011-イントロダクション
ギフト能力測定の日から一週間が経った。藤宮は学園内ではしっかりと契約を守り、以前のように積極的に関わろうとしてくることは無かった。
時々こちらを見る視線を感じるが、それくらいなら特に問題は無い。今は無視しても支障がない程度のものだ。
あれ以降、特に大きなイベントはなく、普通に高校生のような授業を受け、平穏な日々を過ごしていた。
あの日のことが誰の口からも語られないということは、記憶改竄が成功した証拠だろう。学園長が視覚の情報を遮ってくれたおかげで、記憶の改竄も順調に進んだ。視覚と聴覚の違いによって脳に入る情報が分散され、一度の改竄では処理しきれなかった部分が軽減されたのだ。
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今日も問題なく授業が終わり、終礼の時間が始まった。
「今日の終礼は少し長くなるかもしれないよ〜」
浮島先生の一言が不安を煽る。連絡事項や課題提出の進捗について説明があった後、「最後に」と先生は教卓に置かれたタブレットを操作し、教室前方のモニターにプレゼンテーションソフトのような何かを映し出した。
自己紹介
自己紹介?今さらクラス全員で改めて自己紹介でもするのか?いや、それにしてはサブタイトルにある『イントロダクション』という言葉が引っかかる。何か個人ポイントに絡む授業の一環なのだろうか?
「みんなが最初に受ける特別授業は、自己紹介!通称『イントロダクション』です!」
その一言で、周囲がざわつき始めた。誰もがこの特別授業が何を意味するのか、予想がつかない状態で不安に包まれている。一部の生徒は小声で何かを話し合い、互いに視線を交わしていた。最初の特別授業という事もあり、気を引き締めて、ルールの説明に耳を傾ける。
「基本的に特別授業はコードネームで呼ぶことになるので、これ以降はイントロダクションと呼んで下さいね。それじゃあ、詳細を説明していくね……」
イントロダクション本番は五月十五日で、ルールはこうだった。自己紹介を通じて、クラスメイト同士がどれだけお互いのことを知っているかを競う試験だ。各個人には設定された個人ポイント、クラス全体にはクラスポイントが与えられる。試験の進行中にこれらのポイントが増減していく仕組みだ。
試験は、クラス内で指定されたペアごとに部屋に入り、十ターンにわたりお互いに質問し合う。相手の答えが正解なら個人ポイントを獲得でき、相手のポイントは現象する。一方、間違えれば自分のポイントが減り、相手にポイントが加わる。差し引きした結果、マイナスポイントがクラスポイントに反映される。クラスポイントは五ターン目のインターバルで確認可能となっている。
「個人ポイントが減る…?」
ルールが進むにつれ、生徒たちの表情が段々と険しくなっていく。お互いの関係を試される授業だとは思っていたが、実際に自分の成績に直結するポイントがかかっているとなると、誰もが気を抜けない状況だ。「裏切り」という言葉が浮かんだ瞬間、いくつかのグループで静かな視線のやり取りが始まった。
全体の勝敗は、最終的にどのクラスが一番多くクラスポイントを残せたかで決まる。その順位に応じて個人ポイントにボーナスが加算される仕組みだ。表面的にはお互い協力し合う授業のように見えるが、実際には個人の利益を考えて裏切ることも許されている。
これだけ聞けば、裏切る意思がなければ各個人で答え合わせを行い、それを本番で言い合えば良いと思うだろう。それ自体ルール違反では無いし、そういった制限が無いということは、攻略の一つとして容認されているようだ。
そして、恐らく今回の試験で大事な要素として、特殊ルール『0点ルール』というものが存在する。10ターン目にポイントがマイナスでもプラスでもない0点に出来れば、『0点にした側』に特大のポイントが入る。
「ざっとこんな感じかな。何か質問はある?」
と浮島先生が微笑むが、クラスは一瞬静まり返った。
やがて一人の生徒が手を挙げて口を開く。
「特大のポイントって、どれくらい入るものなんですか?」
「実際に受け取ってからのお楽しみ〜…と言いたいところだけど、それは裏切りが必須になるから…私は推奨しないかな」
推奨しないということは、浮島先生はあくまで個々の判断に任せる姿勢のようだ。他の教師の方針が気になるところだが、現時点では自分の利益を考えた行動をすれば問題なさそうだ。
今回のルールを考えると、どう動くかが問題だ。藤宮はおそらくクラスポイント重視で動くだろう。あいつはクラス全体の利益を考えるような性格だからな。一方で、俺は……自分の手駒として藤宮をうまく使えば、それで十分だ。0点ルールを狙うか、それとも…。
まぁ、藤宮が自ずと進んでクラスをまとめられれば良いのだが…な。
俺は教室の片隅にいる四人の男子に視線を向けた。
彼らは以前、藤宮を襲った四人組だ。藤宮はその後、倒れていた四人を助けるために救護を呼んでいたが、場所と状況に怪しまれていた。しかし、藤宮は被害者であるにも関わらず彼等を庇う事で、軽い処分で済んだ。
しかし、藤宮の証言のみではその状況を庇いきれなかった。そこで、先んじて学園長に『二つ』貸しとし、今後起こりうる事柄に関しては何も無かった事と処理してもらう契約をした。
ギフト能力試験で俺と藤宮のマッチアップを設定したのも、この契約のせいだろう。
男子四人組は恐らく協力には応じ無さそうだ。前回藤宮との交渉…と言えるか分からないが、上手くいかなかった事もあり、反発するだろうなぁ…と。
藤宮が上手くできるか分からないが、上手くいかなかった時の対処も少し気になる。
あいつは自分から手駒になることを望んだのだ。一先ず、使える事を証明してもらおう。
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