部隊結成
ラヴィエルの指導の元、特訓をはじめたナオたち。
だが決して楽な特訓ではなかった。
キーナは暴走し、闘技場を破壊しそうになるが、シャマールの圧倒的な力によって抑えられた。
そして特訓を終えたナオたちは、狩猟者として動きだす。
「うーっ・・・。」
昨日の特訓のおかげで、今までよりもさらに悪化した筋肉痛がオレを苦しめる。
今朝はキーナがオレとサヨに、モンスター退治のことについて話があるとのことなので、キーナの部屋の前に来ている。
昨日の件で、オレたちの実力じゃキーナに勝てないことが十分に理解できた。モンスター退治でオレたちが役に立てるとは限らないはずなのに・・・。
なのにオレが今着ている服は、協会の制服だ。
といっても、シャマールやセウスさんが着ていたような白い服ではなく、キーナが着ている、動きやすくて丈夫な、明らかに戦闘用に作られたと思われる黒い制服だ。
昨日の夜、それに着替えてから明日は来いと言われたのは、そういうことだったのか・・・。
まんまとはめられたなと思いつつ部屋の前に立っていると、隣の部屋からサヨが出てきた。
「おはよーナオ。」
「おはよ。・・・なんかえらく眠そうだな。」
「昨日寝るのが遅かったの。」
サヨもキーナと同じ制服を着ているが、サヨの場合メモリーを復元させやすいように、同じ形の黒いブーツとグローブを付けている。
「さ、いこいこ!」
なぜか異様に張り切っているサヨにせかされながら、キーナの部屋に入った。
「あら、早かったわね。」
キーナは部屋にある机の近くにいた。部屋の中心にある2つのソファーの内の1つには、オレたちくらいの歳の少年と、小学生くらいの少女が2人いる。
少年は、銀色の長髪を後ろで1つに束ねていて、緑色で少したれた目をしている。
2人の少女は、見分けがつかないくらいそっくりの双子で、燃えるような赤い髪をそれぞれ違う方に結んでいる。
右を結んでいる方が金色、左を結んでいる方が銀色の目をしている。
3人とも黒い制服を着ていて、その上からグレーのローブを着ている。
「この2人は?」
少年がオレたちの方を振り返り、キーナに訪ねた。
「紹介するわ。人間界から来た守護者のナオとサヨよ。」
「ようこそ人間界から。オレはギルバート=ヘイリー。で、こっちの感じ悪そうな嬢ちゃんたちは、アラベルとルルベル。右を結んでいるのがアラベルで、左を結んでいるのがルルベル。まあ、本当の姿じゃないがな。」
「へっ?」
オレとサヨがそろって聞き返す。
「おい、そろそろ本当の姿に戻ってやったらどうなんだ?」
ギルバートが双子にそう言うと、双子はそろって言い返す。
「感じ悪いって何よ!あんたなんかただの軽い男じゃない!」
「いやぁ、軽い男はないでしょう。」
アラベルとルルベルは、へらへら笑うギルバートをにらみつけたまま、呪文を唱えた。
「マジックアウト!」
すると双子は1つになり、小学生くらいだったはずが、オレたちと変わらないくらいの少女になった。
赤い髪は左右に結ばれ、右目が金色、左目が銀色をしている。
「はじめまして。私はアマリア=マーティン。アラベルとルルベルってのは、私が2つに分かれたときの名前。こっちが本当だからね!」
どうやらギルバートとアマリアは仲が悪いようだ。
いや、仲が良いのかもしれない・・・。
自己紹介が終わったところで、今日の本題に入った。
「今日あなた達をここに呼んだのは、ハンターとしての資格をとるためよ。ギルバートとアマリアは知ってると思うけど、一週間後、部隊対抗戦があるの。」
「ハンターの資格?」
キーナは自分のベッドに座りながら説明する。
「協会の中には、私たちのように黒い制服を着ている、ハンターといわれる組織があるのよ。まあ、あなた達で言う警察みたいなもの。そしてその中には、いくつかの部隊があって、それぞれ4人から6人制の部隊になっているの。」
「部隊かぁ、オレも昔あこがれたもんだな・・・。」
ギルバートがしみじみと呟く。
その言葉に鋭くアマリアがつっこむ。
「女目当てでしょ?」
「もちろん!ハンターってみんなのあこがれじゃん。」
「この女ったらし!」
「まあまあ、それくらいにして。」
サヨが止めにはいったが、アマリアはギルバートを睨み続けているし、ギルバートはへらへらと笑っている。
ちょうどその時、侍女が紅茶とお菓子持ってきた。
紅茶を受け取ったキーナは困ったようにため息をつき、また話し出した。
「話を戻すけど、その部隊を私たちで作ろうと思うの。」
「オレたちで?」
「ええ、この5人でよ。もちろん、部隊対抗戦にも出るわよ。」
キーナは自信満々に鼻を鳴らしながらいった。
けれど無茶だろう。
「大丈夫なの!?」
アマリアが大声でオレの言いたかったことを言う。おそらく他の2人も同じ気持ちだろう。
