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STONE MEMORY  作者: りん仔
16/18

片翼の黒いツバサ

ついに動き出すプルートたち。

そしてシャマールの口から明かされた『人間が不死でない理由』。

何故人間は死ぬのか。何故人間界だけがストーンを持たないのかが明かされた今、ナオの運命はもっと残酷な、哀れなものになっていく。

シャマールの右手の甲には・・・。

「これは・・・刺青(いれずみ)?」

右手の甲には真っ黒な羽が書いてある。

「この刺青は、歪みのトビラから抜け出した証。莫大な力と魔力を与えてくれるのだ。」

「じゃあシャマールは・・・。」

シャマールは右手に手袋をはめ、またサンドイッチを食べ始めた。

オレも少し冷めたスープの皿を手に取る。

「私は幼い頃、王城の庭に現れた歪みのトビラに入ってしまった事があった。」

まだほんのり暖かいスープが(のど)を通っていくのが分かる。

気付いたら、レストランに残っている客は少なくなっている。

シャマールはサンドイッチを食べ終え、コーヒーを手に取った。

「歪みのトビラの中は、普段私が暮らしている王城と何ら変わりない所だった。」

「え?」

「だがそこには誰もいない。私1人だった。怖くなった私は、王城の中を探し回った。誰か居ないか、何か変えるための手がかりはないか。そして私の部屋にたどり着いたとき、そこで出会ったのだ。歪んだ空間の主に。」

シャマールは、コーヒーに映った自分の顔を見て、哀しく笑った。

「そいつは・・・私の姿をしていた。だが背中には黒い翼が片方だけあった。」

「片方だけ?」

「ああ。私はそいつに頼まれたのだ。もう片方の翼を捜して欲しいと。」



「あなたは誰?」

「ワタシはワタシよ。名前なんて無い。」

黒い翼を持った少女は答える。

「どうして名前がないの?」

「ワタシはアナタを映す『鏡』だから。本当の姿はダレも知らないわ。」

少女は窓の外の景色を見つめながら答えた。

だがすぐにシャマールの方を向き、片方だけの翼を撫でながらシャマールに問いかける。

「アナタに頼み事があるの。聞いてくれる?」

「ええ。」

「ワタシのもう片方の翼を探して欲しいの。そのためには、向こうの世界で黒い羽をたくさん集めなくちゃいけないわ。」

そういうと少女はすっと立ち上がり、落ちていた黒い羽を拾い上げた。

「そうすればワタシはここから出られる。自由になれるわ。」

拾い上げた羽を、シャマールの右手にのせて握りしめる。

「待っているわ。リベラ。」

「どうして私の名前を!?」

くすっと笑い、少女は片方だけの翼でシャマールを包み込んだ。

「ワタシはアナタを映す『鏡』。アナタのことなら分かる。アナタがリベラという名前を嫌っていることも、シャマールという偽名を使っていることもね。」

黒い翼が徐々に2人を包んでいく。

しばらくすると、周りの景色が見えなくなるくらいに翼に覆われた。

「ねえ、あなたのことリベラって呼んでもいい?」

シャマールは静かに目を閉じてから、少女に問いかけた。

「どうして?リベラはアナタでしょう?」

少女は変わらず微笑みながら問う。

「いいえ。私はリベラではなくシャマールよ。リベラって言う名前はあなたにあげる。」

この少女は、私ではないワタシ。私には無いワタシを持っている。

「あなたは私で、私はあなた。それでいいじゃない?」

くすっとリベラが笑う。それにつられてシャマールも笑う。

「この羽あげるわ。アナタがワタシである証。」

「羽?」

シャマールの右手にある黒い羽を見つめた。

「また会えるといいわね。シャマール。」



「そのあとどうなったかは分からない。だが気が付いたら元の王城に戻っていた。私が歪みのトビラに入ってから一週間が経っていたそうだ。そして右手にはこの刺青が残っていたのだ。」

