ストーンの力
村の協会で、自らに与えられた使命とキーナの過去を知ったナオとサヨ。
自分たちがこの世界へ来ることを、遙か昔から知っていた、オズワード=エクソシアとはどんな人物なのか。
真実を知るため再び3人は、協会本部のある『静寂の森』へ向かって歩き出した。
「ねむーい。」
サヨの声が響き渡る。
まだ朝霧の残る草原をオレたちは走っている。
「ねえキーナ。いつになったら着くの?」
ユニコーンの上で揺られながら、キーナは答えた。
「ユニコーンをもらえたから、明日には着くはずよ。」
昨日はあれからひたすら走って、林の中で野宿した。
なかなか毛布1枚の睡眠には慣れていなくて、体中あちこちが痛い。
それにまだ、ユニコーンにうまく乗れるようになったばっかりで、これまでにない筋肉痛を全身で味わっている。
「で、今日はどこまで行くんだ?」
キーナは器用に片手で地図を開いて指さした。
「今日はいよいよ静寂の森に入るわ。」
地図で見る静寂の森は、昨日いたシュロル村よりもかなり大きい。
そしてその森の中心に、協会本部らしき建物が書いてある。
「こんなに大きかったんだぁ!」
サヨが地図に書いてある森を見ながら言った。
「そうよ、だから森に入っても、すぐには本部には行けないのよ。」
「じゃあこの草原を抜けると、森の入り口に着くんだな?」
「ええ、そうなるわ。」
少し霧が晴れたきた。まだ登りきらない朝日が少しずつ空を染めていく。
しばらくすると、すぐに草原を抜け、森の入り口に着いた。
「ここがそうね。」
オレたちが森に入ろうとした。その時だった。
「・・・まって!」
森に入ろうとしたオレたちを、キーナが止めた。
「えっ!?」
「どっどうしたの?キーナ。」
キーナはじっと黙っている。
ユニコーンたちも何かを感じ取ったのか、おとなしく動かずにいる。
「何か・・・視線を感じる。」
辺りが静まりかえる。鳥のさえずりが聞こえなくなり、木々のざわめきが途絶える。
風も吹かなくなった森の入り口に、オレたちは立っている。
キーナがそっと、ユニコーンから降りるように合図した。
合図に従い、なるべく物音を立てずにユニコーンから降りた。
緊張した面もちで、キーナが口を開いた。
「・・・誰かいるんでしょう?隠れてないで出てきなさい!」
「チッ、キヅカレタカ。」
森の入り口付近の林から出てきたのは、3匹のオオカミ男だった。
「うわっ!!」
「オオカミ男!?」
ゆっくりゆっくり、オオカミ男たちはオレたちを囲んでいく。
「ワカイコドモハ、ヒサシブリダ。」
「アア、ソウダナ。モウズイブン、タベテイナイ。」
「シカモ、サンニンダ。サンニンモイルゾ。」
オオカミ男たちは、笑いながら少しずつ詰め寄ってくる。
森の入り口は、オオカミ男の内の1匹の押さえられてしまった。
「くそっ!どうすれば・・・。」
「・・・ストーンを使うのよ。」
「ストーンを?」
「目を閉じて、語りかけるの。そうすれば、あなた達の中にいる、アベルとラヴィエルが力を貸してくれるはずよ。」
「でも、目を閉じたら、その隙にやられちゃうよっ!」
「私が結界を作るから、その間に・・・。」
「わかった。」
キーナが片手を空に伸ばした。
「ウガアアッ!」
もう駄目だ!間に合わないっ!
