聞き捨てならぬ隠し事
部隊内対抗試合の第一試合目が終わったところで、キーナ率いる第八番部隊は、対プルート戦に向けて、部隊に2人の狩猟者を加えることになった。
だがその2人の狩猟者は少し訳有りで・・・
「あっ!この2人は!」
アマリアが複雑な表情をしている。
「アリー知ってるの?」
サヨが2枚の写真を見ながら問う。
「知ってるも何も・・・。キーナ、もしかして・・・。」
キーナは怪しい笑みを浮かべながら言う。
「もちろん入れるわ。この子たちを手なずけられたら、相当強くなるわよ!この部隊。」
「でも大丈夫なの?」
アマリアは心配そうにキーナに問う。
「あのさぁ。オレたち全くついて行けてないんですけど・・・。」
「ああ、そうよね。」
どうやらすっかり忘れられていたようだ。
「この2人はね、狩猟者の中でも有名な『チームワークを苦手とする人』つまり、単独での戦いを得意とする狩猟者なのよ。だから2人とも、相当な実力を持ちながらも部隊には入っていなかったの。」
そう言うとキーナは、片方の写真を指さしながら言った。
「この緑色の髪をした子が、ディラディノ=ティラシェル。無口、無愛想って言葉が似合ってる魔術師よ。」
「こんな無口でも顔がいいから、ファンクラブがあるのよ。」
アマリアはキキッと笑いながら言った。
「もう1人の子が、メルウィン=ヘイリー。二丁拳銃を使う狙撃手よ。明るい子なんだけど、人を見る目が厳しくて・・・。」
キーナが呆れ果てた様子で言った。
確かに、部隊で戦うにはチームワークが必要不可欠な存在となる。
それがなければ、うまく戦っていくことは難しいであろう。
「ねえ、もしかしてメルウィンって、ギルの妹?」
「えぇ、そうよ。」
「マジで!?」
銀色の髪に緑の瞳。どこかで見た気がすると思ったら、ギルの妹だったのか。
「しかもギルとは仲が悪いの。悪いって言うよりは、メルウィンの方が一方的に嫌ってるって感じなのよ。」
アマリアがため息をこぼしながら言った。
「まあ、2人は明日から来てもらうから。明日は今日と同じ第3塔の2階闘技場に9時に集合よ。」
「ラジャー。」
オレたちはキーナの言葉に、声をそろえて返事をする。
午前中はそこで解散し、それぞれ昼食を食べにいくことになった。
サヨとアマリアは住居区の中にあるレストランへ向かった。
武術錬成区以外には、何処でもレストランはあるが、1番多くのレストランがあるのは住居区だ。
キーナはやり残した仕事があるといって、協会区へいった。
1人になったオレは、しばらく住居区を見回ったあと、ギルバートを迎えに行くために協会区へ向かった。
「・・・聞けば良かったなあ。」
任務報告窓口の場所を聞くのを忘れていたため、完全に迷ってしまった。
あてもなくブラブラと歩いていると、誰もいない吹き抜けにたどり着いた。施設の外側を囲むように吹き抜けがあるようだ。
そこからは、静寂の森の入り口の方が見えた。おそらく3階であろうこの場所からは、遠くに武術錬成区が見える。
「・・・気持ちいい。」
微かに吹く風は、頬を優しくなでていく。
しばらく外を眺めていると、曲がり角の向こうから、誰かの話し声が聞こえる。
聞き覚えのある声だ。
「・・・シャマール?」
気になったので、そっと近づいて話を聞いてみた。
「書の状況に変わりはない?」
「はい。異常はありません。」
もう1人の人は、さっき放送で聞いた声だ。
「カロールさん?」
シャマールと話をしているもう1人の女性。
腰まである長い茶色の髪を縦に巻いている綺麗な女性。それはカロール=アナトール。
2人は声を潜めて話している。
「そう。ならいいわ。」
おそらく書のことについてだろう。
「書が無くなっては、大変どころじゃすまないわ。引き続き警備を行うように伝えて。」
「了解しました。」
そう言うとカロールは、足早にどこかへ向かった。
オレはその場を立ち去ろうと、方向を変えた。
その時、シャマールが誰かと話す声が聞こえた。
もう一度近づいてみると、さっきとは違う20歳くらいの男性がいる。
「キリク。」
「ここに。」
キリクという男性は、真っ赤な腰まである髪をおろしている赤い瞳の人だ。
「プルートたちの動きは?」
「今はまだありません。しかし、もうそろそろだと思われます。アジトへの人の出入りが多くなっています。」
何だって?
思わず声を上げそうになったが、ぎりぎり押さえる。
「おそらく協会本部へ攻めて来るだろうな。」
・・・ん?
気のせいだろうか。シャマールの言葉遣いが変わってる気がする。
「その時、援軍はどうなさいますか?」
「いらないだろう。こちらにも腕の立つヤツはいる。それに8星将軍が1人いれば十分だろう。いざとなれば私が片付ける。」
「分かりました。・・・でもいい加減、王城に戻ってきてくださいよ。ルイーダさんも色々大変ですし。」
「まあ、いつかは戻るさ。」
「陛下のいつかは一体何年後なんでしょうね?」
キリクは笑いながら言う。
「まあよい。ともかく頼んだぞ。」
「了解。陛下が望むままに。」
そう言うとキリクは消えた、というより瞬間( ワ ー)移動したみたいだ。
大変なことを聞いてしまった。
シャマールが陛下?どういうことだ。
ともかくここから立ち去ろう。
そう思い、歩き出したとき・・・。
「っわあ!」
気が抜けたのか、段差につまずいて声を上げてしまった。
ギリギリこけなかったが、シャマールに見つかってしまった。
「ナオ?どうして・・・。」
「あっ!・・・いや、その・・・。」
「・・・聞いていたのね。」
シャマールはため息をこぼしながら言った。
「悪気は無かったんです。ギルを探していたら迷っちゃって、偶然ここに来ただけで・・・。本当にすいません。」
頭を下げて謝るオレを見ながら、シャマールは微笑んで言った。
「いいのよ。遅かれ早かれ言わなければ行けなかったから。」
そういうとシャマールは吹き抜けから出た。
「もうこんな時間だわ。ナオ、下のレストランに行きましょう。いろいろと言っておかなきゃいけない事もあるから。」
そう言って歩き出したシャマールを追いかけて、オレも1階にあるレストランへ向かった。