1.初めての戦闘と、出会い。
「さて、手頃な魔物はいるか……?」
俺はあのポンコツたちと旅をしていた時には味わえなかった、そんな緊張感に舌なめずり。目の前には強力な魔物とされている【ヒュドラ】の姿があった。
しかも一体ではない。
ざっと見ただけでも五体――いや、もっと多いだろうか。
「まぁ、数はどうでもいい。俺にとっては、本気で戦えることが重要だ」
呟いて、俺は物陰から飛び出す。
あの勇者たちと一緒になって、ままごとのような戦いを続けてきた。そのことから解放される、そちらの方が俺にとっては重要なのだ。
腰元から剣を引き抜くと、それを正面に構える。
GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!
すると、そんなこちらを認めたらしい。
ヒュドラの数体が、俺目がけて襲い掛かってきた。
「いいぞ、その速度だ……!」
勇者たちと相手にしていたゴブリンなどとは、比べ物にならない。そんな速度で放たれた一撃を回避しながら、俺は自然と笑みを浮かべていた。
そして同時に、八つあるヒュドラの首を一本斬り落とす。
奇声が木霊した。
そうすることによって、すべてヒュドラの標的が俺になる。
「次は、魔法だ……!」
敵が一ヶ所に集まったのを見計らって、俺は右手を前にかざした。
そして――。
「燃え盛れ――【エンシェントフレイム】!」
詠唱を破棄し、ついぞ使うことのなかった上級魔法を放つ。
大地に魔法陣が展開され、ヒュドラを炎が包み込んだ。
「ふむ……」
次に残されていたのは、魔素の欠片。
すなわち、すべてのヒュドラが消滅したことを示していた。
「なるほど、な」
俺はそれを確認してから、自分の手のひらを見つめる。
これでどうにか、己の実力を確認できた。これなら、冒険者として真っ当に生活することができるかもしれない。
ひとまず、それが分かっただけで今日は収穫だった。
換金アイテムである魔素の欠片を回収し、俺はダンジョンを後にする。
しかしこの時、ある人物がこちらを見ていたことに気付かなかった。
◆
ギルドに併設された酒場には、多くの冒険者が集う。
彼らにとっては情報交換の場所であり、また同時に交流の場だった。酒の匂いが得意ではない俺だったが、王都の近況を知るならここが最適だろう。
そう考えて、俺はカウンター席に腰かけてエールを煽った。
「しかし、三年でずいぶんと変わるものだな」
そこでふと、帰りに見て回った街の様子を思い返す。
ポンコツたちと一緒に旅に出てから、知らない建物が増えた気がした。これではもう、一人で行動すれば迷ってしまうだろう。
そのことに新鮮さを感じると共に、寂しさを覚えていた。
「やあ、そこのお兄さん? 隣、いいかな」
「ん……?」
その時だ。
俺にそう声をかけてくる人物があったのは。
見ればそこには、一人のエルフの女性の姿があった。銀の髪に蒼の瞳。すらりとした身体つきをしているのは、ローブを羽織っている上からでも分かった。
「どこも満席で、ね」
「あぁ、そういうことか」
俺が手で促すと、彼女は会釈をしてから席に腰かける。
そして、こう名乗るのだった。
「私の名前はキーラ・ディンロー。気軽にキーラと呼んでほしい」
「あぁ、俺はアイゼンだ」
こちらも自己紹介すると、キーラは小さく笑む。
「ところで、キミはソロなのかい?」
そして、そう訊いてきた。
ソロというのは、つまり一人で活動している、という意味。
俺はどうしたのかと思いながら、それに頷いた。するとキーラは――。
「それなら、ちょうど良かった! 仲間を探していたんだ!」
言って、俺の手を取った。
そしてさらに、こう続けるのである。
「ぜひ、私とパーティーを組んでほしい!」――と。