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とりあえず不法侵入

 「ここが魔族の王都、ハウエルだな。苦労して来た甲斐がありそうだ。……それにしても何処にあるかも知らなかったのに良く辿り着いたものだ。」


 ……最後までちゃんと聞こえてますよ。

 やっぱりどの方角に行けばいいのか分かっていなかったのですね。

 でもこの都市に来た甲斐がありそうだというのには賛成です。


 目の前に広がっているのは東京ドーム何個分か想像もつかないような巨大な都市。

 日本の都市とは全く異なる種類の都市ですから一概には言えないと思いますが、一つの種族の都を名乗るには十分だと思います。

 雪のように白く、20メートルほどの高い壁に囲まれていて防御力も高そうなのは高評価です。 

 

 あ、突然すみませんでした。

 私影山、種族幽霊は今、スケさんと共に魔族の王都へとやってきております。

 あのダンジョン以降特におかしなことはなく、つまりは暇だったわけですが散々道に迷った挙句ここへと辿り(たどり)着きました。

 なので今は転生してから大体10日目ぐらいです。


 さて、状況説明も終わりましたのでこの都市がどの様な都市か説明しましょう。

 ほとんどスケさんの受け売りですがね。


 魔都ハウエルは666年前に出来た都市らしいです。

 名前は当時の魔王、ショーペンハウエルという魔族から取ったそう。

 推定人口は100万人ほどで魔族の次にアンデッドが多い珍しい都市らしいです。

 他種族との交易はそれなりに盛んで時折ドワーフやエルフも見かける事があるとか。

 ちなみに人族はほとんどいないらしいです。

 魔族にとって人族は敵ですから当然でしょう。


 あ、一応言っておきますがスケさんも来た事はないそうです。

 何でも知り合いに魔族について詳しい人がいてその人に聞いたのだとか。

 つまりは又聞きの又聞きという事ですね。


 そういう面白そうな都市なのでワクワクしているのですが……スケさんとはここでお別れになるのでしょうか?

 今の所自分は魔族の兵士になる気はない……というか魔族も幽霊を兵士として採用してくれないと思いますし、何より給料を貰っても使いどころがないです。

 そして兵士にならない以上スケさんが兵士になるならば別れなければならないと思うのです。


 「スケさん。スケさんは兵士になるつもりなのですよね。何故ですか?」

 「……それは兵士にならなくても他の職に就く事は出来るだろうし、何なら無職でも何ら問題はないのではないか、という事か?」


 ……選択肢に無職があるって。

 流石はアンデッドとでも言うべきなのでしょうか?

 確かに「食う寝るところに住むところ」はいらないでしょうけれど。


 「あー、まあそうですね。」

 「では答えよう。確かに兵士になる必要はない。それこそ日雇い労働者でもしていれば、食費などが掛からない分それなりの暮らしが出来るだろうし死ぬ心配もない。だがな、そうするのは……怖いのだ。」


 怖い?

 偏見に囚われ過ぎているだけかもしれませんがアンデッドがそのような感情を抱くとは少し意外ですね。

 それに普通に考えれば一般的な暮らしを送るよりも戦場に行く方が余程怖いと思うのですが。


 「もしも普通の一般市民として生活していればいずれは命という物がどのようなものなのか分からなくなるのではないか、命という物に何の価値も感じなくなるのではないか、それが怖いのだ。それ故に私は兵士になりたい。勿論、兵士となれば死ぬかもしれないし、自らが死ななくても大勢の仲間が死ぬことになるのだろう。だがそれでも戦場程命という物が何なのか、私が何者なのか分かる場所はない。傍から見れば迷惑な話だろうが端的に言うならば私は殺し合いたいのだ。だから人族が私を、我々を殺そうとする事を否定するつもりはない。もしも人族と魔族の戦争が終結したとしても我々は戦い続けるだろうからな。人族はもちろんの事、獣人やエルフ、ドワーフ、魔族にだって矛先を向ける事はあり得る。」


 お巡りさんこの人です……なんて事を言うわけには行きませんね。

 思った以上に重い話題でした。

 というかこれは不死である私にも通じる事なのでしょうか。

 私の場合は肉体がないのでスケさんみたいにはならないかもしれませんがいずれは、いやもう既に命という物に対する意識が変わってきているのかもしれません。

 つまりスケさんの考え方を肯定する気にもなれませんが否定するべきではないと思います。


 「そうですか。つまり兵士になるという選択肢以外はあり得ないと。という事はここでお別れという事になりますね。数日でしたがありがとうございました。」

 「まあそういう事になるのだが……別れの挨拶を言うには少し早くないか?今から王都に入るための手続きがあると思うのだが。」

 「この身体で手続きは無理……というか意味がないでしょう。それに目立ちたくないので適当に壁から入るつもりなんですよ。」

 「……そうか。忘れていたな。通り抜ける事も可能なのか。確かに手続きは面倒そうだしそちらの方が良いかもしれん。という事はここでお別れだな。またいつか会おう。」


 ……案外あっさりしていますね。

 先程の話とは大違いです。

 しかしよくよく考えればスケさんが兵士になるという事は次に会う事がないのかもしれないという事でしょうか。

 次に会う時は死体として……何て可能性もあるかもしれません。

 その場合スケさんがどの死体か区別がつかないという事も……。

 そもそもアンデッドの死体という表現は矛盾しているような気もしますが。


 でもまあこの世界はそういう世界なんだと割り切らないといけないのでしょう。

 何せ地球とは違うファンタジーな異世界なのですから。

 死ぬ時には誰だって簡単に死ぬ世界なのだと思わないと。

 そうは言ってもスケさんには生きて欲しいのですけれどね。

 あ、アンデッドなので死んでいて欲しいの方が正しいのでしたっけ?


