤宮は小さく笑いながら、キッチンに並べられた料理を指さした。
俺はその言葉に軽く驚き、キッチンの方へ視線を向けた。そこには、いつも間にかしっかりと用意された夕食が並んでいた。確かに、藤宮の作る料理は温かい方がいい。今さら文句を言うのも無意味だろう。
「…まぁ、手間をかけたのは事実だしな」
席に座り、藤宮が手際よく料理を運んでくれるのを眺めながら、静かに箸を手に取った。料理からはふんわりと香る良い匂いが漂い、自然と食欲がわいてくる。
「「いただきます」」
お互いに食べ始める。いつも通り美味しい。藤宮の手料理を食べ始めてから、まだ数日ではあるが胃袋を掴まれた気分ではあった。
食が進み、ある程度食い終わった辺りで藤宮へ質問をする。
「何か困ったことはあるか?」
別に藤宮へ情が湧いたとか、手出しをしたくなったということはない。これは彼女の意思を知るための質問だ。これ以上、彼女の方法で進めば、彼女自身が破滅の道へ進むことは分かり切っている。しかし、ここで足を止める人間なのか、それとも進んでいくのか。それを聞くことで、今回の俺の動き方が変わるだろう。
「……」
藤宮は考える。困ったことを考えているのか、それとも……。
「いや、今は特にないかな」
「…そうか」
なるほど。藤宮は進む事を選んだわけだ。その原動力は俺からの期待なのか、本人の性格なのか…どちらが正解なのかは本人に聞くまで分からないが、俺はその言葉に少なからず『価値』を感じた。
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そして、数日後…藤宮は初めて、夕食を作りに来なかった。




