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学園最強の独隠楽生  作者: ます
第1章 イントロダクション
13/27

013-契約をしよう

 翌日、教室へ着くと、予想通り藤宮はあまり話したことのない女子生徒のグループに混ざって、何か話していた。行動が早いのは評価出来るが……


「裏切りが起きないように……クラス全員で協力すれば……大丈夫だから!」


「う、うん、そうだね」


 自席から遠いので断片的にしか聞こえないが、誘い方が微妙だな。藤宮の方針に口を出すつもりはないが、今の誘い方じゃ成功しないだろう。女子たちも藤宮との温度差が大きいから、今は適当に相槌を打っているだけに見える。

 前途多難だ。まぁ、本番までには一か月あるから、その間にどうにかマシにはなるだろうが…。



###


 藤宮はその後、数日かけて女子生徒、さらに数日かけて男子生徒へと声をかけ、イントロダクションのために話の輪を広げていった。彼女の真面目な性格に賛同する生徒も多く、現時点でクラスの四分の三は賛同している。ただ、残ったのは厄介な二つのグループ。俺が注目していた男子四人組と、クラスの中心的存在である女子五人組だ。


 何度か話しかけようとしていたが、女子グループには軽く流されてしまい、全く聞く耳を持たない状態だった。男子グループは過去の事があるのか、軽く流すどころか声をかける時には移動を始めていたのだ。


 さて、藤宮はどうやってこの二つのグループにアプローチするつもりだろうか。あいつの性格を考えると、うまくいくとは思えないが…。藤宮がクラスメイトへの対応に奔走している間、俺も自分に降りかかっている厄介事をどうにかする必要があるな。

 数日前の帰宅途中に感じた視線は、その後も様々な場面で感じ続けていた。授業中も、帰宅中も、自室でも、常に誰かに見られている感覚があった。しかし、やはりそこに姿は見えない。暫くすれば、向こうから顔を出すと思っていたのだが、必ず一定の距離を取っており、近づく気配すらなかった。


 そろそろ我慢の限界だ。こちらからコンタクトを取るしかない…そう思い、いつものように寮へは行かず、屋上へと足を向けた


 そこには…


「東雲楽、どうした?そんなに睨んで」


 フェンスにもたれかかり、煙草を吸っている学園長が居た。


「学園長が…いや、違うな」


 ぼそりと独り言のように呟き、学園長がいる方向へと近づく。学園長を前にしても、視線の先はやはり後ろだ。特に学園長と話す内容はないが、丁度いい。イントロダクションについて聞いてみるか。


「イントロダクションは…というか、今後行うであろう特別授業は、学園長が考えたルールですか?」


「いや、先代の学園長が考えた概要とルールだ。バランス調整で少し手を加えた部分はあるが、根本を変えたことはない。お前の言いたいことは分かるぞ。裏切りについてだろう?別に仲を悪くしろという意味合いで入っている訳ではない。ただ、蹴落とし合いは必要だからな」


 蹴落とし合いか。俺は今後も第三者で居続けたいところだが…藤宮を表立って動かすにも限界があるだろう。


「あまり面倒なものはしたくないんですが?」


「それはお前が問題だろう。その考えを変える気はないのか?」


「ないです」


 きっぱりと言い放つ。俺が第三者で居続けられるのなら、そのための努力ならば少しだけ取り組むつもりではあるが、それ以外であれば基本何にも関わらずに過ごしているだろう。

 今回のクラス全体で協力するような特別授業が今後出てきたとしても、藤宮を利用してどうにかする予定だ。


「…そうか」


 学園長は煙草を携帯灰皿に入れ、屋上の入口へと向かう。俺は『本来の目的』のため、その場に居続けた。

 彼女はこちらを向かずに、俺に向かって話した。


「面倒なことはしたくなくても、勝手に巻き込まれていくものだ。現にこうして、巻き込まれているだろう」


 ふふ…と、微笑を浮かべながら屋上を後にする。

 

 俺は、学園長が完全に視界から消えたのを確認して、溜息をついた。これは自分が第三者で居続けるための努力だ、と自分に言い聞かせる。


「契約をしよう」


 返事はない。


「お前の望みは『入学式』の時点で分かっている。姿を現わす気は無いのか?」


 またしても陳奥が帰ってくる。

 再び溜息をつく。事前に用意していた針を手に取り、構える。そして身体操作(コントロール)で筋力を強化し、屋上の入口のドアに向けて、高速で針を放った。


パリン


 ガラスが割れたような音が鳴った瞬間、空間がゆっくりと歪み始めた。視界が揺れ、まるで周囲が波紋を広げる水面のように変わっていくのを感じた。何かが反応したのだろうか…そう考えた瞬間、目の前にかすかな光が生まれ、その光が徐々に拡大し、誰かの影が浮かび上がった。


「俺は、お前の希望を実現できる唯一の存在だ。命を預ける覚悟があるのならば、その殻から出てこい」


 声を発すると、その影はゆっくりと形を整え、こちらに歩み寄ってきた。姿ははっきりしないが、感じていた視線の正体が今、目の前に現れていることは間違いなかった。


「やはり、見えていたのですね」


 歪みが発生していた空間から出てきたのは、深町志乃だった。彼女は少し笑みを浮かべて、こちらに向かってきた。だが、その目は笑っていない。彼女の視線には、何か重いものが宿っている気がした。彼女が単なる好奇心で俺を追っていたわけではないことは、容易に想像できた。


 ギフト能力測定の時に横目で軽く見た程度だが、相手を圧倒していた姿が印象に残っている。高速で移動していた俺とは違い、空間ごと捻じ曲げて自分の姿を消すのなら、相手にならないよな…と、納得した。藤宮の恩眼だと見えるのだろうか?少し気になる。

 さすがに四六時中近くに居たわけではないだろうが、このギフトはただ姿を隠す以上のものがあるに違いなさそうだ。


「それで、出てきたという事はお前にその覚悟があるということなんだな?」


「…えぇ、そのつもりです」


 深町の目が鋭く光った。その目には、自らの死すら厭わないような決意が込められている。彼女にはそれほどまでに叶てたい希望があるのだ。

そして、どうやらこいつは、俺の本当の姿を知っている。


「それじゃあ…条件の提示といこう」


 取り敢えず、こいつの存在は好都合だ。これで今回のイントロダクションも含め、楽に進める事ができそうだ。


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