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2人目の四天王が現れた

 パンドラさんに従って、もとい連行されて約20分。

 連れてこられた場所は一軒の屋敷でした。

 屋敷といってもそれほど大きな物ではありません。

 他の家よりも少し大きいぐらいの物で少し拍子抜けしました。

 この都市にはアンデッドが多いですが、別にお化け屋敷のような見た目というわけでもありません。

 普通の屋敷です。


 むしろそれよりも気になる点は、手入れが行き届いていないわけでもなさそうなのに物凄く古く見える場所があるという点ですね。

 それこそ数十年前、数百年前の物件かと見紛うほどには。

 腐っているとかそういうわけではないのですが、古文書などと同じように明らかに変色しているのですよ。


 パンドラさんはこの屋敷の住人に用があるようなのですが……一体どのような人物が住んでいるというのでしょうか?

 パンドラさんとは違って話が通じる人物だと信じたいですね。

 偏屈なマッドサイエンティストのような人物では目も当てられないです。


 「ここでしばらく待っていなさい。爺に話をしてくるから。ヴァイスはその幽霊をしっかりと見張っておいて。」

 「承知しました。」


 ヴァイスさんとそんな言葉を交わすとパンドラさんは屋敷の庭へと向かっていきました。

 そちらの方角からは子供の笑い声が聞こえてくるような気がするのですが何故でしょう?

 まさかとは思いますが爺と呼ばれている人物が子供の外見だったり……は流石にないですか。

 まあ想像するだけ無駄ですか。

 とりあえず今のうちにヴァイスさんに情報を聞いておくとしましょう。


 「えっとヴァイスさん。質問してもよろしいですか?」

 「どうぞ。」

 「私が今から会う方はどのような方なのでしょうか?」

 「……あなたは魔族について何も知らないのですよね。ならば基本的な事から教えましょうか。今から会う方は四天王の1人、ゲニウス様です。魔族最強と謳われているような方なので怒らせるような事だけは止めておいた方が良いですよ。まあ基本的には温厚な方なので余程の事がなければ大丈夫だと思いますが。」


 ……四天王の次も四天王ですか。

 それも最強の四天王。

 凶運というべきか、それとも強運というべきか。

 明らかに転生して数日後に会うような相手では無いですよね。


 「ちなみにヴァイスさんとパンドラさんはいったいどのような関係なのですか?先程の会話から察するに一介の部下に過ぎなかったという訳ではなさそうでしたが。」

 「おや、気付かれましたか。私とパンドラ様の関係は、と言いますと……私はパンドラ様の副官だったのですよ。大分昔の話ですがね。その後、紆余曲折を経て今はバーテンダーと客という関係になっています。」


 ふーん。

 副官だったのですか。

 副官……四天王の副官ってそれなりの立場なのでは!?

 今は一見したところ一般人のように思えますが……元四天王の副官が普通なわけがないですよね。

 昔は相当におヤバい感じの人だったのでしょうか。

 ……藪蛇になりそうなので聞こうとは思いませんが。


 「いったい何故副官を辞めてバーテンダーになったのですか?その、何と言いますか。失礼な話だとは思いますがバーテンダーという職業は四天王の副官を辞めてまでなるような職業だとは思えないのですが。」


 「よく聞かれる話ですので遠慮せずとも良いですよ。ただ、何故と言われますと少し困りますね。強いて言うならば兵士であること、いえ生きる事に疲れたからでしょうか。勿論、バーテンダーになりたかったからという理由もないわけではないのですが……。ああ、年寄りの戯言ですから聞き流してくれても結構ですよ。」


 いまいち良く分かりませんが……どこかスケさんと似たような雰囲気を発しているような気がします。

 言っている事は真逆に近いはずなのですが……。

 アンデッドになると皆同じ雰囲気になってしまうのでしょうか?

 という事はアンデッドに近い存在である私もまた……。


 「そう言えばパンドラさんの年……。」

 「話をして来たわ。付いて来なさい。」


 うわっ!

 危ない危ない!

 もうパンドラさんが帰って来てしまいましたか!