 「そうですね。次会う時までには何か土産話でも作っておきますよ。その時までは生きていてくださいよ?あ、もう死んでいましたっけ?」

 「そうだな。精々この骨が砕けないように頑張るさ。そっちこそ……幽霊には何て言えばいい?死んでいるどころか……。」

 「さあ?ま、お互い頑張りましょう。それでは!}


 ……とりあえず悲しい別れにはならなくて良かったですね。

 もしかして幽霊やアンデッドになると体重だけではなくて性格まで軽くなるのでしょうか?

 確かめようがない事ではありますが少し気になりますね。


 さて、一度スケさんの事を考えるのは止めにしてこれからどうしましょう。

 先程スケさんにも言った通りあまり人に姿を見られたくないですよね。

 間違いなく注目されるでしょうから。

 1人でいるのは少し寂しいですけれど、何も見世物になる事を望んでいる訳じゃありません。

 

 まずは壁の中に潜って都市に入るとして……その後どうしましょうか?

 初日は夜だけ活動して後は様子見で良いと思いますが、夜までの間何処に行くか。

 さすがに壁に8時間ほど埋まったままというのは精神的にキツイでしょう。

 幽霊になった影響で多少はましになるかもしれませんが……。


 てなわけでどこかのお店にでも滞在させてもらいましょうか。

 ま、滞在と言っても店にある家具か何かに隠れるだけですけど。

 本当ならば他人の家の方が落ち着くのでしょうが、流石に他人の家に踏み込むのは気が引けます。


 で、時間を潰す場所は決まりましたが今夜は何を観光しましょうか?

 料理は見ても仕方がないですから建物とか芸とか後は……隠し通路探しとかですかね?

 これだけの都市であればいくつかはあるでしょうし、人に姿を見られる事なく出来そうです。

 それに元クラスメイトと合流した時の手土産には丁度良い情報かも知れません。


 とは言えこのまま外にずっといるのでは捕らぬ狸の皮算用ですか。

 まずは左右の確認をして……よし、誰も来ていません。

 では行きましょうか。

 壁にはあんまり潜り込みたくないですけれど。


 ……やっぱり物の中、それも視界が全く確保出来ない物の中にいると圧迫感が凄いです。

 ただでさえ五感の内の3つがダメになっているというのに視覚さえも封じられ続けると気が狂いそうです。

 まるで感覚という感覚が狂いだしているような、そんな感覚です。


 ……マジでダメだわ、これ。

 一瞬でも視界を外に出さないと精神的に死ぬ。

 傍から見たら透明な生首が壁に埋まっているというカオスすぎる状況になってしまうのでしょうが……ま、それは仕方ないか。

 最悪お尋ね者になっても生きていけるし。

 多分。


 そんなわけで壁から顔を出してみましたが……おおっ!

 これが魔族の王都の景色ですか!

 THE・中世って感じですごい雰囲気がありますね!

 ちらほらと見える魔族の外見は、ツノが生えていて肌の色が褐色である事以外はそこまで人族と変わらないみたいで割とすぐに馴染めそうです。


 ……ただ、通行人の20人に1人がアンデッドというのは少し受け入れ辛いような。

 嫌いという訳でもないけれど脳が麻痺しているというか。

 毎日朝から晩まで、いや24時間365日ハロウィン状態というのは……。


 そんな事はともかく、今のところは誰にも気が付かれていないようだと。

 まぁ壁に何者かがめり込んでいるなんて考える事もないでしょうから当然ですか。

 ただ、これ以上壁の外に出れば見つかるかもしれませんね。


 さて、中央に見える厳めしい城が恐らく魔王城ですよね。

 つまりあそこに元クラスメイト達のターゲットの魔王がいると。

 後で侵入してみましょうか?

 観光もしたいですし、それに魔王城にどんな罠が在るのかとか魔王がどんな人物なのかとか気になりますし。


 でもまずは普通の魔族がどんな生活をしているのかやアンデッドがどんな暮らし方をしているのかを見たいですね。

 やっぱり異世界に来たならばその地の文化は知っておかないと。

 もちろん、コソコソ隠れながら調べますけど。

 ま、まずは夜まで何処かでやり過ごしますか。



 おお、ここの店は良さそうですね。

 かなり古い店のようですがしっかり手入れはされていてカウンターも椅子もピカピカです。

 バーをやっているお店のようで、まだ開店時刻ではないというのも良いですね。

 未成年なのでバーに入るというのはあまり良くないような気もするのですが……ステータス上は?歳でしたし問題ない問題ない。


 マスター、誠に勝手ながら暫くの間居座らさせてもらいますよ?

 拒否権はありません。

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