「プロテクトキューブ!」
その瞬間、オレたちは黄色い四角形の結界に包まれた。
「さあ、いまのうちよ!」
オレたちは目を閉じ、それぞれの体に宿る神の魂に語りかけた。
「アベル・・・アベル・・・。」
「やあナオ、久しぶりだね。」
アベルは落ち着いた顔で微笑んでいる。
こんな状況なのに妙に落ち着いているアベルに疑問を持ちながらも、オレはアベルに言う。
「力を貸して欲しいんだ。今のオレには、ストーンの使い方も、戦い方も知らないんだ。」
「大丈夫。全部聞いていたよ。今からやるから、よく見ているんだよ。」
そういうとアベルは、オレのストーンにふれた。
「いくよ。」
「ウガァッ!」
目を開けると、キーナの結界は今にも壊されそうだ。
「燃え上がる炎は、絶えることなく・・・。」
手が、口が、体が、自分の意志で動かない。
意識はあるが、体はアベルが動かしているようだ。
オレの手からは炎が出ている。
その炎で空中に巨大なハンマーを描く。
「紅き炎を操りしは、紅玉の力。」
そういうと炎は消え、ハンマーがオレの手には握られていた。
「いくよ、ナオ!」
アベルの声が聞こえてくる。
「ああ、アベル!」
いきなり、体が自分の意識で動くようになった。
「うわっ!これどうすればいいんだ?」
体がいつもよりも軽い気がする。重そうに見えたハンマーも、ストーンの力なのか、棒きれを持っているように思えた。
「振り回すんだ、ナオ。大丈夫。ラヴィエルも力を貸してくれるから。」
「ウガアアアッ!」
「ううっ!」
キーナの苦しそうな声が聞こえる。
結界を崩されないよう、キーナは必死だ。
「さあナオ、行くんだ!」
「・・・よしっ!やるだけやってみるか!」
オレはハンマーを高く振り上げた。
「キーナ!結界を解いてくれ!」
「・・・でも!」
当然のごとくキーナは拒んだが、これ以外の方法はオレには見つけだせない。
「やんなきゃわかんねえだろ!」
「ウガアッ!」
「うらあぁっ!」
「パリーンッ!」
オレが振り回したハンマーは、森の入り口をふさいでいたオオカミ男に直撃した!
「ウウッ!」
「よっしゃあ!」
「まだよ!ナオ!」
右側にいたオオカミ男が、鋭い爪で斬りかかってきた!
「うわぁっ!」
とっさにハンマーを振り下ろしたが、軽くかわされてしまった。
そのとき、オレの後ろで眩しく光り輝いた。
「尖鋭なる光は槍のごとし・・・。」
サヨの手には、光り輝く鎌が握られている。
「輝く光を操りしは、黄玉の力。」
光が消え、現れた大きな鎌は、刃を鋭く光らせている。
「アタシだって負けてらんないよ!」
「サヨっ!危ないっ!」
さっきオレが飛ばしたのもあわせた3匹が、いっきにサヨに飛びかかった!
「やああぁっ!」
サヨの一振りは、3匹のオオカミ男を切り裂いた!
切り裂かれたオオカミ男たちは、跡形もなく消え去ってしまった。
「やったあ!」
「・・・す、すごい。」
キーナが感嘆の声を上げた。
「お前ってヤツは・・・。」
ため息混じりで、オレも呟く。
サヨは嬉しそうに笑っている。
「ラヴィエルが一緒に戦ってくれたの。」
そういってサヨは、ストーンに触れて呪文を唱えた。
「マジックアウト。」
すると、ストーンが光り、鎌が消えた。
「何だそれ?」
「ストーンの力を解除するための呪文よ。」
「オレもなるかな。」
試しにオレもやってみた。
「マジックアウト。」
すると、サヨと同じように、オレのハンマーも消えてしまった。
「すごいなあ、ストーンって。」
「それさえあれば、ほとんどの魔法は使えるのよ。」
「例えば?」
「空を飛んだりとか・・・。」
「すごーいっ!」
キーナが話しているとき、すでにサヨはふわふわと空を飛んでいた。
オレも浮いてみたが、足が地面に着かない分、うまく飛べない。
「さあさあ、降りてきて。森に入るわよ。」
「ラジャー!」
うまく着地したオレたちは、森へと入っていった。
何か不思議な空気の漂う、静寂の森へと・・・。