 つまりおしゃべりはこれでおしまいと。

 ……最後に何を質問しようとしたかはパンドラさんにバレていませんよね……。


 ……バレていると考えると恐ろし過ぎて夜も眠れない、いやむしろ夜の方が眠れない気がしますので一旦気持ちを切り替えましょう。

 過ぎてしまった事はどうにもなりませんし。

 ひとまず背筋を伸ばして手をぶらぶらさせてリラックス、リラックス。

 ……肉体がないのでどうにも締まりませんが。


 ……さてさて四天王最強とはどのような存在なのでしょうか?

 パンドラさんが爺と呼んでいたのですからそれなりに年を取っているのだと思うのですが。

 アンデッドもいるような世界ですし200歳ぐらいの爺であったとしても不思議ではないですね。



 はい。

 今私の目の前には魔族の最高戦力の四天王が2人います。

 1人は吸血鬼のパンドラさん。

 私が初めに出会った四天王ですね。

 そして私をここに連れてきた人でもあります。


 で、もう1人なんですが……現在3人の子供と遊んでいます。

 膝に乗っけたりくすぐったりしてね。

 微笑ましい光景だと思うかもしれませんが……その四天王さんが魔族じゃない、つまりアンデッドなのですよ。

 お陰で微笑ましいどころかシュールを通り過ぎて不気味なのです。


 角があるということ以外はスケさんやヴァイスさんと同じ骨なのですが……真っ黒でボロボロなローブを身に纏っています。

 正直言ってかなり怖いです。

 視線を注がれるたびにまるで心臓を掴まれたかのような錯覚に陥り程です。


 外見から判断するにリッチと呼ばれる存在ではないでしょうか?

 でもとても四天王最強とは思えないのですよね。

 四天王にしては服が質素というか何というか。

 お陰で野生のリッチにしか見えないのです。

 ……野生のリッチがどんな物かは知りませんけど。


 「パンドラ、その幽霊が先程言っていた奴か?」


 声は……渋いですね。

 渋いと言ってもヴァイスさんのような渋さとは少し違います。

 凪のように静かで、それでいて深淵の如き深みがあるという何とも形容しがたい声です。

 不思議と引き込まれるような感覚がします。


 「ええ、そうよ。こいつが件の幽霊よ。早急にどう扱うかを決める必要があると思うのだけど。」

 「なるほど。だがまあそう急くな。まずはお主の言っている事が本当かどうか確かめなければな。お主が嘘を言うとも思えんが内容が内容であるから仕方あるまい。ふむ、上級魔法を試すから皆下がっておれ。」


 え、またこのパターンですか。

 上級魔法ってさっきのえぐい奴ですよね。

 あの球体状で一撃で辺りを薙ぎ払ってしまう程の破壊力を持ったあれですよね。

 死ぬ事はないでしょうけれど……ってでかいな、おい!

 パンドラさんの作り出した物の倍はありますよ!


 しかも……あれ、見間違いかな?

 球体が1つだけではないような気がするのですが。

 いったん目をこすって……1、2、3、4、5、6、7、8……全部で10個ですか!

 何だこの人!

 落ち着いた人だと思っていましたが全くそんな事ないじゃないですか!

 むしろパンドラさんよりも殺意が高いぐらいですよね。


 「では行くぞ。はたして本当に耐えられるかな?」

 

 あははははは。

 お空に青い球と赤い球と黄色い球と黒い球と紫色の球と緑色の球と無色の球と水色の球とオレンジ色の球と茶色の球が1つずつあって綺麗だなぁ。

 まるでお星さまみたい。

 ってこれ全部試すのですか?

 マジですか? 

 一回頭の中を解剖してもらった方が……。


 「ちょっ、タンマ!」


 ズゴゴゴゴゴゴゴ


 鼓膜がぁー!

 音がえげつな過ぎますって!

 地面と大気に凄まじい衝撃が走ってまるで地震のような音が辺りに鳴り響いているのですよ!

 幽霊なのに鼓膜が痛いかのような錯覚を覚えるほどです!

 パンドラさんと言いゲニウスさんと言い魔族はもっと加減を知るべきでは!?


