自らの存在理由
学校の図書室で、不思議な本を拾ったナオ。
喋るキーナに導かれ、とまどいながらも通路を通り異世界へと向かったナオは・・・
目の前には、今までに見たことのない景色が広がっていた。
緑の山々、洋風造りの家々、それに教会?だろうか。きれいな建物が見える。
オレが立っているのは、小高い丘の上のようだ。
「無事についたようね。」
気がつくと足下には、キーナがいた。
眩しい太陽の光に、黒い毛並みが輝いている。
「あれをみて。」
キーナが指さす方には、さっきオレが出てきた石畳の通路があった。出てきたときには気付かなかったが、ここは大きな屋敷のようだ。
通路の入り口は、玄関らしきところの左にある。
「もう少しで、もう1人の子もくるから。もう少し待っていて。」
当たり前のように説明を始めるキーナに、オレは質問を投げかけた。
「おいおい、待ってくれよ。いったい何が起きているんだ?」
キーナは立ち並ぶ家々を見つめている。
「あぁ。あなたには説明していなかったわね。後からくる子には説明してるんだけど・・・。」
「オレにも教えてくれよ。その子が来るまで。」
「じゃあその前に・・・ちょっと失礼!」
ボフンッ!!
「うわっ!」
いきなり白い煙がたち、キーナを包んだ。
煙の中から出てきたキーナは、オレと同い年ぐらいの金髪の少女になっていた。
「あっ、ちなみにこっちが本当の姿ね。」
やれやれ、何でもありなのか?この世界は・・・。
ふうっとため息をつき、オレは大きな木の切り株に座った。
もう頭の中がぐちゃぐちゃだ。
「まず、あなたが『空白の書』を拾ったのは、偶然じゃなく、ちゃんと理由があるの。」
「『空白の書』って、あの白い本か?」
「えぇ。あれは『空白の書』と言って、この無限界の全てを支配できる力を持っているの。『空白の書』は2冊あって1冊ずつ封印されているの。封印が解かれ、2冊がそろわないと、書としての能力を発揮できないの。」
キーナは風に飛ばされていく落ち葉を見つめながら言った。
「でも、そのこととオレが『空白の書』を選んだこととでは、関係あるのか?」
「あなたには『空白の書』が見えた。けれど普通の人間なら書は見えないの。どういうことか分かる?」
「どういうことって・・・。」
じゃあオレは普通ではないというのだろうか。そうだとしたら一体・・・。
「あなたは無限界を知ってる?」
「あぁ。宇宙に無数にある世界のことだろ?」
「ええ。その無限界を作った神アベルは、2つの書にそれぞれ2人ずつ守護者をつけた。守護者の役目は、書の封印が解かれないようにすることと、封印が解かれてしまったとき、その封印をまたかけ直すこと。封印をかけ直すには、一度書を2冊そろえなければならないのよ。」
昔、何かの本で読んだことのある話だ。うろ覚えだが、まだ所々記憶に残っている。宇宙にある無数の世界のこと、それを守る守護者のこと、他人事にしか考えていなかった。
「封印が解けてしまったとき、書はどちらかの守護者の前に現れる。そして、もう1つの書がある世界と自分の世界とを結ぶトビラを作る。つまりあの通路が、人間界とこの世界を結ぶトビラなのよ。」
「そして、封印が解かれた書は、守護者の1人であるオレの前に現れたって言うことか。」
「そうなるのよ。」
「で、もう1人の子は・・・?」
そういってトビラの方をみると、見覚えのある女の子がたっていた。
「サヨ!?」
「あれ?ナオじゃん。」
そう、オレの目の前にいるのは、あろうことか幼なじみである香坂サヨだった。
肩まである髪を2つに結んでいる、背の低い中学2年生だ。
「2人ともお知り合いかしら?」
にらみ合っているオレたちを見て、キーナが問う。
「・・・幼なじみだ。」
「まあ、その方が守護者としてもやりやすいんじゃないの?」
ため息混じりのオレの返答を、キーナはさらっと受け流す。
「こんなのただの足手まといだよ。」
「何が足手まといよっ!!」
オレの言葉にサヨはキーキー言って怒っている。
「まぁまぁ。では改めて。私はキーナ=レイチェル。あなたたち守護者を迎えに来たの。」
争うオレたちを見て、キーナは笑いながら仲裁に入った。
「アタシたちを・・・迎えに?」
「えぇ。『空白の書』に封印をかけ直すためにね。そのままにしておいたら、この無限界はいずれ、破滅に向かうわ。そのためにも、あなたたちの力が必要なの。」
「そんなことなら、いくらでも貸すわよ。アタシたちだって生きたいの。ねぇナオ?」
「あぁ、オレも賛成だ。」
破滅に向かっていく世界を、見殺しになんて出来ないだろう。例えここがオレの住む世界でなかったとしても・・・。
きっと誰だってそうするはずだ。
「ありがとう。なら始めに、ここクリスティアの守護者を捜してほしいの。きっとこの世界でも、同じようになっているはずだから。」
「よし!ならさっそく行こうぜ!」
オレは切り株から立ち上がった。
「まず、あの村へ行きましょう。何か手がかりを探さなくちゃ。」
「でも、武器も道具も持っていないし、どうすればいいの?」
オレはもう一度切り株に座る。
そう言われてみればそうだ。武器なしにはこの世界で生きてはいけないだろう。
「そうよね・・・。」
キーナはしばらく考えてから言った。
「目を閉じて、胸に手をあてて。心の中にある光を探すの。」
「光?」
言われたまま、オレとサヨは胸に手をあててみる。
「そう、光。何色の光が見える?」
スッと目を閉じ、光を探す。1番はじめに思い浮かんだ光は・・・。
「オレは赤い色だな。」
「アタシは黄色。」
「目を開けて、手の中を見てみて。」
ゆっくりと開いた手の中には、それぞれの見た光の色をした石があった。
「それがあなたたちのストーンよ。」
「ストーン?」
「守護者は必ずストーンをもち、記憶をストーンに刻んでいく。その石を使えば、無限界をどこでも行き来できるし、魔法も使える。」
「どんな魔法なの?」
「ナオは炎の魔法で、サヨは光の魔法よ。」
「これがあれば大丈夫だな。」
「じゃあ今度こそっ!」
オレはサヨにそういわれて立ち上がった。
3人が見上げた夕焼け空は、茜色に染まっていた。