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STONE MEMORY  作者: りん仔
18/18

儚い銀

書のある部屋へと急ぐキーナを止めるのは、一人の幼い少年だった。少年は深青の衣に身を包み、恐ろしい微笑みを浮かべていた。

そんな中、ナオたちの前に立ちはだかるのは…

「あんた何者なの!?」

見る限りは、自分よりも幼い少年。

キーナの問いに、少年は静かに微笑む。

「誰って・・・見て分からない?深青のマント。お姉ちゃんなら分かるでしょう?」

やはりプルートか・・・。

一度剣を離し、間合いを取る。

剣を構えてはみるものの、微塵みじんの隙も見せてはくれない。

少年の覇気は、深く濃い青と紫が混じり合っていて、大きさもかなりのものだ。

すぐには書のもとへは行けないな・・・。

「僕はシエル。ちょうどヒマしてたんだ。だから遊ぼうよ、オネエチャン?」




「あれ?キーナは?」

そういえば、キーナの姿は見あたらない。

キーナなら真っ先にここに来ると思ってたんだけどな。

「とりあえず行こう。書の安全を確保するのが先!」

アリーの言葉で、止まっていたオレたちの歩みは、また始まった。

キーナのことも心配だが、今はアリーの言うとおり書の方を優先させなければいけない。

再び階段を上り始めたオレたちだったが、部屋の前についたところで止まることになる。

「おや、お客さんですカ?」

「誰っ!?」

書の置いてある部屋の前、揺れる影が1つだけ。

その影は深く、青い色をしている。

ゆらりと揺れ、オレたちの方へ少しだけ影は近づく。

「見たことのない顔ですねエ。それにそこの2人は・・・珍しいですネ、人間なんて。」

そういいながら、その影はかぶっていたフードを取る。

「あっ・・・あんたは!」

アリーはその青年の顔を見て叫んだ。

フードの下から現れたのは、銀髪に銀目で眼鏡をかけた青年だった。

「あなた知ってるんですカ?私のコト。」

「忘れるわけない!あんたが・・・あんたが全て奪ったんだ!何もかも全部っ!」

星呪文無しに、アリーの覇気が爆発的にふくれあがった。

力を暴走させているというのが一目で分かる。

「落ち着けよアリー!!」

「でもっ!」

「レニの死を無駄にするのか?」

静かだが力強い問いに、アリーは黙り込む。

「レニって・・・?」

「アリーの・・・妹だ」



それはまだ、ギルとアリーが10歳の頃。

両親のいないギルと、流行病で両親を亡くしたアリーは、小さな村にある孤児院で生活をしていた。

そこには、アリーの2つ下の妹、レニ=マーティンも暮らしていた。

貧しいながらにも、楽しく幸せに暮らしていた。

院長先生はとても優しかった。孤児院のみんなの、存在自体が温かかった。幸せだった。

けれど、幸せは永遠では無かった。

当時、あちこちであっていた『村消し』という事件。

ギルやアリーたちの孤児院も、その被害にあった。

その事件を起こしていた集団の長。まだ幼い少年の顔を、ギルとアリーは今でもはっきりと覚えている。

「レニ!逃げてぇ!!」

「お姉ちゃん!」

幼い2人の少女の悲鳴が響き渡る。

街に買い出しに行っていたギルは、目の前に広がる光景が信じられなかった。

真っ赤な炎に包まれた、孤児院のようなもの。建物が崩れる音。泣き叫ぶ人々。もう動かなくなった人の姿。

「お姉ちゃん!!」

レニの悲鳴で我に返る。

思った異常にレニは近くにいた。レニの見つめる先には、炎に包まれた孤児院。

ギルは急いでレニの元へ駆け寄る。

「レニ!アリー・・・アリーは!?」

ギルの問いに、レニはすっと手を出し、孤児院を指す。その指は震えている。

「あ・・・あそこ・・・」

「そんな・・・」

人がいるのかも分からない位に燃える孤児院。その中にアリーが・・・?

「レニ・・・ここにいるんだ!」

井戸の水をかぶり、ギルは孤児院の中に飛び込んだ。

「アリー!アマリアー!!」

「・・・ギ・・・ル?」

「あっ!」

入ってすぐの所にアリーはいた。

「アリー、怪我は?」

「あ・・・足が」

アリーの足は血に染まっていた。

「とりあえず出よう。村に行こう」

そう言ってギルはアリーを背負う。

「もう・・・いない」

歩き出そうとしていたギルの足は、アリーのか細い声で止まる。

「みんな殺された。男の子に。・・・だから孤児院の奥にレニと隠れてたの」

「何だって!」

やばい!レニはまだあそこに・・・。

ギルはレニの方を見る。

レニは木の下に座って、こちらを見ている。

「急ごう」

呼吸が荒くなってきたアリーを背負い直し、ギルはレニのもとへと向かう。

もしその男の子がいるのなら、急がなければ・・・。

思った以上に足は思い。煙のせいか目がかすむ。

やっと孤児院から抜け出したギルは、その場に倒れ込んだ。

「レニ・・・?」

顔を上げてレニを見た。

が、遅かった。

「え・・・?」

動かないレニ。握った手は冷たい。揺すっても動かない。

「いや・・・いや・・・」

振り返ると、アリーは何かを見上げながら、後ずさりをしている。

アリーの視線を追って見る。

「お前は・・・」

血に染まったローブを脱ぎ、少年の顔が炎に照らし出された。

それは、真っ赤な世界には眩しすぎるほどの銀。

微笑む少年の顔は、あまりにも恐ろしすぎた。

逃げなければいけない。分かっているけれど、体は止まっている。少年の目線だけで動かなくなった。

「ギルバート=ヘイリーにアマリア=マーティンですね?」

「なんで?」

「君たちはいずれ私にとって必要な存在になる。逃がしてあげましょう」

瞬間、ギルの体は呪縛が解けたように動き出した。

ギルはすぐに、抵抗するアリーを抱え上げ、その場から走り出した。

「待って・・・レニ、レニが!」

「アリー、・・・レニは・・・レニはもう死んでた!」

「そんな・・・嘘よ、嘘!」

「アリー!」

その言葉で、アリーは抵抗をやめた。

少し離れた森の中。2人は倒れ込んだ。

これからどうすればいいんだ?全部失ってしまった。何もかも全て。

何か出来なかったのか?もう少し警戒することは出来なかったのか?街から協会の人を呼んで、守ってもらうことは出来なかったのか?

もっと強ければ・・・力があれば・・・

後悔ばかりが、馬鹿みたいに押し上げてくる。

涙すら出ない。

それは悲しすぎるのではなく、現実を理解できないせいだと思う。

ふと、小さな震えに気付く。

震える方を見ると、アリーがギルにしがみついていた。

アリーは声を押し殺して泣いていた。

ギルは何も言わず、服を破ってアリーの足の傷口に巻く。

方をさすってやっても、震えは治まらない。

「泣いていいんだ、アリー。泣いていいんだよ」

「う・・・うわぁぁん!!」

炎は朝に近づくにつれ、次第に弱まり、やがて消えた。

朝が来た村は、何もなかった。

その日、地図から村の名前が消えた。

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