2.挑発。
「ところで、ゴールデンルーキー、とはなんだ?」
「なんだよ。本人は、まったくの無自覚だったのか」
酒場で一緒に夕食を摂りながら、俺はふと気になったことをランドに訊ねた。すると彼は大きな骨付きの肉を喰らいながら、器用にそう言ってみせる。
口の中のものを飲み込んだ後、カンカンと皿を叩きながら話し始めた。
「突如、王都の冒険者ギルドに現れた期待の新星! 魔法に剣術、あらゆることをハイレベルにこなす賢者様、ってな! ――いま、アイツは何者か、ってもっぱらの噂だぜ?」
「賢者、か……ははは」
思わず乾いた笑いが出る。
まさか、あのポンコツ二人と一緒に旅をして手に入れた技能が、このような形で日の目を浴びることになるとは。ますます名前と、魔法で髪と瞳の色を変えておいて良かったと思った。三年前のことを知る人間に会えば、詰問に遭うだろう。
しかし賢者というのは、少々言いすぎではないか。
俺はあくまで、一介の【治癒術師】に過ぎなかったのだ。
「まぁ、期待されるのは悪くないな」
それでも、ある意味で過酷を極めた旅と比べれば遥かにマシ。
力を正当に評価される冒険者という職は、肌に合っているのかもしれなかった。そう考えながら、俺はエールに口をつける。
そのタイミングで、ふと隣にいるキーラがこう言った。
「ところで、この王都での最高位といっていたが?」
「あぁ、それか」
キーラが訊いたのは、ランドのランクについて。
最高位ということは【S】というあたりが、妥当なのだろうか。そう思っていると、彼はニヤニヤとしながら、こう口にするのだった。
「オレ様のランクは【SSS】だぜ」――と。
それを聞いて、俺は眉をひそめた。
【SSS】というのは、耳にしたことがない。少なくとも三年前――アイツらと旅立ったときにはなかったランクだった。
単純な話、二段階上のランクということになるか。
しかし、それにしては……。
「そこまで、脅威を感じないものだな」
「ほう……?」
俺は素直な感想をランドに向けた。
すると、そこに至って彼は鋭い視線をこちらへ。殺気がこもった、とでもいえばいいのか。少なくとも闘争心が生まれたのはたしかだった。
それでも、まだ足りない。
「――ランド。ずっとそうやって威圧しているが、そろそろ本気をだしたらどうだ?」
「ずいぶんな言い草じゃねぇか、アイゼン」
「そう思うなら、こちらを本気にさせてみると良い」
「…………」
特段、大きな声を出したわけではない。
しかし彼から発せられる空気感が、そうさせるのだろう。
周囲の冒険者たちが騒然とし始めたのは、決して偶然ではなかった。ランドから流れ出た殺気が、多くの人間の精神にプレッシャーをかけている。
それだけで、酒場から逃げた者がいるほどに。
「これは、楽しみだな」
ランドが、短くそう言って立ち上がった。
どうやら仲良しこよしは、ここまで。乱暴に金をテーブルに置いて、赤髪の剣士は口角を歪め、こう告げるのだった。
「改定戦は、明後日。精々それまで――」
目を大きく見開きながら。
「その首、綺麗に洗っておくんだな?」――と。