部隊内対抗戦
ナオ、アマリア、キーナの3人に加え、2人の守護者、ギルバート=ヘイリーとアマリア=マーティンが加わり、第八番部隊を結成する。
そのメンバーで、一週間後に迫る部隊対抗戦に向けて、活動を開始する。
「くあーっ!ねみぃなあ!」
ギルバートののんきな声が、静かな空間に響き渡る。
オレは今ギルバートと共に、闘技場の入り口にいる。
この協会本部には、ハンター専用の施設がある。
その施設の中心にあるのがアリーナ。部隊対抗戦など、大きな試合や行事の時に使用される、闘技場の何倍もある広いところだ。
その周りに囲むように建っているのが闘技場だ。といっても3階建ての塔になっており、塔は7つある。
オレたちがいるのは第3塔の2階だ。
今日は部内対抗試合があると聞いてきたのだが、まだギルバートしかいない。
「なあ、ギルバートのメモリーって何なんだ?それも星剣なんだろ?」
あくびを連発していたギルバートは、眠そうな顔をしながら答えた。
「んー?俺のは二丁拳銃っていう銃だ。まあ見た目は遠距離型に見えるが、実際は銃口の辺りが厚くできてるから、近距離型でもある。星呪文を使ったら、バズーカ型にもなる。」
ギルバートの話の中で、聞き慣れない言葉があることにオレは気付いた。
「せいじゅもん?」
オレの質問にギルバートは、たれた目を大きく見開いた。
「そんなことも教えてもらってなかったのか?」
「まあ、いろいろと忙しかったし。」
「なるほどねえ・・・。」
そう言いながら、ギルバートは近くにあるベンチに座った。その横にオレも座る。
「ほら、アベルたちがハンマーを出すとき言わなかったか?燃え上がる炎は、絶えることなく・・・っていっただろ。あれが星呪文ってやつで、元々の星剣の能力を何倍にも増加させたり、星剣の形を変えられるんだ。まあ、結構な量の覇気がいるんだけどな。」
「覇気?」
「あー、それもか。」
辺りが次第に明るくなってきた。もうそろそろみんな来ていいはずなんだけどなあ。
「覇気ってのは、神力のこと。存在感?いや、オーラかな?ともかく、俺たち生き物だけでなく、建物や植物、海とかにもあるんだ。覇気を見たりするためには、まず自らの覇気をコントロールできるようにならなければいけない。ちなみに今のお前じゃ無理だな。」
「えぇー!」
ふてくされているオレを見ながら、ギルバートはケラケラ笑っている。
そんな事をしてると、キーナとシャマールが来て、すぐあとにサヨとアマリアが、手をつなぎスキップしながらやってきた。
「あの2人いつのまに・・・!」
「性悪ガールズ、ここに参上!」
そんなことをギルバートと言っていると、鋭い視線がオレたちに向けられた。
が、その視線もすぐに別の所へと向けられた。
キーナの持ってきた鍵によって闘技場が開かれた。
ここには一度来たことがある。
まだ本部に来て2日目のとき、特訓をするために来たのだった。
今回は部隊内対抗試合をするためにここへ来た。
中は屋内グラウンドのようになっていて、大きな窓がある。
その窓が開けられているため、心地よい風が闘技場の中を吹き抜ける。
「さあ準備をして!すぐに始めるわよ。」
キーナの声にせかされて、オレたちは準備を始めた。
準備といっても、軽く準備運動をした後、自分の武器の具合を確かめるだけだ。
「メモリー01、ルビーブレイド。」
オレの言葉に、首にかけてあるストーンが反応して光った。
その光は大剣の形になり、オレの手に握られた。
「・・・よし。」
どこも異常はない。この前と変わらず、白銀の刃は輝いている。
こんな大剣を使いこなせるというのが、自分でも信じられない。
大剣を握りなおし、何回か振ってみる。
風を切る音を聞きながら、オレは目を閉じた。
目を閉じていると、いつも元の世界のことを考えてしまう。
また元の日常に戻れるのだろうか。自分はこのままどうなってしまうのだろうか。
トビラが通してくれなかったのは、この世界に残れということなのだろう。
この世界に居続けたい気持ちもあるが、それよりも帰りたいという気持ちの方が、自分の中では大きいのだと感じる。
オレはただ・・・ただ元の世界に帰れればいい。
元の世界に帰って、『いつも通りの日常』を過ごす。朝起きて身支度をし、玄関から出る。サヨとは家が近いから、学校までは一緒に向かう。学校に着いたら教室に入り、友達と授業が始まるまで笑い話をする。昼食の時も友達と過ごす。その中にはもちろんサヨがいて、下校の時だってサヨと一緒に帰る。
