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学園最強の独隠楽生  作者: ます
第1章 イントロダクション
15/27

015-不協和音

 男子グループが退出して、教室は重い沈黙に包まれていた。黒崎たちが立ち去ったことで、空気はまるで重苦しい雲のように張り詰めている。しかし、試験を行うペアを決める必要がある。現状、彼らを抜いた三十二人でペアを組む流れで進められていた。


「…それじゃ、男子が抜けちゃったけど、残った人達で順番にペアを組んでいこうか」


 藤宮の声が教室の静寂を切り裂くように響くが、その声にはわずかな不安が感じられた。だが、それを感じ取る生徒はほとんどいない。皆が無言のまま、クラスの誰と組むかを見定めている様子だ。


「じゃあ…最初に決めるペアはどうする?」


 藤宮はクラス全体を見渡しながら尋ねる。彼女の表情には一応の笑顔が浮かんでいるが、その奥にある不安が完全に隠しきれていない。みんなの視線が自然と藤宮に集まるが、誰もすぐに手を挙げるわけではない。


「月城さん、白神さん、どうかな?」


 藤宮が静かに声をかけると、月城美夜と白神楓が目を合わせ、少し渋々とした態度で頷いた。


「…仕方ないわね、まあやってみましょうか」


 月城がため息をつきながら応じると、白神もそれに続いて二人がペアとして成立した。彼女たちの様子を見ると、他の生徒たちも徐々に動き出す。数人が自ら希望のペアを指名し、ゆっくりとだがペアが次々に決まっていく。


 クラス内は次第に再びざわざわとし始めたが、そのざわつきの中で俺は冷静に状況を見ていた。ペア決めの流れは自然に進んでいるようだが、どこか浮ついた雰囲気が残っている。裏切りを警戒している者、単に藤宮に同調している者、そしてやはり本当に協力的な者…それぞれの思惑が混ざり合っている。

 俺は、そんなペア決めに特別興味があるわけでもなく、ただ傍観していた。どうせこのイントロダクションは、俺と藤宮がペアの時点で『勝てるようになっている』


「それじゃあ…あと数組だね」


 藤宮が少し声を張り上げ、残ったメンバーの確認を始めた。残ったのは、俺を含め数人程度だった。


「東雲くん、どうする?」


 ふいに藤宮の声が耳に入る。どうやら他の生徒たちがペアを決める中、俺の番が来たらしい。前に藤宮に指示した通り、俺と組ませるわけだが、俺が藤宮を指定するのは不自然と判断した。こいつから組ませる流れにするか。


「どうもしない。適当に誰かと組めばいいだろう」


 俺が軽く肩をすくめて答えると、藤宮は少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑んでこう言った。


「じゃあ、私と組まない?」


 意図を汲み取ったのか、しっかりと藤宮はペアの提案をしてきた。

 その提案に教室が少しざわつく。藤宮が現状、リーダー的な存在であり、クラスをまとめようとしていることは誰もが認識している。だが、彼女と俺がペアになるというのは予想外の展開だったのだろう。


「お前がそれでいいなら別に構わないが」


 俺は藤宮の提案に対して特に抵抗もなく応じた。


「うん、私はそれでいいと思うよ。楽くんなら…信じられるから」


 信じられる、か。演技とは言え、彼女のその言葉が少し胸に引っかかった。


「わかった。じゃあ、俺とお前でペアだな」


 そう言い終えると、クラス全体が再び静まり返る。誰もが俺と藤宮がペアになったことに少なからず驚いているのが分かった。しかし、それも一瞬のこと。やがて他の生徒たちも残ったメンバーでペアを決め、静かに準備が進んでいく。

 

 最後のペアが決まり切り、残りはこの場を出ていった男子グループのみとなった。


「それじゃ、ペアが決まったみたいだね。皆頑張ろう」


 藤宮が皆に向けて軽く声をかけ、イントロダクションに向けた準備は一応の区切りを迎えた。さて、クラスメイトはどう動くかだな。

 

 ペアが全て決まったが、教室に残っているのは少しの緊張感と不安感だ。藤宮が皆に向けて前向きな言葉をかけたにもかかわらず、その場の雰囲気はまだ重苦しい。数人の生徒は互いに小声で何かを話し合っているが、その声は曇った空気の中でほとんど聞こえない。


「これで大丈夫かな…」

 

 藤宮が呟くように自分に問いかけていた。


 「全員が納得するわけじゃないからな」と俺は心の中で思いながら、藤宮の背中を見ていた。彼女がどれほど努力しても、表向きでは協力する素振りはしているが、一部の生徒たちが協力する気配は見えない。それでも、藤宮はクラス全体をまとめようとする。


ふと、教室の後ろの方で数人の生徒がひそひそと話し合っているのが目に入った。耳を傾けると、どうやらペア決めに不満があるらしい。特に意思もなく、藤宮にペアを提案されて受け入れたが、ペアを組む相手が自分の期待とは異なったようで、露骨に嫌がっている声が聞こえてきた。


「なんで、あいつと組まなきゃならないんだよ…」

 

「ちょっとキツいな、これは…」

 

 などと、不満が漏れているのを、俺は見逃さなかった。なら、誰だったら良かったのか、何故それを言わないのか。意思が弱いというのは考えものだな。


「…やっぱり、意図せずして裏切りの兆しは早くも出てきているか」


 俺は静かにその声を聞き流しつつ、冷静に状況を見守った。藤宮がどれだけ頑張ろうと、この不協和音をすべて解決するのは難しいだろう。しかし、そこに付け入る隙があると考えるのも一つの手だ。


 そんな考えが頭を過ぎる中、藤宮は気づかないままクラスメイトに次の準備について声をかけ続けている。

 

 「さて、ペアが決まったみんなで打ち合わせしよう」


 その提案に、一部の生徒たちは渋々と従って動き出したが、どうもその反応は微妙だ。楽はそんな様子を見ながら、次の動きを見据えていた。


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