 「ふむ。これを耐えるのか。光を除く全属性とさらには混合魔法まで放ったのだが。確かに魔法が効かないというのは本当のようだな。では実験も終わったところで本題に入ろう。」


 実験って……。

 モルモット扱いじゃないですか。

 そりゃまあ新種ですから興味があるのは分かりますがもうちょっとましな対応を……。


 「まず互いに敵対行動を取らないという事には私も賛成だ。正直なところ今はお主を倒す手段が見つからない。光属性の魔法や禁忌の魔法については分からんが……今倒せないという事は事実だ。つまりスパイ活動などをされれば今の所はどうしようもないという事だな。これでお互いに敵対行動を取らないという条件を飲む事は決まったが、パンドラが先程言っていたようにスパイ活動をするもしないもお主次第で妨げようがなく、されていても分からない可能性があるというのでは成り立たない。そこでお主に監視役を1人付けようと思う。当然、監視役の目から逃れた場合は敵対行動と見なす。異論はあるまいな?」


 今は倒せないって事は暫くしたら倒せるかもしれないという事ですよね。

 そこまで念を押されなくても、私も今の所は敵対しようとは思いませんよ。

 そして監視役ですか。

 確かに魔族としてはそうする他ないでしょうね。

 でも活動を狭められるというのは少し嫌です。

 何か交換条件を出しても構いませんよね。


 「異論はありません。異論はありませんがこちら側からも条件を付け足したいです。監視を受ける代わりにこの世界における知識、つまり魔法などの事ですが、それを教えていただきたいのです。あ、何もその禁忌の魔法とか魔族領の要所を教えろとは言いませんよ。一般に学ぶ事が出来る程度の物を教えていただきたいのです。」


 「ふむ。それぐらいならば構わんが……その身体で魔法が使えるのかどうか。そう言えばパンドラが言うにはお主は自分を異世界からの転生者だと主張しているそうだな。ぱっと見、嘘を付く人間のようには思えんが……どうやって証明する?」


 おお!

 転生したという事に触れてくれましたか!

 信じているというわけでは無さそうですが話を聞いてくれるだけましでしょう。


 しかし……証明、証明ですか。

 転生する際に地球の物どころか体まで無くしてしまいましたからね。

 物を使った証明は不可能でしょう。

 とするならば知識を頼みにするほかないのですが……相手側が私が嘘を付いているのかどうかを判別するのは難しい。

 あれ、もしかして詰みました?


 「転生する際に色々と失ってしまいましたので……。向こうの世界での知識ならばあるのですが……。」

 「知識か。それでは証明にはならないな。この世界で証明出来る物ならばともかく、訳の分からない事を言われてもどうしようもない。」


 ですよね。

 地球ではこんな物が流行っていて……何て事を言っても仕方がないですよね。

 かと言ってこの世界で証明出来る事……一つだけありますね。

 でもこれは……。


 本当は今切りたい手札ではないのですが……信用を得る事は出来ますし案外悪い手でもないのでしょうか?

 人族や元クラスメイトに反感を抱かれるかもしれませんが、魔族に脅されて命が危機に瀕していたとか後で言い訳すれば多分大丈夫でしょう。


 「1つだけ、1つだけ恐らく証明出来る事があります。何故私が転生させられたかに関わる事なのですが……。」


 「……続けてくれ。」


 「私が神に転生させられたのはズバリ、あなた方魔族を滅ぼすためです。ちょっ、パンドラさん!今攻撃するのはやめてください!」


 魔族を滅ぼす、と言った瞬間悪寒が走ったのでパンドラさんの方を振り向いてみたのですが……さながら鬼のような形相ですね! 

 手には先程と同様に黒い球体……それも両手にあります。

 ゲニウスさんの奴を見た後ではインパクトはあまりありませんが、向けられている敵意が尋常ではないので恐ろしいです。

 ただ、私の感覚もそろそろ麻痺してきたようで先程よりはかなりましに思えます。

 それが良い事なのかと言われると微妙ですが……。


 ん?

 ヴァイスさんがパンドラさんの後ろから忍び寄っているようですが……。

 あ、後ろから羽交い絞めしましたね。

 しっかりと腋の下から両腕を通してそのまま後ろにグイっと……あれ?

 パンドラさんの腕が90度どころか150度近くまで回されていますが……骨、砕けていません?