「そんなことが・・・。」

それがシャマールの強さの真相なのだろうか。

怒りで狂ったように暴れ出したキーナを、シャマールはたった一仰ぎで押さえ込んだ。

その黒い羽の刺青は、一体どれほどの力を持っているのだろうか。

シャマールの全力を見たことのないオレには分からないことだ。

「さあ、もう行きましょう。昼の訓練が始まるわ。」

言葉遣いが丁寧になったシャマールにせかされて、急いでギルバートを迎えに行った。



「アリー、早く行こう!」

「待ってよ。」

昼食を食べ終わったサヨとアマリアは、武術錬成区にある闘技場へ向かった。

2階へ向かう間、いろんな部屋から武器の弾き合う音などが聞こえた。

入り口の前に立ったとき、見覚えのある人物が居ることに気が付いた。

その人物は、開いたままの扉の前に立って闘技場の中を見ている。

「シャマールさん!」

サヨとアマリアは急いでシャマールの元へ駆け寄った。

「やっと来たわね2人とも。すぐに始まるわよ。」

「ええっ!?」

2人は急いで闘技場の中へ入った。

もうすでにナオとギルバートは闘技場の真ん中で構えている。

「遅いぜ?お嬢さんたち。」

「うっさいギル!」

アマリアの鋭い目線をギルバートは軽く受け流す。

「まっ、お嬢さんたちが来たからにはカッコワルイ所見せられないでしょ。」

「それはオレも同じ。」

ギルバートはツインライフルを、オレはルビーブレイドを構える。

それとほぼ同時に、開始のブザーが鳴り響く。

「手加減しねえから。」

「望むところ!」

ナオは大剣を下段に構える。

「はあっ!」

目の前にいるギルバートに向かって下段から上段へ斬る。

だが大剣はギルバートには当たらず空を切った。

「まだ甘い。」

飛び上がっていたギルバートは、天井付近の壁を蹴って素早くオレの後ろに回り込んだ。

ガガガガガガッ!

構えた拳銃で容赦なくナオの背を撃つ。

だがすぐにギルはその場から飛び退いた。

「お前、いつの間に・・・?」

オレの背中には傷どころか砂埃1つ付いていない。

「オレだって遊んでたわけじゃない。」

オレが使った技は、プロテクトキューブの変化系技『結界変形(キューブアート)』という技だ。

プロテクトキューブ1枚を薄い板状の物にし、何枚も重ねることで結界の強度を増すという技だ。

念のため体にも一枚張ってあるが、それだけでは持たないのが現状である。

そこで、ここ2、3日の間、夜キーナに教えてもらっていたのだ。

「らあっ!」

大剣を横に振って、ギルバートを投げ飛ばす。

飛ばされたギルバートは、何とか体制を立て直し、少し離れたところに着地した。

「っと、危ねぇな!」

そう言うとギルバートは素早く拳銃をしまい、星呪文を唱えた。

「時には命を与え、時には命を奪う水。蒼き波を操りしは青玉の力。」

それと共に、ギルバートの星剣は形を変えて現れた。

遠距離系砲(バズーカ)。それがギルバートの星剣のもう一つの姿。

「やっかいな・・・。」

近距離系のオレにとっては、ギルバートのバズーカは苦手なタイプだ。

「だったらオレも・・・。」

まだやったことはないが、試すなら今だろう。

「燃え上がる炎は絶えることなく。紅き炎を操りしは紅玉の力。」

星呪文を唱えるのと同時に、オレの大剣が形を変える。

「これは・・・?」

1本だった剣が2本になった。

さっきまでの大剣とは違い、刀身はオレの腕の長さしかない。やはりルビーがはめ込まれていて、白銀の刃をしている。

「これで五分五分だな。」

「もちろん。」

ギルバートがにやりと笑った。

「行くぜ!」

ズガンッ!ズガンッ!

ギルバートはいきなり地面に向けて打ち出した。

「うわっ!」

おそらくオレを狙っているのではない。ただ闘技場内の地面に向かってバズーカを打つ。

打たれたところからは土煙が舞い上がる。

「・・・まさか!」

気付いたときにはもう遅かった。

オレの周り・・・いや、闘技場全体が土煙で覆われている。

自分のすぐ近く以外は何も見えない。

「ヘイリー家秘術、超視力(マッドアイ)。」

どこかは分からないけれど、どこからかギルバートの声がする。

「くそっ!どこに・・・。」

土煙は晴れることはない。

星呪文を唱えていても、覇気がつかめない。

「カウントダウン開始!10・・・9・・・8・・・。」

ギルバートが楽しそうな声で試合終了までのカウントダウンを開始する。

「3・・・2・・・1・・・。時間だ。」

後ろだ・・・!

気付いた時にはもう遅かった。オレの背中には銃口があった。

「まいった。」

キューブアートが間に合わない。完璧に負けだ。

「はい、掃除確定!」

そこで試合終了のブザーが鳴り響いた。

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