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プロローグ

「ええと、これに青を入れて、白も入れたけどんーなにが足りないんだろう?」


「これには赤を入れてみたらいいかもね」


「え?大八木さん!?赤??」


楓は言われた通りカラーペーストに赤を追加する。本当だ。ライトブルーなのに赤を入れると色が近くなった。


「え?本当だ!薄いブルーなのに、赤で調節できるんですね!」


「うん、これ、なんとなく色が赤っぽいとおもってね。」


楓はその色彩感覚能力に度肝を抜かれた。まさかライトブルーで青と白から作った色に赤を混ぜて色を近づけるとは。全く盲点な組み合わせだった



宮内楓 24歳


職業 革製品の修理。福井にある、バッグや財布、革靴など革製品の修復、リペアの会社の社員だ。ここの会社に就職してちょうど一年が経つ


東京で多摩美術大学、造形学科を卒業した楓は、卒業の3ヶ月前になっても就職が決まらず慌てふためいてた


「卒業制作はどうにか終わったけど、就職がなあ。造形を生かせる仕事に就きたいんだけど」


「あんた、まだそんなこと言ってるの!?早く決めないと就職浪人するよ!まともに自分の人生も決められないんだったらなんで美大なんか行ったんだい!」


楓は小さい頃からものづくりが好きな少女だった。小学校は図工が1番楽しみで、中学、高校は美術部にはいり、大学はそのまま持ち前の感性で東京の多摩美術大学、造形学部に一発合格。そのまま色々授業に参加し、優秀な学生として単位を取得していった


楓は「ゼロからものづくりをする」という感覚になにより魅力を感じていた。そして絵画やグラフィックなどの二次元ではなく、「形あるもの」の造形にとても特化していた。そして造形学科では主にアニメやゲームキャラのフィギュアなどを作っていた


「いや、お母さん、だからあたし、フィギュアの造形師になるんだって!それがあたしの夢なんだから!」


「とかなんとかいって!あんた就職活動全然してなかったじゃない!もう求人票も全然ないし、就職できたとしても、ロクなところないんでしょ!どうするつもりなの!」


「フィギュア制作会社に就職できなかったら、フリーランスでやっていくよ!それでもやっていけるんだから!」


「美大でてフリーランスなんて!そんなのダメに決まってるでしょ!ちゃんとしたところに就職しなさい!」


そうなのだ。楓は卒業制作や自分の作りかけの作品を完成させることに没頭していて、就職活動をろくにしていなかった。周囲が必死に内定を取ろうとしていたとき、楓は自分の作品をつくることばかりしていた。そのため、卒業間近でも就職先が決まっていなかった


大手のフィギュア造形会社はもはや早い段階で就職の門を閉じていた。いくら楓が優秀な技術をもっていたとしても、書類すら送っていなければ当然みてもらえるはずもなかった。楓は腕は確かではあったが、計画性のない人間だった



「飲食業の就職もあるけど、パティシエって柄でもないし、あとはパン屋か。クロスの張り替えの仕事とかもあるけど、もういいところは全部門を閉じちゃってるよなあ」


楓は自分のやりたいことと、就職の現実を照らし合わせて考えていた。フィギュア造形はやりたいけど、フリーランスでもできるし、そうすると普通のOLになって就職して、休みの日に活動しようかな。けどせっかく美大を出たのに関係ないところに就職するのもなあ


そんなこんなで考えていると、インターホンがなった。楓が玄関を開けると、宅急便で荷物が届いた。どうやら母親宛に届いたバックのようだった


「こちらにサインをお願いします」


楓はサインをし、バッグを受け取ると、中に入った。なんでバッグ?そう言えばお母さん、こないだまで使ってたエルメスのバッグ、もうかなりボロボロだったから新しいのでもかったのかな?


そんな風に考えていると、なんとなく発送元に目がいった。発送先は福井県からだった。え?福井県?福井県から

バックを買ったの?


「革修復ウェルカム」という福井の会社から送られてきたようだ。革修復?


楓はとうとう我慢できず、母親の荷物なのにその場で開封して中身をみてしまった。家族とは言え、他人宛に届いた荷物を勝手に開封するのは良くはなかったが、楓のもつ旺盛な好奇心がそれを上回ってしまった


「え?これって?」



そこには前に母親が使っていたエルメスバーキンの白のバッグだった。ああなんだ。前のは剥げてボロくなってたからおんなじやつ買ったのか。新品ではないようだが、かなりの良品の中古品だった


「それにしてもお母さんは物好きだな。いくらあのバッグが好きだからって同じやつ買わなくてもいいのにって、え?」


次の瞬間、楓はそれが買ったものではないことに気づいた。母親がこのバッグを買った時にオーダーでイニシャルを入れていたのを知っていた。そしてそのイニシャルがその届いたバッグにも入っていたんだ


「これ、お母さんが三年前に買ったバッグだ。え?あんなボロボロだったのに、これ直したやつなの!?」


この時楓の中にとんでもない衝撃が走った。あんなボロボロだったバッグをここまで綺麗に治せる業者がいるのか?もう古いから買い換えようとしていたあのエルメスのバッグを、ここまで!?楓は慌てて送られてきた福井県の会社をインターネットで調べて、情報を収集した。そしてここから、楓の人生は大きく変化してくのだった



今まで造形一筋だった楓にとって「リペア」というジャンルは未知のものだった。そういえば美大の卒業生で修復家になった人がいたが、仕事量に見合わない給料だったため、すぐに転職をして普通のサラリーマンになったことを聞いた


「けど、あんなに綺麗に治せる業者がいるんだ。それに外側だけじゃなくて内部まで。え?すごい。あんなの美大じゃ絶対に治せないのに」


その日の夜、楓はすぐにこのことを両親に話し、リペア会社に就職することを決意した。当然両親はこの突拍子もない告白に驚きを隠せなかった


「楓がやりたいなら別に反対しないけど、東京から福井にいきなり一人暮らしするの!?え?福井?大丈夫?」


「うん、あたしもあの会社に入って、あんな風に治せるようになりたい!修復家じゃなくてレザーリペアっていう職業にあたしついてみたいの!」


「そう、まあ楓の人生だから、楓が決めればいいから、それならいいんじゃない?」


こうして両親の了解をえた楓は福井県にある革修理の会社に就職をすることに決めた。その会社は特に従業員を募集していなかったが、楓は現地に出向き、どうにか頼み込みなんとかそこで働かせもらうことになった


こうして楓の新社会人生活はレザーリペアとともに福井でスタートしたのだった

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