長い長い夢
『空白の書』を再び封印するため、クリスティアの守護者を捜しに歩き出したナオとサヨ。
『空白の書』、神の住む世界クリスティア、そして不思議な力ストーン。
ストーンの力に導かれ、不思議な夢は始まった。
「ここは・・・。」
知らない建物の玄関にオレはいる。
どこかで見たことのある、きれいで大きな屋敷。
あぁ、そうだ。ここはトビラのある屋敷なんだ。
でも屋敷はもっと古くて、誰も住んでいなかったはずだ。
なのに何で、オレは分かったんだろう。
「まってよアベル!」
1人の少女がオレの目の前を通り過ぎていく。
「サヨ?」
その少女はすごくサヨに似ている。似ているというより、本人と思うくらい顔も、声も、髪型もそっくりだ。
どうやらオレの姿は見えないらしい。
でもこんな所にいるはずない。
それにアベルって・・・。
「何だよラヴィエル。そんなにあわてて。」
ラヴィエルといわれる少女は、黒髪の少年のことをアベルとよんでいる。
じゃあ、この少年が無限界を作った神、アベルなのだろうか。
顔を見ようと思ったが、少年の顔は光のせいでみえない。
「だってアベル、またプルートのところへ行くんでしょう!?」
プルートって、誰なんだろう・・・。
「早くプルートを止めなきゃ、この戦争は終わらない。プルートに『空白の書』を渡すわけにはかないんだよ。」
少女は少年の襟元をつかみ、揺さぶりながら泣き叫ぶ。
「だめ、だめよ!いくらあなたでも、今度こそ死んでしまう!あなたは神の力を使いすぎたのよ!」
「いくら神でも、力を失えば死ぬ。そんなことは分かってるさ。」
少年は優しく微笑み、少女の頭をなでた。
少女はそのまま、少年に頭を預けて泣き続ける。
「じゃあ・・・どうしてっ・・・。」
「例え力を失うことになっても、無限界を作りたかった。理想郷を作りたかったんだ。君だって、他の神たちだって望んでいたんだ。それぞれの種族が、それぞれの世界で、平和に暮らしていけることを。」
「でもっ・・・。」
少年は、言葉を詰まらせてしまった少女の背に手を置き、やさしく抱きしめる。
その瞳からは、一筋の雫がこぼれ落ちた。
「大丈夫。例え死んだとしても、生まれ変わったら、必ず戻ってくるから。僕のストーンはここに置いていく。あとは協会の者に頼んでおいてくれ。」
少年は、手をそっと離し、少女の顔を見た。
「・・・約束だからね。」
「あぁ。約束だ。」
そういうと少年は、少女をその場に残し、こっちに向かって歩いてきた。
今度は、はっきりと顔が見えた。
「あっ・・・おまえは!!」
そう思った時、いきなり真っ暗になった。
「・・・どうなってんだ。」
オレは今、真っ黒な世界の中に浮いている。
「あっ・・・。」
向こうから、さっきの少年が歩いてきた。
「やあ、比奈崎ナオ君。こうやって顔を合わせるのは初めてだね。」
「どういうことなんだ。説明してくれよ、アベル。」
そう、今目の前にいるアベルは、オレと同じ姿をしていた。
違うところと言ったら、服装と話し方だけだ。
「さっき君が見たのは、僕の記憶であり、君の記憶でもある。」
「・・・?」
アベルは力無く微笑み、話しだした。
「僕は14年前、君のもう1つの人格として生まれた。そして君が書を手に入れる、その時まで待っていたんだ。でも気を付けて。書が君の前に現れたということは、プルートも復活したということだ。」
深刻な顔で話し出したアベルからは、とてつもなく大きな怒りが感じ取れた。
「さっきも言っていたけど、プルートっていうのは?」
アベルは何もない、真っ黒な空中を見つめながら言った。
「プルートとは、冥界の死神たちのことだ。プルートの王である、冥王ベルグゾンは、空白の書の力を使い無限界を冥界以外1つ残さず消そうとした。」
「そしてあんたは、それをくい止めようとした。」
「そう。結果、プルートたちの動きを冥界だけに止めることができたものの、力を失い僕は死んでしまった。生まれ変わったとき、記憶は残っていたものの神の力も、ストーンも失った僕には、ただ時を待つことしかできなかった。」
アベルは悔しそうに拳を握りしめた。
「そうだったのか。」
あの本を拾って以来驚きばかりだったが、オレの中に人間界を、いや、無限界を作った神がいたなんて、信じられない。
でも、信じなければこれから生きてはいけないだろう。
少し沈黙が続いた後、アベルが続けた。
「君と一緒にいるサヨって子、あの子はラヴィエルの人格を持っている。」
「サヨが・・・。」
「そこで君たちに頼みがある。協会の本部に行ってくれないか。」
「協会の本部?」
黒い世界の中を、アベルは器用に歩き回りながら話し続ける。
「そこの最上階にいる、シャマール=ガブリエルというエクソシストに、『アベルとラヴィエルの約束を果たしに来た』というんだ。必ず2人そろってね。そうしたら、僕とラヴィエルのストーンに触ることが出来る。そうすれば、僕たちの体と魂、神の力が戻り、君たちの人格の1つではなく、神として生きることが出来るんだ。」
「わかった。でもどうやって行けばいいんだ?」
「そこは、キーナ=レイチェルが知っている。まだ話したいことがいっぱいあるけれど、今日はここまでだ。どうやら時間をかけすぎたみたいだ。」
「次はいつ会えるんだ?」
オレがそう問うと、アベルはこっちへ向かって歩いてきた。
「僕はいつでも、君の中にいるよ。」
オレの額にアベルは、コツンと額をぶつけた。
「それじゃあ、頼んだよ。」
そういうとアベルは微笑み、消えてしまった。
そこでオレの夢は終わった。