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第1話

「あ、おはよう! お父さん!」


 農家の朝は早い。日の出と共に目覚め、畑へと出る。


「あぁ、おはよう、メリッサ。さて、今日も頑張るか」


 父に挨拶したメリッサは、さっそく家から外へと出る。そこに広がるのは、何時もの村の光景だ。鍬や鋤、鎌といった道具を手に持った人々が、各々の畑へと向かいのんびりと歩いて行く。しかし、その姿はどことなく元気の無いものであった。


 --やっぱり、年貢の増徴が厳しいんだ……。


 そんな大人達の様子を見て、メリッサは心を痛めた。少しでも頑張って収穫を増やそう……子供ながらにそう決意をし、メリッサは一家の担当する畑に向かった。


 畑に植えているのは芋である。収穫量も多く、育てやすい。この国では主食とされる作物であった。


「うん、みんな元気そうだね!」


 青々とした葉を見て、メリッサは笑顔を浮かべた。それから、早速水やりの準備を始める。畑の近くに井戸はあるが、水を汲むのは子供のメリッサには中々の重労働だ。しかし、泣き言は言わない。今は、言っている場合ではないのだ。


「……………あれ? あんなところに案山子なんて立ててたっけ?」


 そして、再び畑に戻り、水をやろうとした時であった。昨日までは無かったであろう物が目に入る。それは、案山子のようであった。人型ではあるが、明らかに人間ではない造形……。


 --うわー。趣味の悪い案山子だな……。


 よくよく見ると、その案山子はまるで人の骨の様な姿であった。それが、逆さになって畑へと突き刺さっているのだ。


 --これって、人の足の骨だよね。気持ち悪いけど、良くできてるなー。あれ? これって、指先とかどうやってくっついてるんだろ?


 最初は君が悪かったメリッサだったが、段々と興味の方が勝ってきたのか、骨へと近づきツンツンと突き出す。まさか、本物の骨な訳無いし……そう考えていたのだ。


「フハハハハハ! これこれ、人族の少女よ。くすぐったいではないか!」


「えっ? 誰!!?」


 唐突に聞こえた笑い声。それは、聞いたことの無い男の声であった。メリッサは驚き、慌てて立ち上がる。


 しかし、周囲に人の姿はない。あるのはボーンと畑に突き刺さる骨のみ。


 --気の所為、なのかな?


 メリッサがそう考えた時だ……。


「すまぬ、少女よ。儂のことを引っ張ってはくれぬじゃろうか……なんというか、こぉ……絶妙な具合に突き刺さってしまってな、抜けんのじゃよ。これ、魔王様に究極の関節技とやらを掛けられた時と同じ具合じゃぞ、マジで……偶然というのは恐ろしいものじゃな! フハハハハ!!」


 また、声が聴こえた……いや、もう自分を誤魔化すのは止めよう。メリッサはそう決意をして、骨に向かい声を掛けた。


「あ、あのぉ……ほ、骨さんが喋ってるの?」


「その通り! 骨さんが喋っているのじゃ! どこから声が出ているのかは、骨さんでもわからんがね! フハハハハ!」


 この骨の正体は、ご存じリッチ・モンドである。


 何故、彼がこのような状況へと陥ったのか……それは、高まったスローライフへのワクワク感に後押しされ、適当に転移魔法を発動しさっさと飛んでしまったが故の悲劇であった。


 要するに、適当に飛んだら結構な上空に転移してしまい、そのまま真っ逆さまに落ちちゃった(てへ


 と、いう訳である。


 まぁ、そんな事情を知る由もないメリッサは、リッチ・モンドに対して若干引き気味で話かける。


「そ、それで骨さんはどうして畑に刺さってるの?」


「うむ、それは空から落っこちてきたからじゃな!」


「ど、どうして喋れる?」


「うむ、それは儂にもわからん! どうやって喋っとるんじゃろうな、儂……」


「ど、どうして……ここに来たの……?」


「……それは、じゃな……ここで、スローライフを送る為じゃよ!! フハハハハ!!!!」


「…………すろー、らいふ?」


 ーーほ、骨さんの言うすろーらいふって何なの!?


 メリッサ、大混乱である。


 そもそも、まだ幼いメリッサにはスローライフの意味が解らないのだ。そもそも、農民であるが故に普段の生活がすでにスローライフなのだから、その言葉を聞くことすらない。


 --も、もしかして……この村を支配して、みんなを骨にしちゃうの!? そんなのダメ!!


 結果、メリッサはそんな使命感に目覚めてしまったのだ。


「ほ、骨さん! 悪いことは絶対にメリッサが許さないんだから!! えいえいっ!!!!」


 そして、骨に対して行われる攻撃。ぽこぽこと必死にメリッサはリッチ・モンドを叩き続ける。


 --儂、これ攻撃されとるのかの? うぅむ、何やら勘違いされとるのは確かじゃなぁ。儂、骨じゃしな! それにしても、まだ幼いと言うに、なんとも勇敢なことよ。良きかな良きかな。


 もちろん、そんな攻撃がリッチ・モンドにとって骨まで響く一撃になるはずもなく、むしろホンワカとさせるだけであった。


「ふぅむ、人族の少女よ。儂は、お前さんに危害を加える気なぞないぞ? 魔王様の……いや、人族の間ではアルトゥリアの奴じゃったか……女神の名において誓うぞ? 女神の誓約書にサインしても構わぬ」


 ちなみに、女神の誓約書というのは、人族にとって重要な契約を行う際に使われる書類である。これにサインをすると、誓約に沿わぬ行為をしたときに天罰が下るのだ。


 それを聞いたメリッサではあったが、ぶっちゃけ小さな少女が誓約書などと言われてわかるはずもない。しかし、女神様とのお約束がすごく大切で、破っちゃうとすっごく怒られるというのは経験上良く知っていた。


「骨さん、女神様とお約束するの? 破ったら、すっごく怒られちゃうんだよ?」


 過去を思い出したのか、プルプルと震えながら、何故かリッチ・モンドを心配してしまうメリッサ。それほどに、女神様とのお約束というのは大切なことなのだ。


「うむ、大丈夫じゃ。儂、リッチ・モンドは女神アルトゥリアの名において、お嬢ちゃんやその家族に危害を加えぬことを誓おう」


「……もし、お約束を破ったら、すっごい事になっちゃうんだからね? 晩御飯とか食べれなくなっちゃうんだよ? それに、納屋に閉じ込められちゃったり……」


 --それだけ、せっかんを受けとるんじゃな……。


 リッチ・モンドはそう考えたら、言わぬが女神ほとけという奴であろう。まぁ、なんやかんやはあったが、ここに誓約は為されたのであった。

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