3秒後の知球 (『僕が小説を書く理由』より)
僕が長いこと机の上で小説を書き続けるのには理由がある。
まっさらな原稿用紙につらつらと鉛筆を滑らせていくとき、僕は神にでもなったような気持ちになれるからだ。
たとえば、ここに1人の女の子を出す。それからこの女の子をどんな目に遭わせようが、全ては僕の筆の動くがまま。
適当に遅刻させてイケメンとひと悶着起こさせても構わないし、得体の知れない何かを追加してアッと驚くようなホラーにしてもいい。武器を持たせて冒険に出かけるように仕向けてもカッコいいし、いっそのこと最初にいきなり死なせてミステリーに持っていくのもアリだろう。
そのとき僕は、この女の子からは遠く意識の及ばない存在・神として、その世界ごとあっちにもこっちにもこねくり回す。その世界ではどんな天変地異が起ころうが、誰も僕を非難しないし、できない。まあできないこともないが、気軽にそれをやってしまうと一気にその世界がめちゃくちゃになりかねない、諸刃の剣だ。だから僕は皆にとって及ばない存在のままでいい。
もはやこれは、僕だけの力で1つの星全体を動かしていると言ってもいいだろう。僕はこの星の3秒後を知っている。その答えは、僕が握っている鉛筆の芯の中だ。よし、ちょうど今から出すところだから待っていてくれ。
階段の下から母ちゃんが叫んできた。
「タケル! さっさとお風呂入っちゃいなさーーい!」
「ちっ、今いいところだったのに」
みんな、家に帰ったらスマホとかゲームばっかりだが、もっと気軽に神になってみたらどうなんだ? 神は何人いたっていいし、養われていたってできる。少なくとも5年1組には1人いるんだぞ。