特訓!?
ナオとサヨとキーナのおかげで、アベルとラヴィエルは復活した。
その後、協会本部の総帥シャマールの誘いで狩猟者になったナオとサヨは、ラヴィエルの指導の元、特訓を開始する。
「・・・あれっ?」
ここはどこだっけ?
ああ、そうだった。ここは確か協会本部・・・。
昨日はあのあと、それぞれの部屋に案内された。これからしばらくは使ってもいいそうだ。
1人部屋にしては広すぎるように感じる部屋のベランダからは、暖かい朝日が差し込んでいた。
そう言えば昨日は、ひどく疲れた一日だったなあ・・・。
「あなた達に頼みがあるの。」
「頼み・・・ですか?」
シャマールは、部屋を出ようとしたオレたちをひきとめた。
「ええ、あなた達もさっき戦ったでしょう?あのオオカミ男だけではないわ。危険なモンスターたちが各地で暴れ回っているの。ベルグゾンの復活のせいで、膨大な量の魔力が世界に渦巻いている。ベルグゾンやプルートの連中が、あなた達の命を狙っていないとは限らないわ。」
「やっぱり・・・。」
キーナが不服そうにつぶやいた。
「そこで、あなた達にやってほしいのは、狂ったモンスターの退治。それと同時に、プルートたちの居場所の探索。プルートたちの方は、あっちから出てくるかもしれないから、できるだけモンスター退治の方を優先して行って。」
「・・・あっ、でもオレたち、戦うなんて出来ませんよ。ストーンの使い方だってわからないし、今まで戦ったことどころか、武道の経験もないですから・・・。」
と言っても、武道の経験がないのはオレのほうだけで、サヨの方は空手の経験があり、県内では敵は居ないくらい強い。
「それなら大丈夫よ。」
答えたのはラヴィエルだった。
「へっ?」
「さあ、明日から特訓よ!基礎からみっちりたたき込んでやるわ!」
そう言ったラヴィエルは怪しい笑みを浮かべていた。
「はあ・・・。」
そう言えば、今日から特訓だったんだ。ただでさえユニコーンに乗って筋肉痛なのに・・・。
「おーいナオ!起きたか?」
そう言ってアベルが部屋に入ってきた。
服装は違えども顔が同じだから、なんだか不思議な気分になる。
よく見ると、アベルの方が少し背が高いし、大人びて見える。
「なあアベル、昨日ラヴィエルは、どうしてあんな楽しみそうに笑ってたんだ?」
「ああ、あれは・・・あいつ特訓とか殴り合いのケンカとか、人一倍好きなやつだから・・・。」
「うわっ怖っ!・・・てかサヨもそんな感じ。」
まったく2人とも似ているところがあるもんだ。
アベルは、あははっと笑いながら言う。
「そっくりだな2人とも。大丈夫。最初から戦わせたりしないから。おそらく筋肉痛なんだろう?」
「・・・大当たり。それで、特訓ってのはどこであるんだ?」
「闘技場って所だ。もうみんな行ってるはずだぞ。」
「えぇ!?今から?まだ朝飯食べてないのに・・・。」
「まあ、腹は減るだろうが・・・気にすんなっ!」
「えぇーっ!」
ぶつぶつ言いながらも、オレはアベルと共に闘技場へ向かった。
「おっそーいっ!」
これで何度目だろうか。サヨに怒鳴られるのは・・・。
「まだ朝飯くってねえよぉ。」
それを聞いて、ラヴィエルが笑いながら言う。
「あんたが起きるのが遅いから悪いんでしょ!今日は昼まで休憩なしだから。」
「えぇーっ!」
「さあみんな、こっちへ来て!」
今日2度目のオレの悲しい叫びは、あっさりスルーされてしまった。
全員が闘技場の入り口に集まり、ラヴィエルを中心に説明が始まった。
「えー、なぜ特訓をするかというのは、昨日ナオとサヨが使ったのは、あたしとアダムのメモリーであり、ナオとサヨのではないの。だからまず、ナオとサヨにメモリーの使い方をマスターしてもらいたいと思いまーす!」
「はーい。質問。」
「何、ナオ?」
「さっきからメモリーメモリーって言ってるけど、メモリーって何なんだ?」
「あっ、それアタシもききたかった。」
オレたちを見て、ラヴィエルは少し驚いた顔をしている。
