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学園最強の独隠楽生  作者: ます
第1章 イントロダクション
17/27

017-撫でる

「それで、相談はなんだ?」

 

「月城さんや、黒崎君たちのグループについてなんだけど…」


「先に言っておくが、俺から助言することはない。というか、さっきの時間でも言っただろ。考えろと」


 「絶対に諦めない」なんて言っていたよな…と釘を刺す。こんな短時間で心変わりがあったのか?いや、それ以外の何かがあったのだろうか…。

 藤宮は俺の言葉を聞くと俯き、独り言を呟きながら何か考え事をしていた。暫くすると、悩んでいる者とは思えないほどにパッと笑顔を浮かべる。


「そうだよ!諦めないって言ったもんね」


 俺でも分かる虚勢っぷりだ。藤宮の性格を考えるにクラスをまとめることに対しての諦めではないことも分かる。原因は恐らく月城か黒崎のどちらか…もしくは両方に対して何かあったのだろう。


「それで、料理をしに来たのは本当に相談するついでだったのか?」


 藤宮の料理は、ここ数年で味わったことのないくらい本当に美味しかった。そして、誰かと一緒に飯を食べるというのが一人で食べるときよりも「何か」が違うことにも気づけた。


「実はもう一つあって…今度から夕飯は一緒に食べない?」


「どういう風の吹き回しだ」


 俺は作って貰うことには何も文句はないが、藤宮にはなにもメリットがないはず。今回は相談の対価として料理をしに来たと思っているけれど、推測違いか?

 彼女は少し考える素振りをして答える。


「楽君、放ってたらどうせまた今日みたいなご飯ばっかりでしょ?」


「否定はしない」


「やっぱり、あと…一人で食べるより二人の方が良くないかな?」


 正直、悪くない提案だ。自分で料理をする手間が省けるのは助かるが、藤宮があまりにも俺の近くに居続けるのはどう…いや、この学園なら、学園長があの人である限り問題ないかもしれない。


「…はぁ、分かった。夕飯だけお願いしよう」


「うん!」


 藤宮はパァっと顔が明るくなり返事をする。手間が増えるというのに、よく喜べるものだ。



###


 気がつけば食べ終わっていた。藤宮も食べ終わったということで皿を洗面台に持っていき、料理をしてくれたので俺が皿を洗っていた。


「別に私がするのに…。楽君は「こういうことするのは面倒だ」って言うと思ってた」


「確かに面倒ではあるが、作ってもらったのに何もしないっていう非常識な人間じゃない」


「ありがとうね」


 「あぁ」と返事をしながら皿洗いを続ける。洗い終える頃には、藤宮が持ってきていた調理器具や調味料がキッチンに整然と並べられ、俺の暮らしとは不釣り合いな景色が広がっていた。

 まぁ、殆ど使っていない場所だ。後の事は全て彼女に任せるとしよう。


 全ての後片付けが終わり、藤宮は帰宅の準備をする。


「それじゃあ、また明日ね」


 殆ど何も入っていないような荷物を持って立ち上がる。


「最後に……」


 藤宮はもじもじとわけの分からない動きをしながらこちらを見てくる。トイレに行きたいのだろうか?と思い、トイレの場所を指さそうとしたら、想定外のセリフが飛び込んできた。


「頭を撫でてくれないかな?」


「…どうしてだ?」


「なんとなく…してほしくて」


 なんて曖昧な理由なのだろうか。俺が頭を撫でたところで何も得られるものはないはずだが?

 

 理由は分からず仕舞いだったが、特に断る理由もないので、ゆっくりと絹のようにサラサラとした藤宮の髪の毛に自分の手を伸ばしていく。指が彼女の髪に触れると、その柔らかさと温かさが伝わってきた。思わず、軽く指先で髪を梳きながら、優しくなでる。

 ビクッと体を跳ねさせ、少し驚いたように目を見開いたが、すぐにその目を閉じ、穏やかな表情に変わる。


「……気持ちいい」


 小さな声でそう呟いた彼女の顔には、不安だったものが晴れたかのような安らぎが浮かんでいる。


 俺は、その様子を見ながら、なんとなく不思議な感覚を覚えていた。自分が人に優しく触れることなんて、今までなかったからだ。こんなに自然で、静かに心を温めるものだっただろうか。藤宮の髪の感触と、その安らかな表情が、胸の奥に仕舞っていた何かを引き出しているようだった。


 何も言わず、ただ髪を撫で続ける。静かな時間が、二人の間を包み込んでいった。


 暫くして髪から手を離す。藤宮は気持ちよさそうに目を閉じていたが、手を離したことで残念そうにこちらを見ている。


「もう少ししてほしい…」


「もう終わりだ。もし、またしてほしいのなら、イントロダクションを無事終わらせてからだな」


「…分かったよ」


 納得したようだ。これで藤宮が頑張るのであれば元手も安い条件だな。


「あと、まだ出会って数週間だぞ。そんなやつにこんなお願いするのは相当ヤバいから気を付けろ」


「分かってるよ!」


 「分かってるならするなよ…」と言う隙も無く、玄関を開けて自室へと向かっていった。特に相談に乗ってもいないし、藤宮が料理をしに来てただただ一緒に食べる時間になったのだが、彼女はそれでいいのか?

 

 月城のグループと黒崎のグループか…現状で分かりやすく手のかかりそうなのは、黒崎のグループなのだが、月城のグループも問題ないとは言えない。今は藤宮に合わせて動いていたとしても、後に波紋を広げそうな展開になるのは目に見えて分かる。今回のイントロダクション自体が、それにうってつけのルールとも言えるだろう。

 現状、藤宮クラス内を中心にどうにかしようと考えているが、他クラスからの妨害も有り得るだろう。イントロダクションの勝敗は、結局クラスポイントが絡んでくる。他クラスは何かしら相手のポイントを下げようと工作をしてきてもおかしくはない。意思が弱い生徒も複数いたが、狙われるとしたらあの辺りの生徒になるだろう。


 未だ最初ということもあり、問題は山積みだ。藤宮は現在、恐らく黒崎のグループに対して何かしらアプローチをしてると思うが、それがどういう流れなのか…大体の予測はつくな。


 取り敢えず、また後日、深町に連絡をして何かしら情報を貰おうと考え、俺は眠りに就いた。


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