ギルバートたちはともかく、オレとサヨはおそらく、十分といえるほどの戦力ではないと思う。
「大丈夫も何も、ハンターランクをとっとかなきゃ、後々不便でしょ?」
「ハンターランク?」
「ハンターたちの強さの象徴であり、この世界の国々を行き来するためのパスにもなる、便利なものなの。」
へえ、それは便利なもんだな。たしかにそれならあった方がいいと思うなあ。
「でも、オレたちで勝てるのか?」
それはオレたち4人の疑問だった。
「だったら試してみる?」
「試すってどうやって?」
ギルバートが天井を見上げながら聞く。
「明日、部隊内対抗試合をするわよ。」
「はあ?」
紅茶を飲んでいたオレは、驚きのあまり紅茶を吹き出しそうになった。
「守護者同士、本気で戦うの。もちろん私もはいるわ。」
「えぇー。キーナがはいったら勝ち目ないし。」
サヨがふてくされて呟くと、キーナは怪しい笑みを浮かべ、紅茶の残っているカップを机の上に置いて言った。
「さあ、明日は頑張って!ビリだった人は、一週間本部の掃除を行うこと。以上、解散!」
「えぇー!」
明日も一波乱起きそうだ・・・。
まだ少し冷たい夜風が吹く協会本部の最上階にある吹き抜けにキーナはいた。
ここ協会本部の最上階には、たった1つの大きな部屋があるだけで、それ以外にはキーナが今いる吹き抜けしかない。
灯りはついていないが、異様なほどに輝く三日月のおかげで、キーナが居る辺りは少し明るい。
「話って何かしら?」
暗闇の中から聞こえる声に、キーナは振り返る。
「ちょっと頼み事があってね。」
ふうん、といいながらシャマールはキーナの横まで来た。
「ナオたちの訓練に付き合ってほしいと言うところでしょう?」
「何だ。わかってるのね。」
キーナは軽くため息をつき、シャマールはクスクスッと笑う。
「明日、部隊内対抗試合をするの。それが、あの子たちの実力を確かめるための1番てっとりばやい方法だと思ったから。」
「いいわね!それ私も参加していいかしら?」
キーナは子供のようにはしゃぐシャマールに哀れみの視線を送る。
「・・・誘うつもりで来たのよ。」
はしゃぎ具合がさっきよりも増したシャマールを見たキーナは、もう一度ため息をついた。
「でも本気は出しては駄目よ。試合にならないから。」
「あら、そうなの?」
・・・完全に遊ばれている。
だが、シャマールには誰も勝てない。勝てるわけがない。
「あなたに勝てるわけがないでしょう?協会本部総帥シャマール=ガブリエル。いいえ、女王神リベラ・テラ・アングレイ。」
「その名前はあまり好きではないわ。」
キーナの目の前にいるのは、総帥シャマール=ガブリエルであり、神界クリスティアを束ねる最高神の女王リベラ・テラ・アングレイでもある。
その事実を知るのは、キーナとセウスさん、それと王城オリンポスにいる王室秘書のルイーダ=アルモニスだけだ。
「我らが女王が、こんな長期間王城から抜け出して大丈夫なの?」
「そういうのは全部ルイーダに任せてるわ。第一こっちの方が楽でしょう。」
世界一面倒くさがりの女王は、仕事よりも戦いが好きだ。
だから、書類に目を通し政治を行う王城よりも、クロム族をまとめ、いざとなったら自らが戦うことの出来る協会の方を、彼女は好んでいる。
「今日はもう寝るわ。明日も早いもの。」
キーナは微笑みながら、シャマールに背を向けて歩き出した。
「ナオには気をつけて。」
キーナは歩みを止め、シャマールに問う。
「なぜ?」
「あの子の覇気の量は尋常じゃないわ。」
「それは守護者だし、星剣を持つものだからでしょ?」
覇気というのは、その者の神力の大きさを表すものだ。
確かにナオの覇気は、サヨやギルバートに比べれば大きいが、それほど飛び抜けて大きいというわけではない。
「それはサヨたちも同じはず。けれどナオは、まだ大きな力を隠し持っているようにしか思えないの。本人は気付いていないようだけど、何かのきっかけで覇気が爆発する可能性も低くはないわ。あの子はただの守護者ではないと思うの。800年前に関わっている可能性もあるわ。それに・・・。」
シャマールは一瞬とまどったが、またすぐに話し出した。
「・・・4大星神の生まれ変わりかもしれないわ。」
シャマールがとまどったのが、キーナにもわかった。
もしナオが4大星神の生まれ変わりだとしたら、ナオには背負わなければいけない使命があるからだ。
その使命は、ナオにとってはとても辛いことだろう。
キーナにはそうでないことを願うことしかできないのだ。
「あんな小さな子供が、重い使命を背負ってはいけないのよ。あの子は人間界に戻るべきでしょう。」
「わかったわ。」
それだけを言い残し、キーナは再び歩き出した。
今までよりも、明日が少し不安になった夜だった。