協会本部
突如として現れたオオカミ男を、ストーンの力で何とか倒したナオたち。
いよいよ静寂の森には行ったナオたちは、協会本部へと急ぐ。
「ガサッ・・・ガサッ・・・。」
落ち葉が踏まれて、乾いた音を立てる。
森の中にうっすらとのびる1本道を、3匹のユニコーンが駆け抜ける。
頬をなでる朝の空気は、まだ少しひんやりと感じる。
今日で、オレがこの世界に来てから3日目だ。
動物の気配すら感じない、静寂の森。聞こえるのは、オレたちが走らせるユニコーンの足音と、踏まれて音を立てる落ち葉の音だけ。
「・・・おかしいわ。」
沈黙をやぶり、ぽつりとキーナがつぶやく。
「おかしいって・・・何が?」
後ろにいるキーナの方を向かずに、前を見ながらオレは訪ねた。
「オオカミ男の事よ。オオカミ男は太陽の光を嫌い、日が出ている間出てくることは、めったにないの。いくら薄暗い朝方であっても、出てくることはないはずよ。」
「じゃあどうして・・・。」
「おそらく、何か巨大な力が、彼らの力を強くさせたんだと思う。」
「何かっていうのは・・・ベルグソン。」
1番後ろで黙っていたサヨがつぶやいた。
サヨの言葉に少し驚きながらも、キーナは話し続ける。
「その可能性は高いわね。」
「まさか、空白の書を奪いに・・・?」
「大丈夫。書は私がケースの中に保管してるし、ベルグゾンは静寂の森には入れない。」
「なら大丈夫か・・・。」
「でも、気が抜けないのは確かね。おそらくベルグゾンは、私たちが静寂の森に入る前に足止めしておきたかったのよ。」
だとしたら、さっきも近くにベルグゾンがいたのだろうか。
もしかしたら殺されていたのかもしれないな・・・。
冷静にそんなことを考えながら、ユニコーンを走らせた。
「さあ、着いたわよ。」
「すげえ・・・。」
「きれー・・・。」
あまりの綺麗さに、言葉を失ってしまった。
それは協会と言うより、もはや城だ。
深い森の中に存在する、とてつもなく大きな協会だ。
オレたちの目の前には、噴水のある広場があり、綺麗な花が咲き乱れる花壇は、入り口へとまっすぐに続いている。
オレたちはユニコーンから降りて、入り口の門へと向かった。
門の前では、オレたちを待っていたのか、侍女らしき若い女性が立っている。
「お帰りなさいませ、キーナ様。シャマール様がお待ちです。」
「ええ、ありがとう。」
そう言うと侍女は門を開けてくれた。
中にはいると、大きな広間があり、左側には大きな階段がある。
階段の上の通路に、キーナの着ているのに似たデザインの服を着ている女性がいた。
髪は腰につきそうなくらいの長さで、夜空を見ているかのような真っ黒な髪の色をしている。
その女性は、オレたちに気付いたようで、オレたちを微笑みながら見つめている。
「よく帰ってきましたね、キーナ。それに、人間のお2人。どうぞこちらへ。」
そう言うとその女性は、奥の部屋へと入ってしまった。
「ねえキーナ、今のは・・・?」
「今のはシャマール=ガブリエル。協会本部総帥よ。」
「そうすい?」
「1番トップの人のことよ。それを総帥と呼ぶの。」
「へえ、あの人が・・・。」
「さあ行きましょう。」
長い長い階段を上り、オレたちはシャマールのあとを追っていった。
「さあ、そこに座って。」
案内されたのは、とても広い部屋だった。
オレとサヨは白色に統一させてある部屋を見渡した。
本棚やソファー、カーテンに壁まで白で統一させてある。
オレたちは遠慮がちに、綺麗なソファーに腰掛けた。
「それで今日は何の用で?まあ、おおかた予想はつきますが・・・。」
「えっとぉ・・・ほらナオっ!」
「あっ・・・えっと、アベルとラヴィエルの約束を果たしに来ました。」
「やはりそうでしたか・・・。」
ふうっ。何かしら緊張するものだ。
キーナとは違い、このシャマールという女性には、何か神聖なオーラが漂っているというか、何かキーナやセウスさんとは違うオーラが漂っているように見える。
例えるなら、そう・・・神のような人。
「カロール、例のものを。」
「はい。」
シャマールがそう言うと、入り口のドアの所に立っていた協会本部の人らしい女性が、部屋の隅にある個室のような所から鍵のかかった箱を持ってきた。
「ありがとう。ここに。」
机の上に、小さな鍵のかかった箱が置かれた。
シャマールはその箱にそっと手をかざした。
「マジックアウト。」
すると箱が開き、なかにはネックレス状になっている、透明なストーンが2つ入っていた。
「あの・・・これは?」
「それは、アベルとラヴィエルのストーンよ。触れてみて。」
オレたちは差し出されたストーンを手にのせた。
すると、ストーンは眩しい輝きを放ち、ナオの手から放れ、宙に浮いた。
「うわぁっ!」
その瞬間、辺りは白い霧のようなものに包まれ、はっきり周りが見えなくなった。
ストーンの輝きだけは、はっきりと見える。
「ありがとう、ナオ、サヨ、そしてキーナ、シャマール。」
「・・・アベル?」
どこからか、キーナのか細い声が聞こえる。
霧が晴れ、現れたのは、あの夢と変わらないアベルとラヴィエルだった。
「ごめんねキーナ。君にはあれから800年、寂しい思いをさせてしまったね。」
アベルとラヴィエルは、そっとキーナに歩み寄り、頭をなでた。
「大丈夫、もう居なくならないから。寂しい思いさせないから。」
ラヴィエルの言葉と共に、キーナの目からは大粒の涙が流れた。
「うっ・・・ううっ。」
まるで子供のように泣きじゃくるキーナを、オレたちは温かい目で見守っていた。