「キーナ!あんたまだメモリーのこと教えてなかったの?」
「だっていっぺんに話したら、ついて来れないと思って・・・。」
キーナが少しふてくされたように呟いた。
「まあいいじゃん?実際話について来れてないのは事実だし。」
アベルは意地悪な笑みをオレたちに向けた。
「えーっと、メモリーっていうのは、ストーンが復元することのできる武器のことであって・・・。」
「・・・?」
「なんていうか・・・まあ、ストーンに武器の形や性能を記憶させ、その形を復元して武器として使うの。あたしの鎌も、メモリーの1つ。」
ラヴィエルが身振り手振りで説明してくれているから、だいたいわかった気がする。
「じゃあまず2人とも、ストーンにありったけの力を注いで。」
「へ?」
「集中して、全力でやってね。」
「わかった。」
オレもサヨもその場でストーンを握りしめて、目を閉じた。
ストーンに初めて触れたときから、今までとは違う大きな力のようなものが、体の中にあるきがする。
その力の全てを、ストーンに注ぐ。
そっと輝きだしたストーンの光は、力を注ぐたびに輝きを増していく。
「注ぐ力の量やストーンの種類によって、記憶させることが出来る武器は決まる。」
アベルがふと呟いた。
オレのはどんな武器なんだろう。
しばらくして目を開けると、オレのストーンからあふれ出した紅い光が、集まって大きな剣になった。
「こっ・・・これは!」
キーナが驚きの声を上げた。
アベルもラヴィエルもかなり驚いている。
一体何が・・・?
横のサヨを見ると、サヨの手にはグローブ、足には長いブーツを履いている。
「わあっ!ナオの剣おっきい!」
「サヨのグローブとブーツ、かっこいい!」
オレの剣は、1,5メートルぐらいの白銀の刀身の大剣だ。
サヨの方は、黒色にグレーのラインが入っているブーツとグローブだ。
「まさか2人も見つかるなんて・・・。」
いつからいたのか、闘技場の入り口にシャマールがいた。
「みつかったって・・・何が?」
「『星剣』が見つかったのよ!」
「せいけん?」
シャマールは歓喜に満ちあふれた顔で言う。
「この神界クリスティアをつくった、4大星神と呼ばれる、最初の4人の神がいた。」
「4大星神?」
シャマールはオレの剣を指さしながら言う。
「炎神セウス、光神ユピル、水神ヴィルカス、森神シルフィ。この4人の神の直径の子孫、または4大星神の生まれ変わりは、膨大で圧倒的なパワーと、『星剣』を持つと言われている。プルートとの戦いには必要不可欠な存在なのよ。」
オレの大剣は、まるでダイヤモンドを削ったかのように、眩しいくらいに輝いている。
「で、オレの剣と、サヨのグローブとブーツが?」
「ええ、ナオのはルビーブレイドで、サヨのはパワーアーマーといって、星剣の一種よ。」
ひゃーっ。とんでもないもの手に入れちまったなあ。
普通の武器でも使いこなせないのに、こんな大剣使えるかな・・・。
「いいわ。おもしろそうね。」
ずっと座って聞いていたキーナが、すくっと立ち上がった。
「えっ?」
「2人とも、かかってきなさい。」
「キーナ、あんた何を言って・・・。」
シャマールがあきれた顔で言ったが、キーナは引くつもりがなさそうだ。まっすぐにシャマールを見つめている。
「彼らを試してみたいの。星剣を持つ者として、どうしても。」
「・・・わかったわ。アベル、闘技場内にプロテクトキューブを。」
「はいはい。」
オレたちはそれぞれの武器を構え、闘技場の真ん中に立った。
シャマールたちは、結界の外へ出ている。
「本気で来るのよ。私も手加減はしないわ。」
「よっしゃ!」
砂の混じった渇いた風が、闘技場を吹き抜ける。
キーナは片手を空にかかげ、目を閉じた。
「メモリー01(ワン)、ブルウィップ。」
そうキーナが言うと、風が集まり、1本の鞭になった。
「森神シルフィの名において・・・。」
キーナは鞭をならして構えた。
「行くわよ。」