ここに来るまでは当たり前だと思っていた。だが、もしオレとサヨのどちらかしか帰れなかったとしたら、そこは『いつも通りの日常』ではなくなる。これほどまでにサヨを必要だと思ったことはない。それは家族的感情なのか、それとも・・・。
・・・いやいや。あいつはただの幼馴染みだ。
そう、それでいいんだ。それで・・・。
「ナオっ、おいナオっ!」
「うわっ!何だ、ギルバートか・・・。」
ギルバートの声で我に返った。考えにふけっていた分、余計に驚いた。
「何だはないだろ?あっ、まさか愛しの誰かのことを・・・。」
「バカ。違うよ!・・・てか試合順決まったの?」
ギルバートはキキッと笑いながら、辺りを見回した。
「1試合目はアリーとサヨだそうだ。俺たちはキーナんとこに行ってようぜ。」
「アリー?」
「ああ、アマリアの愛称だよ。お前もそう呼んでやれよ。」
「アリーか。なるほど、愛称ねぇ・・・。」
だったら、ギルバートは何だろう。
「ギルってとこか?」
「へ?」
ギルバートの気の抜けた返事に、オレは少し頬をゆるめた。
「ギルバートの愛称だよ。いいだろ?ギルっ!」
「もちろん!その方がいいさ。」
2人で笑い合っていると、サヨとアリーが闘技場の真ん中に立った。
「メモリー01、パワーアーマー。」
サヨの言葉でストーンが光り出し、元々はめていたグローブとブーツの上から、さらに頑丈なパワーグローブがはめられた。
それをみて、アマリアも武器を復元させる。
「メモリー01、トライデント。」
アマリアの緑色のストーンが輝き、復元させられたのは、銛に似た武器だった。
ナオの大剣よりも長く、アマリアの髪と同じ、深い赤色をしている。
「いくわよ。アリー!」
「ええ。サヨ!」
開始のブザーが鳴り響いた。
「はああああっ!」
サヨにむかってアマリアの一突き。
それをサヨはかわし、アマリアのトライデントは地面に刺さる。
「くっ!」
アマリアがトライデントを抜くよりも早く、サヨの蹴りがアマリアの腹部に直撃。
「ああっ!」
アマリアは蹴飛ばされ、闘技場の壁にぶつかった。
サヨは着地し、にやりと笑う。
「うわー、アリー大丈夫かな。」
念のため、伸縮性のあるプロテクトキューブをしているため、剣などで体が切れることはない。だが、斬ったときや突いたときの衝撃は直接伝わる。
サヨのようなタイプは、よっぽど大きな衝撃がくるのだろう。
たった一発の蹴りでも、アマリアはそうとうなダメージを受けている。
「・・・まだアイツ本気じゃないな。」
「ええ?」
「アイツ本気になったら双子になるんだ。」
その時だった。アマリアのストーンがいきなり輝きだした。
「今日はちょっと早めに使っちゃおうかな。」
アマリアは微笑み、ストーンを握った。
サヨはその様子をじっと見ている。
「アリーの家は先祖代々、自らを2つに分ける能力を持っているのよ。」
じっとオレたちの横で試合を見ていたキーナが説明してくれた。
「この世界クリスティアでは、それぞれの家元に代々伝わる能力があるの。アマリアは分身能力。ギルバートは透視能力を持っているわ。」
オレたちの方を見ずに、キーナは言った。
「マーティン家秘術、双子。」
するとアマリアは消え、現れたアラベルとルルベルは、2人ともトライデントを持っていた。
アラベルとルルベルはクスッと笑いトライデントを構えた。
「アタシたちについてこれる?」
「望むところよ!」
サヨは高く跳躍、右手に覇気をこめてルルベルに迫る。
「閃光弾っ!」
見事に当たった・・・と思ったが、ルルベルはトライデントでガードしていた。
すぐにルルベルはサヨの右足下近くにトライデントを突き刺し、サヨの動きを封じる。
「くっ!」
サヨがそこから逃げるよりも早く、ルルベルの背後からアラベルが飛び出した。
「らあああああぁっ!」
アラベルの突きによる一閃は、サヨを壁まで突き飛ばした。
「うあっ!」
もう少しで壁が壊れそうなくらいの衝撃だった。だが、双子の攻撃はまだ終わらない。
「森力神技、双銛の(・)一突き(デント)」
ふらふらと立ち上がったサヨに、とどめの一突き。
「ああっ!」
双子の突きに飛ばされ宙を舞ったサヨは、そのまま地面に落ちた。
「ま・・・まいった。」
その声で試合終了のブザーが鳴り、一試合目が終わった。
双子はアマリアにもどり、トライデントをしまった。
「アリーってば強すぎ。」
倒れたままサヨはアマリアに言う。
「ええー?サヨだって。私も久しぶりに双子になって戦ったんだよ?」
まだまだ暴れたりなさそうなアマリアを見て、オレとギルバートは身震いをした。