キーナの過去
宿を出たナオたちは、村にある協会へと向かった。
そこには、キーナの知り合いのセウスという男がいた。
協会にあるステンドガラスには、ナオとサヨ、そして残る2人の守護者が描かれていた。
「どうして・・・アタシたちの名前が?」
「君たちも知っているだろうが、今からちょうど800年前、アベルとラヴィエルは死んだ。その後、彼らのストーンを保管するために、盲目の魔ばらい師オズワード=エクソシアは教会を作った。その時彼は、アベルたちのストーンから何かを感じ取ったらしい。何しろ彼はこの世界で最高の魔ばらい師と言われているからな・・・。」
セウスさんは、ステンドガラスを見つめながら言った。
「・・・なあセウスさん。アベルたちが死んだ後、何があったんですか?それに、オズワードは何をスト−ンから感じ取ったんですか?」
「それは・・・。」
ジリリリリッ!
その時電話が鳴り響いた。
「いいわ。私が出るわ。おそらく協会からよ。」
「すみません、キーナ様。」
キーナは奥の部屋に行ってしまった。
「いやぁ、キーナ様が行ってくださってよかった。」
「へっ?どうして・・・?」
「キーナ様には聞かれてはいけない事もあるからな。」
キーナに聞かれてはいけないこと?
「どうしてキーナに聞かれちゃいけないの?」
セウスさんはステンドガラスを見つめながら、話し出した。
「キーナ様はまだ幼いとき、まだ魔ばらい師の時のシャマール様に、傷だらけの所を拾われた。」
「いやっ・・・来ないでぇっ!」
「駄目よ!そんなに傷だらけなのに・・・。」
金髪にガラスのような瞳をした少女は、やぶれてボロボロになった服に身を包んでいる。
何かに酷く怯えているようだ。
「君、名前は?私はシャマール、シャマール=ガブリエルっていうんだけど。」
「私は・・・キーナ・・・。」
「キーナっていうの?どうしてこんなところに?」
「・・・わからない。」
「えっ?」
「黒い服の人たちから逃げてたら、どこか分かんなくなって・・・。」
「黒い服の人・・・?まさか・・・もうプルートたちが!」
「プルート?」
「お父さんとお母さんはっ?」
「黒い服の人たちに・・・殺されちゃった。」
「そんな・・・。」
「ヴィンスと一緒に逃げてきたの。」
「ヴィンス?」
「私の弟、ヴィンテンスよ。」
「その弟は・・・?」
「途中ではぐれちゃったの。」
「とりあえず私の家にいらっしゃい。弟を捜さなきゃ。」
「・・・うん。」
シャマールはその少女を家につれて帰った。
「そんなことが・・・。」
「それからというもの、キーナ様は、歳の近かったアベルやラヴィエルたちを、兄弟のように思って過ごしてきたんだ。キーナ様は、辛い過去を胸の奥に消し去り、平和に過ごしてきた。あの日までは・・・。」
「ねえアベル!どうして私はここに残ってはいけないの!?」
「駄目だよキーナ。まだ君は小さいし、戦場に行くには危険すぎる。それに君は神じゃないんだ。」
「神じゃなくても、私だって不死の体と力を持ってる!もう1人にはなりたくないの!」
「キーナ、君は1人じゃない。シャマールやオズワードだって居るじゃないか。」
「だって・・・。」
「僕もラヴィエルも必ず、必ず戻ってくるから・・・。どうかそれまで、プルートたちの目の届かない場所で、安全に過ごすんだ。いいね?」
「・・・うん。」
「そういって彼は、ラヴィエルと共に行ってしまった。そう、プルートたちを封印するために・・・。」
「そして、アベルたちは死んで、キーナと再会することはなかったってことか・・・。」
「その後はどうなったんですか?」
「あの後すぐ、オズワードは教会を作った。」
「オズワード様。」
「何だ?セウス。」
「アベルとラヴィエルのストーンを持って参りました。」
「おお、よかった。無事に見つかったのか。」
嬉しいような安心したような表情で、オズワードは2人のストーンを手に取った。
「ではオズワード様、私はこれで失礼します。」
「・・・まて!」
「はい?」
オズワ−ドは2つのストーンをじっと睨んでいる。
セウスは首をかしげた。
「どうしました?」
「見える、見えるんだ・・・。」
「見える、とは?」
「ストーンが私に見せてくれてるんだ。『今から800年後、プルートたちは再びよみがえる』、『それと共に救世主が現れる。名をナオ、サヨ、ギルバート、アマリアといい、2人は人間、2人はクロムである。』と・・・。」
「何ですと!!」
「これはどうにかして、800年後まで残さなければ・・・。」
「オズワード様、今建設中の協会のステンドガラスの一部として残してはどうでしょう。そしてそれを予言とし、全世界の住民に伝えましょう。」
「そうだな。そうしよう。」
「じゃあ、ストーンがオレたちが来る事を予言していたと言うことですか?」
「ああ、そうなるんだよナオ君。」
「アタシたちが来るって事は、プルートとベルグゾンの復活を意味するんですよね?」
「そうだよサヨちゃん。だから君たちが来たことは、この世界の住人をパニックにおとしいれてしまうんだ。」
「だからキーナも静かにしろって言っていたのか。」
「だからこのことを知ることが出来るのは、協会の人間だけなんだよ。」
「あと2人の、ギルバートとアマリアはどこに居るんですか?」
「あの2人はこの世界の守護者だから、協会本部の周辺の街にいるはずだ。キーナ様がシャマール様に連絡しているはずだから、おそらく君たちが着く頃には、2人とも到着しているはずだ。」
その時、キーナが戻ってきた。
「向こうで2人とも待っているそうよ。セウスさん、この2人のストーンを神具に変えてもらえませんか?」
「おやすいご用です。」
そういってセウスさんは、奥の部屋に案内してくれた。
奥の部屋には大きな光り輝く機械があった。
「ここにストーンを入れてください。」
オレたちはストーンを機械の上に置いた。
キーナがふたを閉め、呪文のようなものを唱えた。
「守護者を守りし輝けし石よ。神具となりて、さらに大きな力を得し。」
すると機械が眩しく輝きだし、ふたを開けると、そこにはネックレスになったストーンがあった。
「うわあ、すごい。」
「2人とも、首にかけて。」
キーナに言われたとおり、オレたちは首にかけた。
「うわっ!」
輝きだしたストーンからは、何か大きな力を得るようだった。
「何だか力がみなぎってくる!」
「それさえあれば、だいたいの事はできるわ。」
「うがーっ!」
サヨは口から火を吐いてみている。
「さあ、出発よ。早くしないと本部に着くのが遅くなるわよ。」
「了解っ!」
そしてオレたちはすぐユニコーンにまたがり、協会を後にした。
「また来てくださいよ、3人とも。」
「ええ、お元気で。」
その日の空は、蒼く、どこまでも澄み渡っていた。