 「こちらの事は気にせず話を続けてください。どうせ回復しますので。」


 あ、はい。

 話を続ければ良いのですね。

 しかし何が怖いかと言うと、ヴァイスさんはともかく、ゲニウスさんやその周りにいる子供達にヴァイスさんを止めようとする気が一切ないという事ですよね。

 ……ここはスルー安定ですか。

 回復するらしいですし。


 「……ヴァイスさん、パンドラさんを押さえつけてくださりありがとうございます。では話を再開しますね。転生する際に私は何らかの手違いでこのような身体になってしまったのですが、転生したのは私だけではありません。他にも元私の知り合いが50名転生させられたはずなのです。もしかすると彼らも私のような目に合っているのかもしれませんが、神は何処かの王宮に転生させるという趣旨の事を言っていたはずですので……。」


 パンドラさんが手に魔力を集めだした時は焦りましたが何とか話は聞いてもらえましたね。

 パンドラさんのあの顔は本気で殺す気の顔でしたよ。

 後はゲニウスさんがどのような反応を見せるかですが……。


 「なるほど。もしも他の者が転生に失敗していなければ人族の王宮にいる、もしくはそこに彼らの痕跡があるはずだと言いたいのだな?」


 「おっしゃる通りです。ですのでそれを確かめていただきたいのです。」


 いやゲニウスさんは冷静で助かります。

 流石は四天王最強ですね。

 何処ぞのパンドラさんとは違ってね。

 

 「それが本当ならばお主に敵意はないという事はほとんど証明されるだろうな。神が我々を倒すために転生させた、言わば最終兵器のような存在をばらしたという事になるのだから。だが仮にそれが証明されても条件は変えんぞ。余程の事がない限りはな。」


 それは仕方がないでしょう。

 元人間が魔族の信用を得ようというのですから。

 でも、もうちょっと信用してくれても……。


 あ、そう言えば元クラスメイトらが特殊なスキルを持っている事も伝えておかなければ。

 チートスキルが原因で魔族の方々が死ぬのは少々心苦しいです。


 「補足ですが彼らは特殊なスキルを神から授かっています。私が知っているのは《高速再生》や《防御力向上》、《死に戻り》などですが、全ては知らないのでどのような能力を持っているかは全く想像がつきません。ちなみに私は《アンデッド操作》というスキルだったのですが、転生に失敗して幽霊になったため今は使えません。」


 「……もしそれが本当ならば厄介極まりないな。普通に魔族が滅ぶ可能性がある。そして同時にそれを伝えたお主への信用も増すことになるか。……パンドラ。お主が適任だと思うがどうじゃ?」

  

 「人族領に潜入して情報を得ろという事ね。勿論私が適任だわ。他の2人には出来ないのは確実ね。ただ、この幽霊が言っている事が本当ならばあまりにも重要過ぎる案件だと判断したから、吸血鬼とその他潜入に向いた精鋭部隊の他に私自身も出向こうと思うのだけど……その間私の軍の統率をお願い出来るかしら?そこのヴァイスと今現在の副官、ハルトマンに協力するよう言っておくから。」

 

 「……パンドラ様、何を勝手に私を魔軍所属に変えているので?私はしがないバーのバーテンダーなのですよ。職権乱用にもほどがあるのでは?」


 「相分かった。パンドラがいない間の指揮は儂が取ろう。ただ、なるべく早く情報を手に入れて戻ってこい。もし本当ならば上層部に位置する者を全員集めて対策を練る必要がある。」


 「分かったわ。じゃ、その幽霊は任せたわよ。もしさっき言った事が嘘だった時は……分かっているわね?」


 四天王に伝えるとこんなに迅速に対応されるのですね。

 どこぞの国(ジパング)のように国の上層部が無能ではないようなのでそう簡単に魔族が滅ぼされることはないのではないでしょうか?

 それにしてもヴァイスさんの発言がスルーされているのは面白いですね。

 少し同情します。


 しかしパンドラさんにはやはり絶妙に信用されていないような。

 そこまで脅さなくても……ねえ?

ちなみにゲニウスさんはかなり長生きしていて、その経験から判断すると主人公が嘘を付いている様には思えなかったので比較的警戒はしていないです。主人公が少しでも敵対行動を取ればぶち殺そうとしますが。

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